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六十一話 盾。

 アレンが不意に一軒の武器や防具が並んでいる店の前で立ち止まった。


 そこでリナリーは興味深げに武器屋を見ると、再びアレンへと戻してアレンに問いかける。


「へぇー……この武器屋で、アレンの武器を購入したの?」


「あぁ、盾をね。ただ、俺の体に合う頑丈な盾がなくてオーダーメードになっちゃったんだけど」


「え、それって高いんじゃないの?」


「うん。高かったけど、必要になるものだからね」


「そうね。早く入りましょうよ」


 リナリーはアレンの服の袖を引っ張って、武器屋の中に入っていく。


 アレンとリナリーが武器屋の店内に入ると、カウンターに立っていた男性が気付き声を掛けてきた。


「お、坊主来たな。なんだ、女連れか? 羨ましいな」


「こんにちは。リナリーはパーティーメンバーだよ。それで武器を取りに来たんだけど」


「あぁ、できているぜ。うぐぐ……よっこいしょっと」


 武器屋の店員が重たそうにカウンターの上に置かれたのは、黒色の半楕円形の盾であった。


 盾の表面に白銀色の金属が使用されている部分があって、そこにはとぐろを巻いた龍が彫り込まれた。


 そして、気になるのは下の部分に白銀色の剣先のような鋭い突起があった。


「お……イメージ通りだよ。ちなみに龍の掘り込みは頼んでないけど……」


「ガハハ、なかなかの迫力でカッコいいだろ? 何もないのは寂しいと思ってな。俺からのサービスだ」


「まぁカッコいいが……ここでも龍を背負うのか」


「ん? どういうことだ?」


「いや、なんでもない」


 アレンは盾を持ち上げて、裏返してみせる。


 盾の裏には取手と、その取手の周りにいくつかの魔法陣がすでに刻まれていた。


「ん? この盾の裏に魔法陣はなんのために? 火属性の魔法【ファイヤー】、風属性の魔法【エアー】、土属性の魔法【ロックブロック】、水属性の魔法【ウォーター】、肉体強化魔法の【パワード】……下級の魔法の魔法陣が刻まれているようだけど?」


「んー何に使えるかは分からん」


「ふふ、何よそれ。じゃ、何のために魔法陣なんて?」


「俺はリナリーと違って魔法陣がないと下級の魔法もうまく使えないんだ。だけど、一回一回魔法陣を書くのは面倒だから」


「なるほど、それで……事前に自分が使えそうな魔法を刻んだという訳ね」


「うん。冒険者ギルドで剣に魔法陣を刻んでいるの人をたまたま見かけたから、真似してみたんだ」


「そうなんだ……へぇーそう言う武器も面白そうね」


 リナリーはそう呟くと何か考えながら、視線を巡らせる。対してアレンは武器屋の店員へと視線を向けて問いかけた。


「さて、手に取ってもいいのか?」


「あぁ、もう金は受け取っているかならな。もう坊主のだ……しかし、坊主の要望を応えるためにかなり重くなっちまったが扱えるのか?」


「俺は力持ちだから、このくらいなら……」


 アレンは盾を手に取ると、盾の裏にある取手を掴んで構えてみせる。


 大人からしたら、普通の片手装備の盾であった。


 しかし、アレンが装備すると足と目元から上以外、アレンの小さな体が隠れてしまうくらいに大きい盾である。


 その様子を見ていたリナリーが小さく笑った。


「ふふ、その盾と比較するとアレンは本当に小さく見えるわね」


「ぐ、俺はまだ身長は伸びているから、もう少しでこの盾もぴったりサイズになるさ」


「私には将来のことは分からないけど、現時点で扱えるの? あと、盾と荷物も持つんでしょ? さすがに重いんじゃないの?」


「んー確かにちょっと重いけど。扱えなくもないかな」


 アレンはひょいっと店の真ん中に移動して盾を構えると、前に突き出したり、後ろに構え直したり、盾を扱う。


 更に盾を上下逆に持ち直して、盾の下についている剣先のような突起を前に突き出し、振るってみせた。


「いやースゲーな坊主! 正直、坊主が扱えるか不安だったんだよ!」


「凄い……本当に呆れるほどにバカ力ね」


 武器屋の店員は目を見開いて驚き、リナリーは呆れたような表情を浮かべた。


「んー良い盾だ」


「坊主は見かけによらず、盾の扱い自体が上手いな。俺の目には一瞬歴戦の戦士のように映ったぞ?」


 武器屋の店員の問いかけに一瞬間を置いて、アレンは考えを巡らせた。


 しまったな。


 ゆるく動いたつもりだったんだけど、久しぶりに盾を持ったからいろいろ動きを試したくなってしまった。


 まぁ……適当に言い訳しておくか?


「歴戦の戦士? それは大げさだよ。……昔から、罠にかかった獲物を回収する時には木の盾を持って行っていたからね。それで、まぁまぁ使えるようになったのかな?」


「そうか? 十分に素質があると思ったが? 何なら、騎士団に俺から紹介状を書いてやろうか?」


「え、しょ紹介状?」


 武器屋の店員の提案にアレンが戸惑いの表情を見せる。そして、アレンはどうしたものかと考えを巡らせようとした。


 その時、リナリーがアレンと武器屋の店員の間に割って入って、武器屋の店員に向けて声を上げる。


「だ、駄目よ! アレンは私が先に見つけたのよ! 私と冒険者やるんだから!」


 リナリーの威嚇するような視線と表情に、武器屋の店員は若干怯んで謝った


「いやーこれはすまん。すまん。先約があるよな」


「ハハ、そういうことらしいよ。それに……騎士団とかには興味がないよ」


 アレンは苦笑しながら、リナリーの肩にぽんと叩いて進み出た。


 そして、アレンはカウンターに持っていた盾を置いて、武器屋の店員へと視線を向ける。


「ふ、そうか……突然、変なことを言っちまって悪かったな」


「あ……えっと、私も突然怒鳴って悪かったわ」


 武器屋の店員とリナリーは互いに、申し訳なさそうに謝っていた。


「じゃ、俺達はそろそろ行こうかな」


 アレンは武器屋の店員に声を掛けると、アレンとリナリーが連れだって武器屋を後にするのだった。

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