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三十二話 鎧兵。

 鎧兵はまずアレンへと右手に持つ赤い剣を振り下した。


 直線的な剣筋にアレンは難なく躱す。


 赤い剣はアレンを切り裂くことなく地面に叩き付けられて、地面を割って見せた。


「おぉ、威力はなかなか……っと」


 アレンが割れた地面をみて感心していると、鎧兵の左手に持っていた青い剣が真横から振り抜かれた。


 真横に振り抜かれた青い剣に対して、アレンはのけぞると同時にナイフを当てることで剣の軌道を変えて、寸前のところで避けてみせた。


「はぁ、これはなかなか。【パワード】」


 アレンは強化魔法の【パワード】を使用した。すると、のけぞった体勢から弾けれるように飛び上がって鎧兵へと向かっていった。


 アレンはナイフを構えて、目を瞑った。


「えっと、ラーセットは確かこんな感じに……【首切り】」


 アレンは【首切り】と呟いて……飛び上がった勢いそのままにナイフをまっすぐに鎧兵の喉元の鎧と鎧の継ぎ目辺りに突き立てる。


 そして、鎧兵にしがみ着くと真横へナイフを引き抜く。


「普通なら……これで倒せるんだけどなぁ、と危ない」


 鎧兵は首元を切り裂かれたにも関わらず、しがみ着いたアレンを振り払おうと青い剣をアレンへと振るった。


 アレンは鎧兵が付けていた黒い仮面を足蹴りにして飛び退いて、青い剣も躱してみせる。


 ただ、鎧兵はへこませるほどに地面を強く蹴って、飛び上がって空中にいたアレンへと赤い剣を斜めに振り上げた。


「やば……急に早くなりおる」


 アレンは咄嗟に、鎧兵の赤い剣をナイフで受けようと構えた。


 ただ、そのタイミングでノヴァが鎧兵へと襲い掛かって、鎧兵の体勢を崩す。


 ノヴァが鎧兵の体勢を崩したおかげで鎧兵の赤い剣は空を切って、アレンは退避するように下がった。


「ナイスタイミングだ」


「もう少し慎重に戦わんか」


 ノヴァも鎧兵の剣を躱しつつ、アレンの隣へと下がった。


「加速が急すぎなんだよ。それに人形の癖になかなか器用でびっくりした」


「うかつなんじゃ」


「ノヴァはまだ早くなると思う?」


「おそらく」


「そうか、厄介だな。てか、鎧と鎧の継ぎ目にナイフ刺してみたけど、効果ないみたいだな」


「うむ、ユリーナは胴体の辺りに魔晶石があると言っておったからの。そこを狙うしかないじゃろう」


「そうか……と言っても胴体はかなり頑丈な作りしているから、なかなか難しそうだ」


「じゃな。では、どうする?」


「まずは、最近運動不足で鈍った体を準備運動がてら動かしたいな。次いで何とかして俺の武器を手に入れたいかな? やっぱりナイフはリーチが短すぎて使いにくいや」


「はぁ……仕方ないの」


 アレンとノヴァが話しているところに鎧兵が剣を振りかざして、突っ込んでくる。


 すると、鎧兵の攻撃から逃れるようにアレンとノヴァはそれぞれ左右に別れて走り出した




 場所が変わって闘技場の入り口。


 ここでは鎧兵と戦っているアレンとノヴァの姿をホランド達が眺めていた。


「す、すごい……なんで、あんな予知したように剣を避けられるんだ?」


「やっぱり、すごいッス」


「ナイフ一本しか使ってないのに……なんであそこまで戦えるの?」


「ふすん、ノヴァとの連携が……すごい」


 ホランド、ノックス、リン、ユリーナがそれぞれ真剣な眼差して戦いの様子を見つめながら、愕然とした表情で呟いた。


 ホランド達の目の前でアレンが【パワード】の強化魔法を使った、その瞬間彼らの視界からはアレンの姿が一瞬消えた。


 次に姿を現したアレンは鎧兵の黒い仮面に、飛び蹴りを加えていた。


 その蹴りを受けた鎧兵は体勢を崩す。


 アレンは蹴りを入れた反動を利用して、後ろに飛び去った。


「今、一瞬アレンさんの姿がまた消えたッス!」


 ノックスが興奮した様子で声を上げた。


 対して、ホランドが口元に手をあてて考えを呟く。


「瞬間的に移動した? どんな魔法を使っているのだろうか? えっと、時空間属性の魔法というヤツがあったか?」


「ホランド……たぶん、アレは瞬間移動とかじゃない。そもそも、アレンさんはかなり魔法に制限があって使えない」


 ホランドの考えを否定するように、ユリーナが首を横に振った。


「じゃあ、さっきのアレは魔法じゃないのか?」


「ううん、たぶん。普通……あり得ないけど……前に見せてもらった強化魔法の【パワード】だと思う」


「【パワード】は前にアレンさんから見せてもらった魔法だったな。しかし、姿が消えるほどに肉体を強化できる魔法だったのか?」


「だから、普通あり得ないと言った。たぶん、魔法を使う前からアレンさんの肉体がそもそも強すぎるから更に強化したら……ああなるんだと思う」


「……」


 ユリーナの言葉を聞いてホランドは黙った。その代わりにノックスが口を開いた。


「やっとわかった気がするッス。アレンさんのあの言葉の意味が……」


「何、アレンさんの言葉?」


 リンが首を傾げてノックスへと問いかけた。


「アレンさんと一緒に夜の見張りをしている時に魔法の話になったんッスよ。俺は早く魔法を使いたくていろいろ聞いたんッスけど、その時アレンさんは『……本格的に魔法を教える前に言っておく必要があるな。魔法とは万能ではない……不安定で不確かな力だ。だから魔法を使えたからって自分が強くなったと思うなよ?』と言ったんッス」


「え、それはどういう?」


「よくわからなかったから俺も問いかけたッスよ。そしたら『魔法を使う者は、神の力にも近しい万能の力を持ち……、自分は特別なんだと勘違いする。実際、自分が特別なんだと過信して、身を滅ぼしたバカたれが何人もいる。結局のところ魔法は神の力でもなんでもなく……ただの道具に過ぎない、道具を生かすも殺すも自己の鍛錬次第。自分がどのように強くなれば魔法をよりうまく使いこなせるようになるのか、そのことを考え続けるのを怠るなよ』って言ったんッス。今のアレンさんの強さは強くなることを考え続けた先にあるモノなんッスかね」


 ノックスはそう言って、まっすぐアレンが戦う姿を追う。ノックスの言葉を聞いたホランド、リン、ユリーナは黙ってアレンの姿をまっすぐ見つめるのだった。

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