百四十五話 密入国でも。
「よっこらせと」
アレンがアレン達の住む屋敷から地下通路を通って、クリスト王国近くの扉から外に出てきた。
アレンの背にはアレンとそれほど変わらないほどに大きな籠が背負われていた。
「わくわく」
アレンの後ろから大きな籠を背負ったユリーナが顔を出す。
「……ユリーナがリンベルクの街へ行くの楽しみにしていたのも分かっている。ただ、人前では基本的には黙っておくんだぞ? ユリーナは荷物運びを手伝ってもらった冒険者友達だから」
アレンは今回フーシ村へ野菜を運ぶのに、ユリーナを手伝わせたのか? 更に野菜を届けた後、リンベルクの街へ行くのが計画されているのはなぜか?
なぜ、そのような話になったのか……それは移民がどのような待遇となるのかアレンが調べ始めて約一年が経つがいまだに調べがつかず。
もう密入国でもいいからクリスト王国を見に行きたいと言う意見がノックスから上がったのが発端であった。
ちなみに、ユリーナが選ばれた理由は、前日にパルストール話のテストをして、そのテストでユリーナの点数が一番よかったからである。
「わかってる」
「なら、いいんだが。じゃ、行くか」
アレンとユリーナの二人はフーシ村へ向けて歩き出した。
歩きだしたところでユリーナがきょろきょろと辺りを見回して口を開く。
「魔物居ない。この森ってブレインの森って場所?」
「ん? そうだ。あ……ユリーナ達ってほとんどブレインの森には入ったことがなかったか?」
「そう、ずっとユーステルの森だった。魔物がいない森ってのが新鮮」
「そっか、そうだよな。けど、この森に魔物は居ないけど、なかなか変わった獣がいるぞ?」
「そうなの?」
「あぁ、なんかでっかい熊が居たりしたし。それからアレだ。青い鳥……ブルーガシルバードを見かけたってんで騒ぎになっていたな」
「え?」
何気なく言ったアレンの一言に、ユリーナは歩きながらも大きく反応してアレンの方へ視線を向けた。
「ん? どうした? なんかあったか?」
「アレンさん、それ聞いてない」
「え? 何を?」
「青い鳥の話……なんで話してくれなかったの?」
「へ? そんな重要な話だった?」
「私もその青い鳥を探しに行きたい。今すぐ行こう?」
「今すぐは無理だろうに」
「わかった。明日……明日、みんなで行こうよ。それならいい?」
「んーやめとこう。ユリーナ達がもっともっと……二回りくらい強くなってくれないと、仮に見つけても召喚契約なんかは結べないだろう」
「え、そうなの? 聞いた話ではA級の魔物と同じくらいの強さじゃないの?」
「一般的にはな。ただ個体差がかなりあるから何とも言えんな。実際にホワイトガブルウルフは……まだ子供であるノヴァでさえA級の魔物の強さを有している。ノヴァの父親であるシルバはN級までとは言わないモノのS級でも上位を張れるほどの力を有していたぞ? 俺とお前達でシルバと同等の強さの奴に挑んだら、勝ち目が少なく死人が出るだろう」
「死人……アレンさんがそこまで言うなら無理なんだね」
「あぁ、それからこの前ノヴァに青い鳥と知り合いかって聞いたんだけど……ホワイトガブルウルフとブルーガシルバードはあんまり仲良くないみたいなんだよな。だから、両方と召喚契約を結ぶと喧嘩になりそうで怖いな。その喧嘩を止めるには骨が折れるだろうし。結果……両方の召喚契約を失うことになるかもしれない」
「ノヴァを失う……そ、それは嫌」
ノヴァを失った時のことを想像したユリーナは、顔を青くしてブンブンと首を横に振った。
「まぁ飛行能力のある青い鳥は魅力的であるのは分かるんだがね」
「……そう、空飛んでみたかった」
「空を飛べたら、どこか行ってみたいところがあるのか?」
「んー考えたことない。……とりあえず、世界を回ってみたい」
「そうか、いいな。空で行けるなら海の先にある土地にも行けるんだもんな」
「うんうん、そうだね」
アレンとユリーナは空を飛べるならどこで何をしたいかなどと雑談しながら、フーシ村に向かって歩いていた。
アレンとユリーナがフーシ村に着くと、アレンに向かってタタタっと走る音が聞こえてきた。
「アレン兄ちゃん!」
屈託のない笑みを浮かべたルーシーが走ってきた勢いそのままに、アレンの胸の中に飛び込んできた。
「おっと、ルーシー。相変わらず、元気だな」
「うん。私は元気だよ」
「そうだな。それでシリアさんは居るか?」
「お母さんは家で市場に行く準備をしているよ」
「そうか」
アレンはルーシーを下すと、シリアが居ると言うルーシーの家へと向かって歩き出す。
そこでユリーナに気付いたルーシーがアレンの服をクイクイと引っ張って、アレンへと問いかける。
「ねぇねぇ、その人は誰?」
「ん? あぁ、冒険者友達のユリーナだ。今日は荷物持つのを手伝ってもらっている」
「フーン、そうなんだ」
アレンの後ろに付いて来ていたルーシーがアレンの横を歩いていたユリーナをムッとした表情で見た。対してユリーナも何も言うことはなかったが、ニコリと笑顔を返した。
アレンの見えていないところで、ルーシーとユリーナの間でバチバチと紫電が走り出したのだった。




