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十九話 魔法。



「あむ……お前らには後々魔法を使えるようになってもらう予定なんだが。何か魔法を使いたくない理由があるのか?」


 ステーキを口に運び、むにゅむにゅと食べながらアレンはホランド達に何気なく問いかけた。


 すると、ホランド、ノックス、リンの視線が一斉にアレンへと向ける。


「「「え?」」」


「え? 何だよ?」


 いきなり視線が向いたことにアレンは戸惑いの表情を浮かべる。


 表情を曇らせたホランドが口を開いた。


「俺に……俺達に魔法は使えませんよ? 体内のマナ量が少ないので」


「んーそうか。ちなみに聞くけど、誰がそう言ったんだ?」


「いや、サンチェスト王国では十歳の時に教会で体内のマナ量を測定してもらうのが通例ではないですか。その時に俺は下級魔法も使えないマナ量であることであることが解ったんです」


「ふーん、教会の言うことが絶対なのか?」


「あの……それはどういうことですか?」


「だから教会が魔法を使えないと言ったら、魔法が使えないのか? と聞いている」


 アレンは木のフォークを肉に突き刺して、ホランドへと視線を向ける。


 ホランドがアレンの目を見てゴクンと喉を鳴らした。


「あの俺が……魔法を使えるようになる方法があると言うんですか?」


「……ある。本人の資質次第だけど、下級魔法くらいなら使えるようになるんじゃないか?」


 アレンはそう言うとステーキに一口噛みついて食べる。


 そのアレンの言葉を聞くとホランド、ノックス、リンはバッと座っていた切り株から立ち上がった。


「本当に……?」


「本当にッスか?」


「ほんと?」


 ホランド、ノックス、リンが続けてアレンへと問いかけていった。アレンは問いかけに頷き答える。


「あぁ、本当だ。今まで何人も魔法を使えるようになっている」


「「「わああああ!!!!!!」」」


「ふ、俺に付いてくることを許可した時とより喜んでないか?」


 ホランド、ノックス、リンは抱き合って喜びの声を上げた。そのホランド、ノックス、リン様子を見ていたアレンは小さく笑った。


 ホランドはばつが悪そうに頬を掻きながらアレンの問いかけに答える。


「あ、すみません、アレンさんに付いていけることもすごく嬉しかった。いや、そもそもアレンさんに会えただけで嬉しかったのに……どうしたんだろ、ここ数日、嬉しいことが起こり過ぎて……正直怖いです。死期が近いのでしょうか?」


「ハハ、じゃあ、頑張って生きるしかないな」


「そうですね」


「それにしても、やっぱり魔法が使えるのは嬉しいか?」


「嬉しいですよ。だって、子供の頃に火龍魔法兵団に入団したいと願った俺が魔法を使えないと知ってどれだけの絶望を味わったか……」


 ホランドは嬉しさを通り越して、感動し泣きそうになっていた。ただ恥ずかしく感じたのかすぐに両手で顔を覆い隠してしまった。


「そ、それでどうやって魔法を使えるようになるんッスか?」


 ノックスが小さく手を上げて、アレンに問いかけた。するとアレンはニヤリと笑みを浮かべて答える。


「どうやって魔法を使えるようになるか……それはマッサージだ」


「は? え? マ、マッサージッスか?」


 ホランドはアレンの答えに驚いて素っ頓狂な声を上げる。


 そのホランドの様子を見てアレンは小さく笑った。


「ふ、マッサージで? って思うよな。そうだ、おかしいと思わなかったか? 魔法使いが生まれる確率が一万人に一人と言われている中で火龍魔法兵団の百人全員が魔法使いであることを」


「まさか、火龍魔法兵団の強さの秘密ッスか?」


「強さの秘密? どうだろうな、俺がやったのはマッサージなどの治療を施して体内のマナの流れを正しただけなんだよ」


「体内のマナの流れをッスか?」


「もともと人間の体内にはマナがあるんだよ。ただ、体内のマナの流れに淀みや詰まりがあったりして、うまくマナを使えない人が多い。だから、俺はマナの流れにできた淀みや詰まりを治療によって取り去り、体内のマナを正しく流れるようにしてやるんだ」


「そうなんッスね」


 ノックスが納得したように頷くと、先ほどまで座っていた切り株に座りなおした。


「あむ……むにゅむにゅ。それで、他に何か質問はあるか?」


 フォークに刺さっていたステーキを食べていたアレンが全員に視線を巡らせた。


 すると、リンが小さく手を上げて口を開いた。


「あの……なんで、そんなすごい治療が知られてないのかな?」


「んーなぜ広まってないかは俺も知らん。俺は育て親である祖母に教わった。それで、その祖母の元にはわざわざ訪れてくる客が何人かいた。ただ、他にマナの流れを正す治療というのができる奴がいるのかも知らん」


「そうなんですね」


「ただ俺は別にマナの流れを正す治療を広めたいとは思っていないよ」


「え? 何でですか? いくらでもお金を積んで魔法を使いたいっていう人は世の中にいっぱいいると思う。だから、一生お金に……」


「お前な。俺に一生マッサージだけして生きろと言っているのか? マッサージして生活している人達を卑下するわけじゃないが……俺にだってやりたいことあったし」


「それはその……それでも」


「うん、リンが言いたいことは分かるよ? 多くの人が魔法を使いたいと思っていることも知っているからな。ただ、どう考えても俺一人では無理だ。じゃ、どうするか? 誰かに教える?」


「そう。それ。アレンさんが誰かに治療方法を教えて……。そこから広まる」


「残念ながら、それもなかなか難しいんだよね。理由は二つある」


「理由……」


「一つ目、魔法は神が与えた恩恵だとか馬鹿なことを言っている教会……プロスレント教の連中が信じている教えを否定してしまうから……それが死ぬほど面倒くさい」


「あぁ……なるほど」


「二つ目、治療にはリスクがあるから」


「リ、リスク?」


 アレンがリスクと口にするとリン、そしてホランド、ノックスの表情が強張る。そのリン達の様子を見たアレンは頷いた。


「あぁ。さっきマナの流れにできた淀みや詰まりを治療によって取り去り、体内のマナを正しく流れるようにすると言ったな。下手な治療をしてマナの流れにできた淀みや詰まりを取ってしまったりすると、体内のマナが一気に外に流れでて生命の危機に陥ることがあるんだ。だから、おいそれと誰かに教えられん」


 魔法を使えるようになると言う、マナの流れを正す治療のリスクを聞いたリン、ホランド、ノックスの三人はそれぞれ硬い表情のまま呟く。


「そ……そうか。魔法を使うため……リスクがあるよね」


「なるほど……」


「そ、そうッスよね」


「ふふ」


 リン達の様子を見たアレンは小さく笑い出した。


 小さく笑ったアレンを目にしてリンは怪訝な表情で問いかける。


「どうしたの?」


「あぁ、悪い、悪い。俺はそんな下手な治療はしないから安心しろ」


「そ、そうか。はぁー」


 リンは胸を撫で下ろして安堵していた。それはホランドやノックスも同様だった。


「あ……一つ……そういえば。これはもう言っておいた方が良いか……な?」


 アレンは何かあったのか、言葉を濁して口元に手を置いた。アレンの様子が気になったリンがすぐさま首を傾げて問いかける。


「まだ、何かあるの?」


「んーその治療な。たまにクソ痛いと感じる人もいるから覚悟はしておいた方が良い」


「あ、あの……それはどのくらい?」


「すまん。俺は自分の治療を受けたことがないから……分からんよ」


「そうか。そうだよね」


「ただ、指の爪を剥がされる時の痛みとか言っていた奴が居たな」


「ひ……」


 小さく悲鳴を上げたリンは無意識か分からないが指先を守るように手をキュッと握り締める。


 アレンとリンの会話が耳に入ったホランドとノックスも自身の手をキュッと握っていた。


「ほふ……」


 ユリーナは小さく安堵の声を漏らしていた。


 おそらくユリーナ自身は魔法が使えているので関係ないと思っているのだろう。


 ただ、アレンはその安堵しているユリーナに対してニコリと笑いかける。


「ふ、ユリーナ、胸を撫で下ろしているところ悪いが、お前もやるんだからな」


「え、えええ、なんで私は魔法使え……」


「ユリーナのマナを扱える量は正直魔法使いとして見るならまだまだだからな。もっとマナを扱えるようになってもらわんと」


「え、えぇ……」


 表情を曇らせたユリーナはガクンとうな垂れた。


「ユリーナ、俺達仲間だからな」


「そうね。ユリーナ」


「ハハハ、俺達、仲間ッスからね」


 ユリーナの様子を見ていたホランド、リン、ノックスがいい笑みを浮かべながら励ましの声を掛けていった。


 そして、全員で笑い合った。


 それから、ホランド、リン、ノックスを中心に魔法を使えたらどんなことがしたいのか談笑しつつ食事が進んでいった。



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