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百九十六話 一年三ヶ月。

 アレンが国外追放せれて一年と三ケ月。


 そしてクリスト王国とバルべス帝国の戦争が終結して二週間が経った。


 ホランド達はホランドを先頭にリン、ユリーナ、ノックスの四人は程よく舗装された道を歩いていた。


 不意にリンが前に指を指さす。


「あ、ライゼンバーグが見えてきたわ」


 リンの指した方にはうっすら遠くに建物が見ることができた。


「あぁ」


「ほんとだ」


「ほんとッスね。懐かしのライゼンバーグッスね」


 リンの言葉に反応したホランド、ユリーナ、ノックスが視線を前に向けた。


 何か思い出したようにリンが小さく笑い出す。


「ふふ、確かに懐かしいわね。ガームさんとかビビアンは元気かしら?」


「そうッス。久しぶりに会うのが楽しみッスね」


「ふすん」


 リンに同意するように、ノックス、ユリーナが答える。ただ、ホランドが苦笑しながら、口を開く。


「久しぶりで楽しみなのは分かるが……アレンさんからは急ぎで手紙……それから伝言を届けて欲しいと言っていたから長々といられる訳じゃないからな? もしかしたら、情報を集めるために王都まで出向く必要があるかもしれないんだし」


「わかってるッスよ」


「ふすん」


 ホランドの言葉に、ノックス、ユリーナはやれやれと言った風に答えるのだった。


 それから、ホランド達は笑い合いながら、終始楽し気な雰囲気でライゼンバーグの街へと向かうのだった。




 ホランド達がライゼンバーグの街に戻ると、とりあえず冒険者ギルドに向かう。すると、ちょっとした……いや、かなりの騒ぎになった。


 なぜなら、ローリエは冒険者ギルドにホランド達がユーステルの森で死亡したと報告していたのだ。


 そりゃ、死んだと思われた者達が突然帰って来たのだ。皆、驚いて騒ぎになるだろう。


 ホランド達としてはユーステルの森で手に入れた素材を売り払ってギルドをすぐに後にしたかったのだが……多くの者達に質問攻めにあった。


 同業者の冒険者ならばまだ気楽に流せたのだが、ギルドの幹部までもが出てきた。ギルドの幹部が話を聞きたいと言う願い出を拒否するのは難しかった。


 もちろんアレンとのことは適当に誤魔化したが、半日以上冒険者ギルドに滞在し質問攻めにされて精神的にも疲労がたまっていた。


「あぁ……疲れた」


「そうね。今日はもう宿に向かう?」


「ふ……すん」


「疲れたッス」


 冒険者ギルド会館を後にするホランド、リン、ユリーナ、ノックスは疲れた表情でうなだれこぼした。


 一瞬の間の後にホランドが呟くように口を開く。


「……もうすぐに夕暮れか。そうだな。宿を探そうか」


 ホランドの決定に意を唱える者は居なく、ホランド達は宿へ向かうべく歩き出したのだった。


 ホランド達が宿を見つけて入ると、その日はそれぞれ自由行動となった。


 宿で少し休んだホランドは一人ライゼンバーグの街へ出かけていた。


 時刻は夕暮れ時、ライゼンバーグの街は商店が並んでいて活気があり多くの人が行き交っていた。


 ただ、ホランドは行き交う人々を目にして別の感想を抱いているようだった。


「前はもっと人が居たような……? 気のせいかな?」


 ホランドはしばらく歩いていると細い路地に入って行った。そして、一分ほど進んだ先に少し古びた飲み屋があった。


 その飲み屋の看板には『山越亭やまごえてい』と書かれていた。


 山越亭を前にしてホランドは表情を綻ばせた。


「よかった。まだ、やっていたな」


 しばらく、山越亭をしみじみと見上げていた。ただ、人が近づいてきたのを感じ取り、山越亭の扉を開けた。


 扉を開けると、カロンコロンと独特な鐘の音が響く。


 すると、少し癖のある金髪に青色の瞳、日焼けして黒くなった肌が印象的な三十代前後の美しい女性がホランドを出迎えた。


「いらっしゃい。アレ? ホランド君じゃない!」


「こんばんは。とりあえずエールをもらえる?」


 ホランドは言われるまでもなく、慣れたように空いていたカウンターの座席に座った。


 山越亭の店内にはホランドの他に六人ほどの客がいて楽し気にお酒を楽しんでいた。


 三十代前後の女性は手早くジョッキにエールを注いで、ホランドの元にやって来る。


「はい」


「ありがとう」


 ホランドはエールがなみなみと注がれてジョッキを手に取ると、ごくごくと喉を鳴らしながらエールを飲んでいく。


 そのホランドを興味深げに見ていた三十代前後の女性が少し身を乗り出すように問いかける。


「ホランド君よね? しばらく見ない内になんだか逞しくなってない?」


「……ハハ、そうかな?」


「そうよ。なんだか歴戦の冒険者のような雰囲気がある?」


「タルホさんにそう言ってもらえると嬉しいな」


「なんだか。返しまで大人っぽくなって。ああ、前はもっと可愛かったのになぁ」


「前の話は忘れてほしいところ」


「ふふ、こう見えて記憶力は良いの。一生忘れないわよ?」


「はぁー。つまみの注文を……今日のおすすめは何かな?」


 ホランドは諦めたように大きくため息を吐くと、店内に掲げられていたメニューに視線を向けて問いかけた。


 タルホは頬に手を当てて、考える仕草を見せる。


「そうねぇ……。今日は良い豚のお肉が入ったからミートパイを作ってみたけど。それはどうかしら? 前によく食べていたわよね?」


「タルホさんのミートパイか……なんだか懐かしいな。食べたかったんだ。それにする」


「はい。かしこまりました」


 注文を受けたタルホは一旦厨房の中に入って行った。


 少しして、切り分けられ温められたミートパイを持ってきたタルホさんが戻ってくる。そして、ミートパイをホランドの目の前にコトリと置く。


 ミートパイは温めなおされたのか、豚肉の香ばしい香りがホワッと漂ってくる。


「お待ちどうさま」


「変わらずに美味しそうだ」


 ホランドはミートパイを手に取ると、そのままかぶりついた。


 そのホランドの様子をどこか嬉しそうにタルホが見ていた。それからもう一度ミートパイとエールを頼むことになった。

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