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百九十三話 意地悪。

 アレンはルシャナが顔を青くしているのを目にして問いかける。


「ん……大丈夫か? フハ、ちょっと意地悪過ぎたかな?」


「え? え?」


 突然、笑い出し雰囲気を緩めたアレンにルシャナが戸惑った様子を見せた。


 ライラは独り言を一旦やめて、くすくすと笑いだす。そして、山苺のジャムを紅茶の入ったティーカップに溶かし入れる。


「くふふふ。そうね。前皇帝ならともかく、こんな何も知らなかった子供を意地悪て……英雄らしくないわ。この場面はカットね」


「ライラだって十分に意地悪していたと思うが……まぁ、敵国の元皇子様につき、威嚇したんだ。俺、なんか貫禄があるように見えたかな?」


 アレンは顎に手を当てて、少しドヤ顔を見せる。ただ、ライラは微妙そうな表情を浮かべて答える。


「まぁー貫禄は……見た目が子供だし微妙よね?」


「そうかぁー」


「けどね。アレンが帝国の皇族を簡単に誘拐できるって言っていたけど。それって、いつでも殺しに行けるってことでしょ? そんなこと言われたら、誰だってビビるわよ」


「帝国なんて、ライラもその気になったら壊滅させることは出来るんじゃないか? 大魔法とかでドカーンって」


「んー貴方ならできるでしょうが、私はどうかしら? 帝国にも厄介なのが二人居るじゃない? 大魔法を準備している時にやられちゃいそう」


「あぁ。『剣隠』と『老怪ろうかい』か」


「ええ、剣隠は貴方の元部下のホーテと同等の実力者。それと……老怪は隠居したとはいえ、貴方の上司だったカーベル・スターリングを殺した。その実力は本物よね?」


「あぁ。ただ、剣隠の力量は把握している。ホーテと戦っているところをしっかり見させてもらっているから大丈夫だろうだ。そう言えば、クリスト王国内で見かけたことが何度かあったな。それで……老怪だが。奴は厄介だな……しかし、出てきてくれるなら俺としては願ってもないが」


 アレンは過去を思い出すように目を細めて、足を組んで座りなおした。


 アレンから先ほどルシャナに向けて放った威圧はなかったが、ピリッとした空気がその場を支配し……全員が沈黙。


 その沈黙を破ったのはアレンだった。


「おっと、話がだいぶ逸れたな。まぁ、皇族に手を出す気はなかったよ。制約に引っかかると言うのもあるが。もっとも大きな理由はバルベス帝国に皇族が居なくなると国が混乱して、国内勢力での抗争……一般人に多くの死者が出てしまう。そして、無謀な戦争に走るやも知れん。そうしたら結局は近隣諸国にも死者が出る。更に帝国のような大国がなくなったりして、大量の難民が出てしまったら目も当てられないって話だよなぁ」


「え、あの……」


 アレンはルシャナに話しているつもりだったのだが、ルシャナは話の展開について来れずポカンとした様子で答えあぐねる。すると、ライラがどこか楽し気にまた口を挟んでくる。


「そーね。まぁ……そう言うことは人類史には腐るほどにあるんだけどねー。例えば、十五年前に崩壊したイギラス王国とか?」


「ぐう、知っていたか……紡ぐ者」


「ふふん、当たり前でしょ? まぁ、これはあまりにもだから語り歌にはしないわ」


「はぁ、確かに【神無】を初めて実戦投入して加減を間違え……イギラス王国を多少追いつめたのはある。ただ、諜報させていた者の話だとずいぶん前からイギラス王国の内部は腐敗していたそうだ。つまり、遅かれ早かれ」


「そうね。貴方が破滅に向かって後押したことには変わりないけど……イギラス王国の国王は国費を大量に私利私欲に使ってしまうほどの愚王だったわね」


「そうだな……ってライラ、今は口を挟むな。話が進まないだろう……それで、バルベス帝国を崩壊させないためにも皇帝の座に座る者が必要だ……現皇帝が改心してくれればいいが望み薄だしな。いや、そもそも魔族とつながりが疑われる現皇帝を野放しにできないか。と言うことは……ここまで話せば分かるか? 俺の都合はバルベス帝国の皇帝の座に座れるルシャナ姉さんがまた捕まって殺されるのは面倒。つまり死なれたら困る……だから、しばらくここで面倒を見てやる。その代わりにちゃんと働けよ? いいな?」


「え……?」


「なんだ? どうせ、行くところもないんだろ? ここは魔族にも知られていない。仮に魔族が来たとしても俺が相手をできるから……とりあえずここで死ぬことはないぞ?」


「な、何を言って……私は……先ほど貴方が言った通り敵国の元皇子だぞ?」


「確かに、屋敷に居るのに俺の気が休まらないのは嫌だな」


 ルシャナの問いかけにアレンは視線を漂わせて何か考える仕草を見せる。


 そして、紅茶を飲んでいたライラに視線を向けると、パチンと指を鳴らした。


「ライラと相部屋にしとけばいいか」


「私が監視役かよ」


「ローラには危ないし。高価なゴルシイモを大量に食べている分は働いてもらわないと」


「ぐうう。わかった。わかったわよ」


「じゃ、部屋に案内して、風呂にでも入れてやれ」


「アンタね。私はこう見えても年長者なんだから。言葉遣いにもっと敬意を持ってもいいんじゃないかしら?」


「え? そうなの? 俺は今年で五十だが……そう言えばライラって何歳だっけ?」


「私はひゃ……なんでもないわ。いくわよ」


「あ、ちょっと……ま」


 年齢を言いそうになったライラは紅茶を飲み干して、バッと立ち上がった。そして、隣に座っていたルシャナを引っ張るように食堂から出て行ったのだった。


 ライラとルシャナを見送ったアレンは黙って話を聞いていたローラに視線を向ける。


「ローラ、紅茶のおかわりをくれる?」


「あ、はい」


 ローラは紅茶の入ったポットを手に取って、アレンの空になっていたティーカップに紅茶を注ぎ入れる。


「ありがとう」


「しかし、すごい話で……私が口を挟むところがありませんでした」


「もしかして、ローラは帝国のこと知っていた?」


「いえ、帝国の国教はプロスレント教……私が属していたクレセン教は勢力が弱いんです。よって、情報も少ないんです。あ……一つだけ先ほどの話にかかわるのが」


 ローラが何か思い出したようだったが……少し言いにくそうに言葉を濁した。


「ん? どうした?」


「いえ、関係ないかも知れないんですが……老怪の二つ名を持つ。帝国ではモーリス・ファン・ゴーウィン殿に筆頭魔導士への要請が出されたそうです」


「! あの爺……復帰するのか?」


 アレンは目を見開いて驚き、声を上げた。


「丁度、私が教会を離れた時に耳にした情報なので実際に復帰したか、どうかまでは……」


「そうか……」


 アレンがそう呟くと、紅茶を飲みながら目を細めていた。





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