百六十二話 化け物。
「ヒャハヒャハ、チカタガ……チカラガミナギッテクルゼェエエエエエエエエエ!!!!!!!!」
ガルゴは避けた大きな口で叫んだ。そして、黒い液体を上空に吐き出した。
ガルゴが吐きだした黒い液体はシトシトと雨のように辺りに落ちてくる。
最初、敗走し始めた本陣周囲に居た兵士の頬に黒い液体が一滴落ちた。すると、黒い液体が肌に触れた途端白い煙を上げ出したのだ。
「痛いっ! ギャアアアアアア!!!!」
絶叫に近い悲鳴を上げて倒れていく兵士達の様子を見たアレンは即時に近くに落ちていた盾を拾い、上に掲げて黒い液体……毒を防ぐ。
「ク、毒か……まぁ蛇だからな」
黒い液体に触れた兵士達が次々にのたうち倒れていく。その様子を見たアレンはグッと眉間に皺を寄せて顔を上げる。
「周囲に居るすべての兵士達に告ぐ! 黒い液体に触れるな! 落ちている盾を拾い防げ!」
アレンは今まで聞いたことのないほどの大きな声を発して、辺りに告げた。
混乱状態にあった兵士達にも不思議とアレンの声は響いた。彼らは盾を拾って固まって毒を防ぎだした。
アレンの言葉は更に続く。
「それから戦闘の巻き添えになりたくなかったら! ここから離れろ!」
アレンの声に兵士達は従って離れて行った。
「はぁー久しぶりにマナを込めて大声出したわ」
毒が止み、兵士達が離れたところで、盾を捨てて……アレンは再びガルゴへ向けて剣を構えなおした。
「チカラ! チカラガミナギッテクルゼェエエエエエ!!!!!!!!」
「力を得たことによる高揚感か……俺の声は届かないかな?」
「ミナギルゥゥゥゥゥゼエエェ」
「うん、通じないね。しかし、お前はすごいなぁー。会ってまだ数刻と経っていないと言うのに……こうも俺の制約の解除しようとしている」
アレンはため息を吐いて目付きが更に鋭さが増した。ただ、すぐに首を横に振る。
「けど、これは解除するほどではないか? それに聞かなきゃいけないこともあるし……【パワード】、【空脚】」
そこまで言ったところで、アレンはフッと姿を消した。
一瞬の間が開いたのちに黒蛇となったガルゴの背後に姿を現す。
それとほぼ同時にガキンっと金属がぶつかり合うような重い音が響き……ガルゴの首元の辺りを切り裂いたのだった。
「ギャアアアアアアァァ!」
その切り裂いた傷口から黒い液体が噴き出たので……アレンは【空脚】でその場を飛び去り離れた。
「厄介だな」
距離を取ったアレンはガルゴへと視線を向けて、表情を曇らせた。
数十秒前に切り裂かれていた傷口からはポコポコと肉体が盛り上がり、ガルゴの体が再生を始めていたのだ。
「再生能力があるか……そして、固いな」
アレンが持っていた剣が刃こぼれして、パキンと刀身が折れてしまっていた。
「ただ……いいことが二つあるな。ここは戦場で武器は腐るほどある。そして」
アレンは持っていた剣を捨てて、手を前に出す。そして、拳を握って前に構える。
「簡単には死なない……【パワード】」
アレンがそう一言呟くと、目にも留まらぬ速さで走り出す。
アレンはまずは狙ったのはギョロギョロ動き回る百以上ある目玉だった。落ちていた剣を拾い上げて目玉一つ一つを切り裂いていく。
「ギャアァァ! メガ……オレノメガァァァァ!」
目を潰されるのは激痛だったようでガルゴはのたうち回り、まだ撤退しきれていなかった帝国の兵士を踏み潰す。
のたうち苦しんでいるようだったが……再生によってすぐに目が元に戻る。
その驚異的な再生能力を確認したアレンは後方に飛び上がる。ただ、ガルゴも動体からトカゲに似た腕がニョキッと生えてきてアレンを追うように長く伸ばした。
「チョコマカトォオオ!」
「おっと、そんなこともできたのか。やるじゃないか」
「クソガァァァーッ!」
「それでは俺には届かない。はっ!」
アレンは剣を振るって、ガルゴが伸ばした手を剣で弾き返した。そして、数回バク転して距離を空ける。
「なんて、再生能力だ。そして、コイツの体液……にはやはり触れない方がよさそうだ。固い鱗避けて目玉を切り裂いたと言うのに剣がボロボロだ」
アレンがそう呟くと、ボロボロになってしまっていた剣を捨てた。そして、地面に落ちていた新たな剣を拾い上げて構える。
「クソォ! クソォォォォ! ハヤクシネェ!!」
ガルゴは声を張り上げた。そして、先ほどアレンを追って伸ばした腕を何十本と生やしていた。
その様子を目にしたアレンはげんなりした表情を浮かべる。
「うわ。これは本当に化け物……ここから先はもう根競べかな」