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二十三話 ヌシ。



「さて……切り上げるか」


「そうッスね」


 昼前、アレンとノックスが釣りを切り上げようと、釣竿を上げようとした時だった。


 湖の水面に大きな魚影がぼやっと浮かんできた。


 そして、アレンの釣竿が今まで以上に大きくしなった。


「うお! なんだ!? 突然!」


 突然の大きな引きに、アレンの小さな体が湖の中に引きずりこまれそうになる。


 アレンは何とか踏ん張るが、釣竿が大きくしなって……釣竿からはミシミシと木に亀裂が入っている音が聞こえてきて今にも折れてしまいそうである。


 アレンの仕掛けに食いついた魚の魚影を目にした、驚いて声を上げる。


「こ、これは……すごい大物ッスね」


「待て……そんな引っ張ると釣竿が折れるって、これは駄目だろっ」


「あ、アレンさん」


 踏ん張りの効きづらい砂利のため、アレンは湖の中にズルズルと引きずりこまれていく。


 ノックスもアレンを追いかけて湖の中に入ってアレンの体を掴んだ。


 アレンとノックスとは水に浸かり、釣竿を引いて踏ん張っていたが……。


 バキッ!


 先に釣竿が音を上げて、折れてしまった。それによって掛かっていた巨大な魚は逃げて行った。


「あぁ……」


「残念だったッスね」


「そうだな。かなりでっかかったよな」


「そうッスね」


「びしょびしょになったというのに……もう帰るぞ」


 アレンとノックスは湖を出ると、軽く濡れた服を絞って水気を切ってアレン達が野宿している洞窟へと戻ったのだった。




 アレンとノックスがリュックに加えて釣果ちょうかの入った桶を抱えながら、アレン達が野宿している洞窟へと向かって森の中を歩いていた。


「アレはやっぱり……あの湖のヌシだったんッスかね?」


 ノックスは先ほど逃がした魚の話題を出して、アレンに話を振った。すると、アレンは悔しそうに呟く。


「あぁ悔しいな。明日……次の機会には釣りたいな」


「そうッスね。ヌシ釣りたいッスよね」


 アレンとノックスが雑談していると、森を抜けて洞窟に辿りついた。


「あ、お帰りなさい」


「お帰り」


 アレンとノックスが洞窟に戻ると、ホランドとリン、ユリーナ、ノヴァが洞窟の前でしていた焚火を囲んでくつろいでいた。


 ちなみにノヴァはリンの膝の上で寝ている。


 ホランド達の様子を見たアレンはニヤリと笑って口を開く。


「ただいま、何だ。元気そうじゃないか。今日は休みにしなくても本当によかったかな?」


「ハハ、一回寝たら。嘘みたいにすっきりしていたんですよ」


 アレンの問いかけにホランドは少し照れたように頭を掻きながら答えた。


「そうか。まぁ、何にせよ。体調が戻ったならいいな、ってそうだった。雲行きがって……この話は昼飯を食べてからでいいか」


「うぬ! 飯か!」


 アレンの飯と言う言葉に反応したノヴァがバッと顔を上げた。そのノヴァを見て、アレン達は一斉に笑い出した。




 二十分ほどで先ほど釣った魚を塩焼きにしてアレン達は昼食となった。


 昼食を食べながらアレンは雲行きが悪く明日以降の天候が心配だと言うこと、そして、今後の予定を変えることを話し終える。すると、串にささった魚の塩焼きを食べていたホランドが頷き答える。


「あむあむ、なるほど雲行きが」


「うん。なんか明日から雨が降りそう……あむ」


「しかし、アレンさんとノックスだけでこの森……ユーステルの森を歩くのは危なくないですか?」


「いや、さっきも湖までの間、森の中を二人で歩いていたんだけどな。まぁ、そこまで遠くに行くつもりはないから大丈夫だろう。それより洞窟の掃除を頼むぞ? あと、屋根も」


「そうですね。こっちも頑張りますよ」


「それから、ノヴァの奴もこき使っていいからな?」


「えっと、なんか……伝説の獣であるノヴァさんに雑用をさせるのはなんだか申し訳ないような」


「いや、大丈夫。飯食った分の仕事をさせろ」


 アレンはそう言って大量に焼き魚を食べているノヴァを指さした。すると、アレンの言葉を聞いたノヴァ不服そうに小さく唸ると、食べるのをやめて口を開く。


「ヴヴ……心外じゃぞ。吾輩がまるで何もしてないみたいな言い方を」


「何かしていたのか?」


「アレンに言われた通りに、ちゃんと周囲警戒をしておったわ」


「そうか? さっき寝てたけど」


「寝ておっても周囲の気配くらい感じとれておるわ。吾輩を舐めるでないぞ」


「そうか? なら、午後からは周囲警戒しつつも、荷物運びとかもできるか? いや、愚問だったな。ノヴァにとってはそのくらいは楽勝か?」


「当たり前であろう。吾輩に任せておれ」


「そうか。ノヴァがいてくれたら安心だな」


「フスン! 大船に乗ったつもりでいるがいい。あむあむ」


 偉ぶるノヴァは鼻を鳴らした。そして、再び焼き魚にかぶりついて食べはじめた。


 アレンはノヴァの様子に少し苦笑すると、またホランドへと話を振る。


「まぁ、ホランド。ノヴァはこんな感じでノヴァは使える奴だから、うまく使え」


「は、はい」


「今日は一日休みの予定だったが。雨が降ると言うなら話は別だ。対策を急がないといけないから頼むぞ。お前らも」


 アレンはホランドからその場にいる全員に視線を向けて言った。すると、全員から了解の声を上がった。


 昼食後、明日から降ると思われる雨の対策のためにアレンの指示通りに従って、それぞれ行動を開始するのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 一応死を偽装したとはいえ 追放された国の国境?から徒歩四時間程度のところは隠棲するには近すぎないかなあ 炊事の煙とか見えそう 森の奥は危険すぎるからかな?
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