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七十二話 物語の始まりの始まり。

 ここは……地下室のような場所。


 風の流れもなく、暗く。


 湿度が高くじめっと湿っていて、少しカビ臭い。


 天井から落ちた水滴がぽちょんと音が鳴り響いた。


 遠くにぼやっとした微かな灯りが見える。


 コツ……。


 コツ……。


 コツ……。


 灯りが強くなっていき、人の足音が壁に反響するように聞こえてきた。


 しばらくすると、肌色が病的なほどに白く、げっそりと痩せこけた男性がランプを片手に姿を現した。


 その痩せこけた男性は煌びやかな衣服に、宝石があしらわれた金銀のアクセサリーを身につけていた。朽ちかけている地下室にやってくるには場違いのように感じてしまう。


 彼の灯りによって周囲が照らされた。


 そこは岩を積まれて作られた二十畳ほど広さの部屋であった。


 痩せこけた男性は部屋に入って、ランプを床に置く。


 そして、部屋の奥の壁に視線を向けると、不敵な笑みを浮かべた。


「ケッケッケッケッ……ここだ。ようやく見つけたぞ」


 部屋の奥の壁には大きな扉があって、その扉には円形の図形に太陽や月の図形、幾何学模様が刻まれていた。


「俺が……ここに封印されている魔人どもを従えて……俺を否定したすべてを殺し、真なる王になり」


 痩せこけた男性が一人ごちると、右手が薄く仄かに光だした。


 その右手が大きな扉に触れた瞬間、扉に刻まれていた円形の図形に太陽や月の図形、幾何学模様に光が広がっていく。


「ケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッ……最高だ!」


 光は大きくなって……大きな扉がギギィと思い音を響かせて開いた。


「はあ……俺が世界のすべてを手にいれる。今日は、すべての始まりの日である」


 その日、世界に厄災が解き放たれることになる。


 そして、これは新たに語り継がれるであろう、英雄物語のプロローグとなる。

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