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百九十一話 窺う人影。

 時を同じくして、ここはアレン達が食事している食堂の外。扉の隙間から食堂の中を伺う人影があった。


「人の声がしたと思って来てみたら……な……なんなの?」


 人影は驚愕した表情で扉から離れた。そこでその人影は屋敷で眠っていたはずのルシャナであった。


「アレン君に……吟遊詩人のライラさん、そして聖女のローラ様。しかし、アレン君の髪色……銀色。いつもの赤茶色の髪は。染めていた? なんのために? 国の中に潜入するため? それこそ……何の為よ? アレじゃ……まるで」


 ルシャナはもう一度扉の隙間から食堂を覗こうとしたところで……隙間の先にアレンの大きな目があって声を上げる。


「ぬん」


「きゃ!」


 アレンと目が合ってルシャナが小さく悲鳴を上げて、後ろに尻餅をつく。


 そして、扉が開いてアレンが顔を出して、ルシャナを見るとニコリと笑う。


「おー起きたんだな」


「あ、アレン君?」


「ルシャナ姉さん。いや……元第二皇子様と呼んだ方が良いかな?」


 アレンに元第二皇子様と呼ばれて、ルシャナは目を見開き驚く。


「な……なんで」


「いろいろ話を聞かせてもらえるかな? その前に腹は減っているか?」


 アレンは大きく扉を開いて、ルシャナに食堂の中に入るように促した。




 ルシャナが食堂内に入ると、先ほどまでライラが座っていた席……アレンの左隣に座った。


 すると、ローラが料理を持ってルシャナの前に置いていく。


 ルシャナはよほどお腹が空いていたのか、出された食事を勢いよく食べていった。そのルシャナの食べる様子を眺めながらアレンは口を開く。


「まずは自己紹介から始めようか? 俺の名前はアレン……アレン・シェパードだ。そちらの国では白鬼とか呼ばれているな」


「な……白鬼」


 ルシャナは座っていた椅子からガタッと勢いよく立ち上がろうとした。しかし、ずっと寝たきりだったのが影響してか立ち上がれずに、ただアレンを睨み付けた。


 対してアレンはルシャナに睨み付けられようとも涼しい表情で、紅茶の入ったティーカップを手に取って一口飲む。


「まぁ、バルベス帝国の人間なら、俺を前にして敵視するのは分かるけどね。ルシャナ姉さんの体調が万全だったとしても俺を殺すことなんて……仮に俺が眠っていても出来はしないよ」


「やってみないとわからない」


「分かるよ。だって一度も俺の力量を計ることができなかっただろう?」


 アレンは持っていたティーカップをテーブルに置く。


 すると、ルシャナがいつも会っていたアレンとは全く違う強い威圧が放たれた。


 アレンの威圧にルシャナは言葉を詰まらせた。


 そして、体が金縛りにでもあったように身動きが取れず……無意識下で足だけがカタカタと震えだした。


「ぐ……」


「俺は一応ルシャナ姉さんを保護しているつもりなんだけどね」


「何を言って?」


 ルシャナは訳が分からないと言った様子だった。


 アレンは大きく息を吐く。


 それと同時に、アレンから放たれていた威圧が飛散して消えた。


 アレンはテーブルに置いたティーカップの淵をなぞりながらゆっくりと話だす。


「今回のクリスト王国とバルベス帝国の国家間戦争の元凶は元第二皇子様……つまりルシャナ姉さんなんだ」


「……えっ」


「ルシャナ姉さんを確保……いや、最終的には殺すことがバルベス帝国の真なる目的だった。つまり、ルシャナ姉さんがクリスト王国に居たからバルベス帝国がクリスト王国へ侵攻して大量虐殺したと言うことになる」


「そんな、私が居たから……」


 顔を青くしたルシャナは頭を抱えてしまった。少しの沈黙の後にアレンが口を開く。


「噂話じゃ、クリスト王国内にルシャナ姉さんを探す動きがあるようだ。すでに捕虜から聞いてクリスト王国の知るところなのだろう。今、クリスト王国に戻るとどうなるかな? 恐らくすぐに捕るね。そして……どうなるかな? 普通なら斬首? 国外追放か? いや、帝国に引き渡して何か交渉事に使う? 俺にはどう転ぶか分からないな。けど、仕方ないよね。クリスト王国からしたら、大量虐殺の元凶とも言えるんだし」


「……」


「落ち込んでいるところ悪いが……ルシャナ姉さんがバルベス帝国の皇族だと言うならまだ知っておいて欲しい、もっと重たい話があるんだから」


「知って欲しいこと?」


 アレンは真剣な眼差しで、ルシャナを見据えながら、先日のバルベス帝国とクリスト王国との戦争で現れた魔族についての顛末を話していく。


 その話が終わったところでルシャナが首を横に振る。


「そんな……知らない魔族なんて」


「バルベス帝国の皇族は魔族と関わりはないんだな? 魔族の言っていた言葉、そして魔族自身がルシャナ姉さんを連れ去ろうとしたことを鑑みると関わりがあるのではないかと疑っていたのだが」


「少なくとも私が知る頃は……ただ」

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