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百四十七話 ワッフル。

 ここはリンベルクの街にある陽蜜亭と言う菓子店である。


 店内は店名からわかるように蜂蜜の甘い香りが漂っていた。


 ちなみに菓子店であるのだが、カフェのように店内飲食することもできて、店の中は多くの客で賑わっていてお菓子を楽しみながら会話を楽しんでいた。


 この世界は基本的に甘いものは高く取引されている関係で、皆がお金持ちそうな身なりであった。


 その店内の中で一つのテーブルの席にアレンとユリーナが対面する形で座っていた。


「ふすん。服を買った」


 ユリーナが満足げな様子で呟いた。


 その呟き通り、ユリーナの足元には服の入っている袋が置かれていた。


 対してアレンは手に取っていた紅茶の注がれたティーカップを目の前のテーブルに置いて答える。


「それは良かったな」


「けど、本当にこんなに買ってよかった?」


「良いだろ、俺一人で女性の服を買うのはハードルが高かったから……今までがシャツとズボンだったし。修行も頑張っているからな」


「けどけど、それは……私は修行を付けてもらっている立場」


「じゃ……そんなに気になるなら出世払いだな」


「わかった。ふすん」


「まぁ、そんなことを気にしなくても、お前達が定期的にユーステルの森で魔物狩りして持ってくる高価な魔物の素材を売り払えたら、今回の買い物分くらい余裕……いや、一人の人間が一生遊んで暮らせるほどの金になるだろうけど。しかし、すごい量過ぎて売ることが難しくなっちゃってる」


「頑張った」


 ユリーナはどこか誇らしげに胸を張った。すると、アレンは少し苦笑気味に笑う。


「ハハ、そうな、頑張ってくれている」


 ユリーナとアレンが雑談していると、メイド服を着た給仕の女性が近づいてくる。


「お待たせしました。ご注文されたワッフルをお持ちしました」


 給仕の女性はアレンとユリーナの前にそれぞれまだ焼きたての香ばしい香りをさせたワッフル五枚ほど乗った木の皿が置かれる。


「ふぁー」


 ワッフルの匂いを嗅いだユリーナは顔を綻ばせた。


「では、仕上げにバターと蜂蜜を駆けさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「は、はい、いっぱい」


 給仕の女性に対してユリーナは思わず興奮した様子で声を上げた。それに対して給仕の女性は小さく笑うと口元で人差し指を立てる。


「ふふ、かしこまりました。内緒ですよ」


 給仕の女性はまずバターを切り分けてワッフルの上に乗せる。バターはワッフルの熱に溶けてふわりとバターの香りが漂ってくる。


 次いで、陶器の瓶を持って、傾けると瓶の流し口からトローッと黄金色の蜂蜜が流れ出てきてワッフルにかけられる。バターの香りに蜂蜜独特の甘い香りが加わって幸せな空間が広がっている。


 ユリーナは我慢できない様子で事前にテーブルの上に用意されていたナイフとフォークを握り締めて給仕の女性が蜂蜜をかけ終わるの待っている。


「ではごゆっくり」


 給仕の女性がぺこりと軽く頭を下げると、その場から離れて行った。給仕の女性を見送ると同時にユリーナはワッフルにかぶり付く。


「はむはむ」


「ゆっくり食べろよ」


 アレンはユリーナが一心不乱にワッフルを食べる様子を眺めながら、少し苦笑しながら声をかける。


「わかってりゅ。はむ」


「本当にわかっているんだか」


 小さくこぼしながらも、アレンはワッフルをナイフで切り分けて食べ始める。


「甘さが控えめのワッフルの生地が蜂蜜とあっている。美味しい」


「うんうん」


 アレンの感想に、ユリーナは何度も頷き答える。ただ、食べる手は止まらずにすぐ完食してしまいそうな勢いである。


 それから、十分もしない内にユリーナはワッフルをすべて食べつくしてしまった。そして、名残り惜しそうに呟く。


「美味しかった……」


「俺の残りでよければ食べるか?」


 アレンはワッフルを二枚食べたところで、残ったワッフルをユリーナの前に持っていく。


「良いの?」


「うん、俺はワッフルを二枚も食べれば十分だった」


「ありがとう。ありがとう」


 ユリーナはアレンに何度もぺこぺこと頭を下げ始める。


「いいから。さっさと食べろ」


「わかった」


 ナイフとフォークを持ち直したユリーナは再びワッフルを食べ始めた。


「こう言う店でゴルシイモが売れたらいいのだけど」


 アレンは店を見回しゴチる。


 そして、紅茶を一口飲んで椅子の背もたれに体を預けた。


 アレンがリラックスしていると周囲から世間話が聞こえできた。




「うちの旦那、早く帰って来ないかしら」


「ふふ、ちょっと前にせいせいするみたいなことを言ってなかったかしら?」


「あぁ、言ってた。言ってた」


「そうだけど。べラールド王国へ向けてここを出発してだいぶ経つのよ? なのに戦争がどうなったかっていう噂が入って来ない。ヘンナさんとグレアムさんは何か聞いてないかしら?」


「……そうねぇ。私も聞かないわね」


「えっと……私は少し知っているわ」


「ほんと?」


「さすが」


「……娘に聞いた話だと、帝国がべラールド王国の首都ジルラスを囲んだまま、動かないんだとか? まだ戦いすら始まってないみたいなのよ」


「え? ただ囲んでいるだけで何もしてないの? 何がしたいのかしら?」


「それって……もしかして兵糧攻めなんじゃないかしら?」


「兵糧攻め?」


「?」


「私もあまり詳しくないんだけど。城や建物を軍で囲んで食料補給を断つことで、食料を不足に陥らせ飢えさせる戦い方だったはず……」


「それって危ういってこと?」


「だ、大丈夫よ。旦那が言ってたもの。首都ジルラスは鉄壁で……守護神グラース・ファン・ロドリゲス将軍が守備に就くのよ? すでに対策済みで大丈夫に決まっているわ」


「そ、そうね」


「そうよね」




 籠城する相手に対して兵糧攻めは基本の一つだな。


 しかし、アレは時間が掛かって面倒なんだよなぁ。


 話しの通りに首都ジルラスは鉄壁で……守備に就く守護神グラース・ファン・ロドリゲス将軍が優秀ならば、すでに兵糧攻めの対策はたてているだろ。


 兵糧攻めは自分達の知らない地下補給路があったりすると意味が無くなっちゃうしね。


 ……だとすると帝国軍が首都ジルラスを何日も囲んだまま動かない理由が分からないな。


 帝国軍に別の意図でもあるのか?


 ……分からんなぁ。


 首都ジルラス内にスパイでも潜り込ませていて、そいつ等が起こす陽動と同時に攻め込むつもりだとか?


 そんな事やらんか? スパイは潜り込ませているだろうが、大切なスパイを陽動なんかに使わんか?


 まぁ、俺が考えることではないか。


 俯き考え事をしていたアレンは考えるのをやめて、ユリーナに視線を向ける。


 すると、ワッフルを食べ終えたユリーナが満足げな表情でお腹を擦っていた。


「けふ……」


「そろそろ、店を出ようか?」


「うん。満足」


「満足しているところ悪いが、これから武器屋に行くんだろ?」


「いく」


 アレンと問いかけにユリーナは頷く。そして、二人は席を立って、陽蜜亭を後にするのだった。

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