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百四十八話 i can fly!

 ここはリンベルクの街を囲む壁の上。


 リンベルクの街を囲む壁はかなりの高さで、平屋建ての建物が四~五つ分の高さがある。


 壁の上からは日が暮れだして、オレンジ色に染まった雲一つない空、辺りに広がる森と山が見てまさしく絶景だった。


 スタン!


 何かが叩き付けられたような音が聞こえてきた。


 音のした方にはローブを着こんで顔を隠したアレンとアレンにお姫様抱っこされたユリーナが居た。


 どうやら、壁近くの建物からジャンプして壁上に飛び乗ったようである。


 壁上からの景色を見てアレンがポツリと呟く。


「綺麗だな」


「うん。綺麗。だけど……」


 アレンの呟きに同意するようにユリーナが頷くも、どこか表情は暗かった。


「だけど、何だ? 帰りは行きより早くていいぞ?」


「そ、そう?」


「うん、見張りに見つかっちまうから……いくか【パワード】」


 アレンが肉体強化する魔法である【パワード】を唱える。すると、両足に白く薄い光に包まれた。


 その魔法発動と同時にアレンはユリーナをお姫様抱っこしたまま壁の上から飛び降りたのだ。ユリーナは目をギュッと瞑って小さく悲鳴が上がる。


「きゃ」


「……よっと【空脚】」


 アレンはもうすぐ地面と言うタイミングで【空脚】と呟き、空中で五度ほど素早く……目で追うのが困難なほどは早く空気に蹴りを入れる。


 すると、フワッと体が一瞬浮いて落下の勢いを減速させて無事に着地したのだった。


「ふぅ……さて、行くか」


「う、うん」


 お姫様抱っこされていたユリーナは地面に降ろされると、少しよろめいて倒れそうになる。ただ、アレンに支えられて、何とか倒れずに済んだ。


「おっと、大丈夫か?」


「ごめん。やっぱり怖かった」


「ハハ、そんなんじゃ青い鳥の背には乗れんな」


「そうかも」


「歩けるか?」


「……うん、大丈夫」


「そうか……なら、フーシ村へ向かうな」


「そうだね」


 アレンとユリーナはその場を後にして、フーシ村へと向かい歩き出した。


 リンベルクの街から離れたところで、ユリーナが胸に手を当てて大きく息を吐く。


「ふはーあんな壁に囲まれた街に人知れず入り込むのもドキドキ。出るのもドキドキ。あと飛び降りるのは更にドキドキ」


「ん? そうか、それは良かったか?」


「今日は胸が痛い」


「……それは良くないかも知れないな」


「うん、けどまた来たい」


「まぁ、他の奴にも……案内してやりたいし。当分先になるかな?」


「う、そうだね」


「本当は全員で行ければいいんだけどな。大人数だと俺が何度も行き来しなきゃだから、その分目立って潜入はしにくいからな」


「アレンさんは潜入とかって慣れているの?」


「うん、まぁ……昔からよくやっていたよ。敵の野営地に潜入して敵将を仕留める。戦争は戦いの前から始まっているからな」


「なるほど」


「それより、リンベルクの街はどうだった?」


「ふすん。クリスト王国……サンチェスト王国とは食べ物や建築物までだいぶ違って面白い」


「そりゃよかった」


「あと新しい武器も買えた」


 ユリーナは脇に下げていた短剣を大事そうに柄頭に触れた。


「ふ、良いものだからな。上手く扱えるようになってくれよ」


「ふすん。頑張る。アレンさんの弟子として恥ずかしないようになるんだから」


 意気込むユリーナの姿を見たアレンは目を細めて、背中をポンと叩いたのだった。




 フーシ村に着いたアレン達にシリアが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「アレン!」


「んお? どうした? シリアさん?」


 シリアのあまりに興奮した様子にアレンは面を食らいながらも、答えた。


「あの……ゴルシイモって、いつまでにどのくらいで用意できるんだい?」


「なんかあったのか?」


「あったってもんじゃないよ。一個で銀貨一枚っていう高めの価格で売り出したにも関わらず、完売さ」


「そうなの? よかったじゃん」


「あぁ、良かった。ただ、それだけじゃなく、今度はいつ売り出すのかって詰め寄られちまう始末さ」


「予想以上に反響があったと……次か育ち具合にもよるが出せて三日後に二十個かな?」


 アレンが三日後と言うと、シリアはあからさまにガッカリした様子になる。


「そうかい……すまんね。アレンに言ってもどうにもならないよね」


「ふーん。あのイモ、そんな好評だったんだ」


「あぁ、最初は細切れにしたヤツを並ぶ列ができたと思ったら……それを食べた人のほとんどが買って行ってくれてね。結果的には売り出してから一時間もしない内に完売さ。ただ、話はそれじゃ終わらないよ? そのイモを買っていった客がほぼ全員午後に帰って来て、次にイモが販売するのはいつかってしつこく聞いて来たのさ。ウチの屋台の前だけ、いつもの三倍は混んでいたね」


「それは大変だった……俺は行かなくてよかったと思っている」


「ありゃ……人ごみ嫌いなアレンには無理だね」


「次は三日後かな」


「そうだね。頼むよ……そうだ。今日の売り上げを渡さなきゃね。家に来な。ほとんど売れちまったからすごい金額になってるよ」


「ふ、それは楽しみだ」


 シリアに言われて、アレンとユリーナはルーシー達の家へと向けて歩き出す。


 その日はシリアから売上を貰ってアレンとユリーナは帰るのだった。


 アレン達はまだ知らないゴルシイモがクリスト王国の貴族の間で静かに流行り初めていたことを……。

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