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四十話 ルーシー。

 アレンは森の中で見つけた切り株に腰かけて休憩していた。


「確か……水を入れて。あった」


 背負っていたリュックに入れていた水の入った瓶を取り出した。


 そして、水の入った瓶から木のコップに水を注ぐ。


 アレンは木のコップに入った水を一気に飲み干した。


「ふう……さて、このくらいでいいかな?」


 アレンは視線を下げる。


 その視線の先には丸く太った茶色の鳥が六匹転がっていた。


「まぁ、あまり多すぎてもびっくりされるか……それにしても……」


 アレンは切り株の上でゴロンと寝転がった。


 木の隙間から春の暖かな光が差し込み、暖かで緩やかな風がアレンの銀から赤茶色に染まった髪を揺らす。


「今日は良い陽気だなぁ。ふぁふぁ」


 アレンは深く呼吸をすると、ゆっくり目を閉じた。




「きゃー」


 ……?


「いやーだれか……!」


 んー?


「ふぁふぁ……いかん、あまりに危険を感じないから……マジ寝していた」


 アレンは欠伸をしながら、起き上がる。


 そして、眠たげな眼で辺りをゆっくり見回した。


「んーなんか……叫び声が聞こえた気がしたんだけど? んー?」


 まだ眠たげにしながらも、アレンは切り株から立ち上がる。


 そして、ストレッチするように体を伸ばした。


 その時、アレンの視線の先にあった草むらから、茶髪の女の子が勢いよく飛び出してきた。


「きゃー!」


「んお?」


 茶髪の女の子が飛び出してきた女の子を見て、アレンはストレッチしていた体勢のまま驚きの声を漏らす。


 ただ、更に茶髪の女の子の後ろからは猪が叫び声を上げて飛び出してきた。


「ふごー!」


「きゃぁああ……きゃ!」


 アレンを目にした茶髪の女の子がアレンに助けを求めるように、駆け寄ろうとする。


 しかし、茶髪の女の子は土から出ていた木の根っこに足を取られてこけてしまう。


「あぶな……っての!」


 アレンは咄嗟に地面を強く蹴って飛ぶ上がり、猪の後頭部目掛けて綺麗な跳び蹴りを食らわせるのだった。


「とや!」


「ウゴーーーッ!」


 飛び蹴りを食らった猪は叫び声を上げた。


 猪は怒ったのだろう鼻息を荒くして再びアレンと茶髪の女の子に襲い掛かろうと、右足で地面を蹴っていた。


 それでも、猪に向けてアレンが睨みをきかせると、体を震わせて逃げていってしまった。


 猪が森に消えって行ったのを見送ったアレンが振り返ると、気を失っている茶髪の女の子が居た。


「……えっと、大丈夫か? おーい」


 茶髪の女の子に近づいて、アレンはしゃがみ込む。


 茶髪の女の子は、十歳……いや、十歳よりも少し幼く見えた。


 外見は平凡な顔立ちだが、垂れ目なのが可愛らしい。そして、鼻の辺りにあるそばかすが印象的である。


 アレンが茶髪の女の子の頬を軽くペチペチと叩くと、茶髪の女の子はすぐに起き上がって猪を警戒した。


「んーん、ん……はっ! 猪!」


「……」


 アレンは茶髪の女の子の言葉を聞いて黙った。


 えっと、この茶髪の女の子はパルストール語を話しているな?


 だとすると、やっぱり、ここは帝国の領地なのだろうか?


 この子に聞いてみるか……?


 まぁ、さすがに相手は子供である。疑われたりしないよな?


 しばらく考え事をしていたアレンを不安に思ったのか、茶髪の女の子が上目遣いで問いかける。


「お兄ちゃん? あのさっきの猪は?」


「大丈夫、石を投げたら逃げて行ったから」


 茶髪の女の子の問いかけに、アレンはニコリと笑ってパルストール語で話しかけた。


「そうなの?」


「うん、そうなの。えっと、送っていくよ? そうだ。俺はアレン。名前を聞いてもいい?」


「私はね。フーシ村のルーシーだよ」


「ルーシーだな。じゃ行こうか? 立てるか?」


「う、うん……あ、痛い」


 アレンが茶髪の女の子……ルーシーへ手を差し伸べて立たせてあげようとした時、ルーシーは痛そうに表情を歪めた。


「大丈夫か? えっと、足を捻ったみたいだな」


「うん……痛い」


「そうか。けど、泣かないのは偉いな。じゃ……家まで運んでやるよ」


 背中にリュックを背負っていたアレンはルーシーをひょいっと持ち上げると、お姫様抱っこした。


「わあ!」


「ちゃんと、捕まれよ」


「う、うん、ありがとう」


「そのルーシーの村はどっちなんだ?」


「あっち!」


 アレンはルーシーが指さした方に、ゆっくり歩きだす。


「そういえば、ルーシーの村には食べ物を売ったり買ったりできる場所ってあったりするか?」


「んー? お店?」


「うん、お店。村から出たことなくて……この辺のことよくわからないんだ」


「んーお店は無いよ」


「そうかー」


「アレン兄ちゃんはお店に行きたいの?」


「うん。買い物してくるように言われて」


「そうなんだぁ。えっとね。えっとね。フーシ村の近くに大きい街……んーと確かリンベルクの街があるんだ」


「そうなんだ……リンベルクの街ね」


「うん、お母さんが畑で取った野菜とか売っているんだぁ」


「ルーシーの母さんは野菜屋さんなんだな」


「うん」


「ルーシーはリンベルクの街には入ったことはあるのか?」


「一回だけ入ったことあるよ」


「そうか。どんなところだった?」


「えっとね。えっとね。人がいっぱい居たよ。それとね。それとね。お家が高いの」


「そうか。そうか……すごい街なんだな」


「うん、すごいんだ」


「その街で……買い取ってもらうかなぁ」


「ん? 何が?」


「あぁ。よっと、これを売ろうと思っているんだ」


 アレンはルーシーを抱え直して、空いた手で先ほど捕まえた鳥を持ち上げてみせる。


 すると、ルーシーは目を見開いて驚きの声を上げた。


「え、えええ、すごい。それって……!」


「ん? この鳥がどうしたんだ?」


「えっと、えっと、ガーホ鳥!」


「へーこの鳥、そんな名前なんだ」


「すごく捕まえるのが難しいんだけど、美味しいんだよ?」


「この鳥、美味しいんだな」


「美味しいんだけど……お祝いの時しか食べることができないんだぁー」


「ふーん、じゃ一羽やるよ」


「え、くれるの!?」


「うん、いいぞ。いろいろ教えてくれたしな」


「本当にありがとう!」


 ルーシーはバッと起き上がって、アレンへと抱き付いた。


「おっと、あぶな。まぁ、いっぱい食べて大きくなるんだな」


「うん。ふふ、お兄ちゃんなら結婚してあげてもいいよ」


「ふ、ありがとさん。けど、そういうのは大人になってから言うんだな」


「むぅ……私、八歳だからもう少しで結婚できるんだよ?」


「八歳でもう少しで結婚? そうだったけ?」


「ん? お兄ちゃんの住んでいた村では教えてくれないの? クリスト王国ではえっと……男の人が十二歳で女の人が十歳から結婚していいんだって」


 アレンはルーシーの言葉を聞いて、黙る。


 結婚できる年齢よりも……気になるのはクリスト王国?


 何、そんな国聞いたことがないんだけど……?


 確か、以前見た地図にもそんな記載はなかったと思うんだけど?


 帝国の更に向こう側にある国か?


 いや、俺は広大な帝国の国土を抜けることはできていないはずだが?


 じゃ……クリスト王国とは何ぞ?


 もしかして、帝国の属国とか?


 それなら、ルーシーが帝国の言葉を話すのはおかしくないよな。


 いや、待てよ?


 属国ならば、国名に王国なんてつけないよな?


 あ……小さすぎて王国が認識できていない国だったとか?


 んーそれもおかしいか?


 いくら小さくても、地理的にそこまで離れていない国を認識していなかった?


 いや、単に知らなかっただけ?


 詳しくルーシーに聞きたいところではあるが……これ以上聞くと変に思われるよな。


 黙って考えていたアレンの顔を覗き込むようにルーシーが問いかける。


「お兄ちゃん黙ってどうしたの?」


「いや、なんでもないよ……あ、なんか建物が見えてきたけど」


「うん、あそこがフーシ村だよ」


 それからアレンはルーシーを家まで送り届けると、ルーシーと別れたのだった。


◆◆◆


 読んでいただきありがとうございました。もし……少しでも面白いと思ったら、お手数ですが……評価とブクマをいただけると作者が元気になりますのでどうかよろしくお願いします。ヾ(๑╹◡╹)ノ"


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