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百八十三話 アリソン・ボレートル。



 赤い鎧を身に纏った火龍魔法兵団の元副長であるアリソン・ボレートルが小高い丘にて馬に跨っていた。


「いた……」


 アリソンは遠くに、近隣の街へと進軍している帝国軍を発見した。


 そこで彼女は背後に控えていたアリソンと同様に赤い鎧を身に纏った部下達に向かって命令を飛ばす。


「私はゴーレムで……帝国軍の陽動、足止めをするから。その間に、シルフ隊とポール隊は街の人達を守りながら避難させて」


「おう」


「わかった」


 アリソンの指示を聞いた部下達は返事を返して、馬に跨って散っていった。


 バルベス帝国軍は確かにベラールド王国とクリスト王国へと総勢十五万と言う大軍勢を出兵させていた。


 それでも、サンチェスト王国へ侵攻する軍は例年に比べて少なくはあったが全くない訳ではなかった。それらに対応するためにアリソン達は対応する必要があり、忙しく戦い日々を送っていた。


 アリソンは丘から馬を走らせてくだっていき、帝国軍に接近していく。そして、荒野にたどり着いたところアリソンが馬から飛び降りる。


「はぁ……疲れた。ふう、団長がいて魔法のことだけを考えているだけでよかった頃が懐かしいわ【ロックゴーレム】」


 どこか疲れた様子で息を吐いたアリソンは地面に手を付いて、土属性の魔法【ロックゴーレム】を唱える。


 すると、周囲の土が盛り上がって二十メートルほどの岩のゴーレムが出来上がる。


 その岩のゴーレムはノシノシと歩いて、遠くに見える街へ進軍する軍勢へと向かっていった。


「とっと、シュリ……もう少し頑張ってね」


 アリソンは馬に再び飛び乗ると、馬の背を撫でながら呟いた。


 そして、足を軽く馬の胴に当てると、アリソンが跨った馬は前に進み出して岩のゴーレムの後を追うように進んで行く。


 ただ、その時アリソンが跨っていた馬が大きく戦慄わなないたのだ。


「きゃ、どうしたの……っ!」


 突然馬が戦慄き、驚きの表情を浮かべたアリソンは馬の手綱を引いた。そして、馬を落ち着かせるようにアリソンは馬の胴体を撫でる。


「ドードー。落ち着いて」


 馬が落ち着いたところで、アリソンはバッと空を見上げて小さく呟いた。


「……何よ。あれ」


「ケシケシ、この頃、サンチェスト王国内で怪しい動きが多くて、帝国へ一旦避難しようと飛んでいたら……ちょうどいいところに、これは戦争ですね?」


 豪勢な服を身に纏い、高価な宝石のアクセサリーを身に付ける痩せこけた男性……ホソード・ファン・ガラード侯爵が空中に立っていた。


 手に持ったティーカップに口元を付けて、ティーカップに注がれた紅茶に一口飲んだ。


「もしかして貴女……この戦争を邪魔しようとしてます?」


 ホソードから視線を向けたアリソンはゴクリと息を飲んで、馬から飛び降りる。そして、馬のお尻を叩いてその場から離れさせる。


「……っ何のことよ?」


「私は人がいっぱい死ぬところを見たいんですよ」


「なるほど、全く何も理解できないけど。それはなんとしても邪魔したいところね」


 アリソンはホソードへ鋭い視線を向ける。そして、脇に吊るされていた短剣二本を引き抜いて構えて臨戦態勢をとる。


 それと同時に帝国軍の陽動、足止めに向かっていたゴーレムが崩れてしまった。


 く、みんな、命令を急に覆してごめん。


 だけど、あの帝国軍よりもコイツの方が重い。


 コイツを前にしてゴーレムを操作しながら、戦えない。


 昔、ホーテと向き合った時に感じたプレッシャー……いや、それ以上?


 私じゃ……コイツの強さは計りきれない。


 漠然と強いことが分かる……まるで団長のような存在だ。


 私はコイツには勝つことはできない。


 分かる。


 体が小刻み震えている。


 しかし、私がここで戦わないと言う選択肢はとれない。


 この国には大好きな人達がいっぱい居るんだから!


 アリソンは拳をグッと強く握った。


 すると、アリソンの魔法がノーモーションで発動し、地面からいくつもの鋭く尖った突起が生えた。


 その突起が次の瞬間には空中に立っているホソードへと放たれた。


 ホソードはティーカップの持っていない方の手を前に突きだす。すると、黒い煙が出現してアリソンが放った突起を吸い込んで掻き消してしまう。


 アリソンは、いきなり自身の魔法が消し去ってしまったことを目にして、驚きの声を上げる。


「な」


「やれやれ、いきなりですか。紅茶を一杯飲む時間もくれないのですね」


 ホソードが再びティーカップに口を付けて紅茶を飲み始めた。


 対して、アリソンは一瞬で周囲の地面の突起、火の玉、風の刃が複数出現させて見せて……。


 即座に次々とホソード放たれる。


 それは先ほどの黒い煙がカバーできる範囲ではなかったのか、ホソードは魔法に被弾してしまっていた。


 しかし、ホソードはすぐに上空に飛び上がった。


「いたたた。私はモルス卿に比べて戦闘は苦手なんですが……あや、人間の皮も剥がれてしまいました」


「なんなのよ」


 アリソンが呆然としている。


 それも無理ないだろ。


 何故なら、ホソードの肌が卵の殻のように割れるようにボロボロと剥がれてしまっているのである。


 普通はあり得ない。


 ただ、それは実際に目の前で起こっていて、ホソードの肌が剥がれて……見えてくるのは陶器のように真っ白な肌に眠たげな眼で目の下に黒く深いくまできている男性だった。


「ここまで破れてしまったならもうこの皮は用済みですね」


 ホソードは自ら肌をさらに破っていき、髪を掴んでカツラでも外すように取り去る。すると黒い髪が覗き、髪の間から羊の角のような角が覗いた。


 更に……着ていた服すらも破り去ると黒いローブとなって、背中には蝙蝠のような羽が背中から表れたのだ。


 その姿はアレンが戦った魔族モルス・ガル・ヒルリュークと特徴が似ていた。

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