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二百話 予想外。

 ここはアレンが住んで居る屋敷。


 その食堂にてアレンが遅い昼食を食べていた。


 アレンの前には具だくさんのスープとパン、紅茶が並んでいる。


 アレンがパンを千切ると、口の中に放り込んで飲み込む。そして、アレンは同様に食事をしていたコニーへと視線を向けた。


「俺を嗅ぎ回っている連中のことはわかった?」


「ぴぴ、アンタの尾行者なんて上からは丸見えよ」


「そうか……それでどんな奴だった?」


 アレンの問いかけに、コニーは目の前のたくさんの果物をつまみながら考える仕草を見せる。


「どんな奴だったかと言うとー。簡単に言うと獣人だったわね」


「獣人?」


「そう、獣の耳があったし、尻尾もあったわ」


「むう。そうか。それは間違いなさそうだな。ありがとう」


「ぴぴ、あたりまえでしょ? 私はあの馬鹿犬じゃないんだから」


「仲良くなってくれると嬉しいなぁ……まぁ、今それは良いとして……あそこまでの尾行術を持っているとなると」


 アレンは考えを巡らせながら、目の前のスープをスプーンで掬って飲み始める。


 しばらく考えていると何かを思い出したのか、スープを掬っていたスプーンの動きがピタリと止まった。


「あ、そう言えば……獣人が統治すると言うハンバーク公国には暗殺を生業にしている一族が居ると聞いたことがあるな。もしかしてそいつ等か?」


 アレンがブツブツと考え事をしていると、食堂の扉が開いてホカホカと少し湯気が見えるライラが銀髪をタオルで拭きながら入ってきた。


 ライラは持ってきていたサラダをテーブルに置いてアレンの左隣の席に座った。


「あの四人の冒険者が居ないと随分静かね」


「……」


「ん? 何を考え込んでいるの?」


「最近、凄腕の尾行者に尾けられていてな。今日はコニーにその尾行者を確かめてもらった。その尾行者がどうやら獣人らしいんだ」


「獣人?」


「あぁ、俺は獣人の国に対して尾行されるようなことを何もしていなかったと思うが……」


「ふふ。何、言ってるのよ。たった一人で国家戦略を退ける貴方を警戒しない国家がある訳ないじゃない」


「そうか……そう言う理由か」


「自己評価が低すぎるんじゃないかしら? 英雄さん?」


「むむ、そうか……面倒だなぁ」


「貴方が考えたところで仕方ないでしょ。もし、暗殺されそうになったとしても貴方なら返り討ちにできるでしょう?」


「うん。まぁーそうだな」


「相手だって実力差は分かっているでしょうから手は出さないでしょうし。気になるのは貴方の冒険者仲間とフーシ村の子供達ってところかしら? けど、そこに手を出したら……私は考えただけで恐ろしいわ」


「……ハンバーク公国は遠いから、面倒臭いんだけど」


 アレンは渋い表情で、スープをかきこむようにして流し込んだ。そして、パンで少し残ったスープをぬぐって、口の中に放り込んで食事を終えた。


「そこはコニーに連れってもらえば一飛びじゃない」


 アレンとライラは果物を食べていたコニーに視線を向ける。すると、食べるのをやめたコニーが胸を張って答える。


「ぴぴ、主人のアレンならば乗せて行ってあげるわよ」


「そうか。それはありがたいな」


「感謝しなさい。ほら、やっぱりあの馬鹿犬より役に立つでしょ?」


「なら、コニーにホランド達をサンチェスト王国へと送ってもらえばよかったな」


「ぴぴぴ、それは駄目よ。だって私はあの馬鹿犬と違って、私が認めた人間しか乗せないわ」


「そうかぁ……ハハハ」


 アレンは苦笑した。そして、ふと、普段に比べて静かな食堂へと視線を向けて呟いた。


「……なんだか静かだ」


「私が最初に言ったけどね」


 フォークでサラダを突き刺して食べ始めていたライラがアレンの呟きを聞いて答えた。


「ローラは洗濯。アレ? ルシャナは?」


「あぁ、あの子なら農園で土いじりして泥だらけになったから、お風呂に入っているんじゃないかしら?」


「農作業が意外と様になってきたよな」


「そうね。初めてやる割にはね。最初、耳を疑ったけどね。帝国の元第二皇子に農作業を手伝わせるって言った時は」


「料理が壊滅的だったから……消去法だったんだけど」


「そうだったわね。リンもユリーナもだけど……料理って何が難しいのかしらね。レシピ通りに作ればできるのに」


「彼女達はたぶん強火しか使えない病気にかかっているんだ」


「そんな病気あるの?」


「知らんが。おそらくそうだろう。出来上がるのは大体黒い何かだし」


「ふふ、確かに……そうね」


 アレンは少しぬるくなった紅茶の入れられたティーカップを手にして一口飲んだ。そして、何か思い出したように声を上げる。


「そう言えば、アイツら、大丈夫かな? 間違ってラーセット辺りに殺されていないと良いけど」


「ふ、不吉なことを……さすがに無いでしょ?」


「どうかな?」


「今は……どこに居るのかしら?」


「ライゼンバーグで情報屋の報告待ちってところだろう」


 アレンはそう呟くと、小さく笑みを溢して紅茶を飲み干すのだった。




 ホランド達の現状はアレンの予想とはだいぶ異なっていた。


 その頃、ホランド達はラーセットに連れられてすでにサンチェスト王国の王都であるノースベルクへと辿り付いていた。

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