六十三話 でっか。
ぐおおぉおおおおおおおおお!
巨大な黒熊は叫び声を上げた。そして、アレン達を標的に決めたのか、突進するように突っ込んできた。
……うむ、冒険者ギルドで聞いていた黒熊よりもでかくないかな?
黒熊は一、二メートルほどの巨体であったはず。
しかし、目の前に居る黒熊は三メートルを軽く超える巨大な黒熊である。
まぁ、魔物で言えばB級の魔物か? 普通の黒熊はD級の魔物ってところだったから、突然変異種と言うヤツだろうか? それともボス的な?
俺からしたらB級以下の魔物のレベルはほとんど差を感じないから近づいてくるまで気付かない。
ただ俺からしたらどうってことないけど、リナリーには厳しいな。
リナリーの今まで使っていた魔法では、仕留めることは難しく。逆に殺されてしまう。
そもそも、D級の冒険者パーティーで討伐できるレベルの獣では絶対にない。
冒険者ギルドが、クエスト難度を間違えた?
いや、さすがにそれはないか? まぁ、何にせよ。今は……
一瞬、考えを巡らせていたアレンはリナリーの前に出て、盾を構えた。
「リナリー、ここは魔法を目くらましにして撤退だね」
「え、なんでよ?」
「なんでって……あのサイズは規格外だ。あんな巨大な黒熊が居るなんてクエストには書かれていなかったろ? これは少なくともD級の冒険者……いや、俺達に討伐できるレベルじゃない」
「大丈夫よ。誤差の範囲内じゃない……私の魔法なら!」
「……わかったよ。一応俺も準備しておくか【ファイヤー】」
しぶしぶと言った感じで了承するとアレンは盾を片手で持ち直した。そして、盾の裏に刻まれていた火属性魔法の【ファイヤー】の魔法陣に触れる。
アレンが触れた【ファイヤー】の魔法陣は薄く光り出した。
「けど、素材とか言ってられないわね。けど、私が真っ二つにするから大丈夫よ【エアーカッター】」
リナリーはアレンの後ろから少しずれて、黒熊を見据えて右腕を上に掲げる。
リナリーが風属性の魔法【エアーカッター】を唱えると、掲げていた右手の指先が薄く光を帯びる。
リナリーが掲げていた右手を黒熊に向けて素早く振り下した。
掲げていた右手を振り下すと、直線的に圧縮された空気の刃が黒熊に向けて放たれる。
以前、ブレインの森の草木を切り裂いた時よりも威力が高いようで、その空気の刃は地面すらもえぐりながら黒熊へと凄まじいスピードで向かっていく。
そして、リナリーが放った空気の刃は黒熊の左肩に突き刺さって、ぶしゃっと血が飛び散る。
「やった!」
「いや……」
ぐおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
リナリーが喜びの声を漏らす。ただ、黒熊は咆哮を上げた。そして、止ることなくアレン達へと迫ってくる。
「な……ひっ」
リナリーは魔法で仕留められなかったことに戸惑いの色を見せ。そして、迫ってくる黒熊の咆哮による迫力にあてられた恐怖に顔をゆがめた。
そのリナリーの様子を見たアレンは素早くリナリーの服を引っ張って自身の後ろへやる。
「リナリー後ろに!」
ぐおおぉおおおおお!
仁王立ちになった黒熊は大木のように太い腕をアレンへ向かって真横に振り抜く。
対して、アレンは盾を構えて、防御の体勢に入る。
ギャアン!!
黒熊の鋭い爪とアレンの盾が激しくぶつかり合う。
アレンは黒熊の鋭い爪を受けた瞬間、盾の角度を変えて力を受け流してみせる。
しかし、すべての衝撃を受け流すことをできずに地面が少しゆるい土と言うこともあって、アレンは後ろにいたリナリーとともに後ろに押しやられる。
「リナリー、次の魔法の準備を……」
「う、うん。【エアー……】」
ぐおおぉおおおおお!
攻撃されるのを察したのか黒熊は両腕をアレン達に向かって連続して振り抜き、猛攻を加えてくる。
黒熊の攻撃を盾で防ぐことができたが、攻撃を防ぐたびにアレンの体は後ろにやられた。
それは、もちろんアレンの後ろに控えていたリナリーも同様に後ろにやられ、唱えようとした魔法を途切れさせてしまう。
「ちょっと、もう少し踏ん張ってよ」
「……地面が滑るんだって」
ギャアン!!
再び、黒熊の鋭い爪とアレンの盾が激しくぶつかり合う。
「きゃ!」
「……仕方ない。黒熊に一回隙を作るから、その隙を狙って最大の魔法を打ち込んで」
「な……どうやって」
「どうやって……ってこうやって。やっと、いい感じに温まってきたし」
「……え?」
リナリーが黒熊からアレンへと視線を向ける。すると、アレンの持ってした盾の白銀の金属部分が高温により真っ赤に染まって、刻まれた龍が浮き上がって見えた。
次の瞬間、盾の白銀の金属部分から発火して……盾の表面が炎を纏っていた。
アレンはその盾を……振りかぶって黒熊へ投げつけたのだ
「てや」
ぐおおぉおおお!
飛んできた炎を纏った盾を黒熊はすでにリナリーの魔法で傷ついていた左腕を犠牲にしながら受ける。
ただ、それでも黒熊は左腕が落とされ、後ろに吹き飛ばされ倒れてしまった。
「リナリー! 今!」
「……っ! 【ファイヤーボール】」
リナリーは追い打ちをかけるべく火属性の魔法【ファイヤーボール】を唱える。
すると、掲げていた右手の上に二メートルほどの火の玉が出現させて、それを倒れた黒熊に打ち込んだ。
ぎゃおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
黒熊は全身を炎に包まれる。
「これでどう……う」
バタン。
「おっと……魔法の使い過ぎて倒れたか」
リナリーは魔法を使いすぎたようで、倒れてしまった。アレンは咄嗟に倒れたリナリーの体を支える。
「だけど、相手は大丈夫そう」
アレンの視線の先には、炎を振り払った黒熊が立ち上がっていたのだ。そして、怒り狂った黒熊がアレン達へと迫ってくる。
「……仕方ない、逃げるか。盾は後で回収しよう」
アレンが逃げるべくリナリーを抱きかかえようとしたところで人影が現れた。
その人影は長剣を鋭く突きだした。
「【ブリューゲルの閃光】……!」




