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十四話 魔物。

「ぎゃぁあああああああああああ」


 断末魔とともに、草むらの奥からよたよたと三十センチほどの鋭い牙を四本生やした虎が現れた。


 その虎の眉間にはアレンが投擲したナイフが深く突き刺さっていた。


「あ、しまったな。お前達が戦う相手にちょうど良かったのに……。まぁ、これで食糧の心配はないからいいか」


「すごい。よく気づきましたね」


「んー気配があった」


「アーネルドタイガーは気配なく標的に近づき、首に食らいついてくる。通称森の狩人と言われる魔物なんですが……」


「それより俺には高く売れそうな素材があるのか分からんのだが……わかる奴いる?」


「はい。それは大丈夫です。ノックスとリン頼む」


 ホランドが呼びかけると、隊列の後ろからノックスとリンが前にやってくる。


 そして、解体のため完全に動かなくなったアーネルドタイガーに近づいていく。


「わかったッス」


「個体として小さいけど……B級の魔物をナイフ一本で仕留めちゃうんだ」


「悪いな。すぐに売れなくても高く売れる素材は集めておいた方がいいからな」


 アーネルドタイガーへ近寄っていくノックスとリンへ後ろからアレンが声を掛けた。すると、二人はどこか嬉しそうに解体を始める。


「任せてくださいッス」


「は、はい。ちょっと時間かかるかもだけど」


「まぁ、コイツ等が一番食べるんで……」


 アレンに声を掛けられただけで、やる気を見せたノックスとリンを目にしたホランドは苦笑した。


「それはいいだろう。さて今後どう動こうか?」


「あ……あの山に近づいてみませんか? あの山からの川に」


「あの山か結構遠いが行ってみるか……ん?」


 ホランドが指さした先には、一つの小さな山があった。その山を見て、アレンが頷いたところで何かに気付いたのか周囲を見回した。


「どうしました?」


「アーネルドタイガーの血に誘われてか……周囲にいる気配に動きが感じられる。そろそろここを離れた方がいいな」


「そうですね。しかし、本当にすごい索敵能力ですね」


「さっきも話したが俺はもともとド田舎育ちで子供の頃から森には入ることはあった。それに兵団はいくら精鋭とはいえ少数だったから大軍相手に被害を最小限にするため、奇襲しやすい森の中を戦場に選ぶことも多かったし。軍事訓練でいろいろ……それで必然的にこういう技術が身に付いたな」


「す、すごいですね」


「いや、まだまだ俺の気配読みには甘いところがある。魔物で言ったらB級くらいの魔物でないと個人を判別することができないんだよな」


「十分だと思うのですが……ん? どうした? ユリーナ?」


「……少し悔しい。私の探知魔法よりも早くて精確で広範囲で……私の魔法いらない?」


 それまで、黙ってアレンとホランドの話を聞いていたがユリーナであったが。ホランドに話を振られたユリーナは少し肩を落とした様子で口を開いた。


「いや、必要だ」


 アレンはユリーナの肩に手を置いた。


「勝手の分からない森を進む際に索敵する手段は複数いる。ユリーナの探知魔法の精度が落ちるのは辺りを照らす光源の確保も任せているからだろう。複数の魔法を併用していると精度が落ちるから……ユリーナには負担を強いているな。すまんがもう少し頼むぞ」


「わかった。頑張る。ふすん」


 ユリーナは握り拳を作って意気込んだ。


 そんなユリーナを見て、感心したようすでホランドが口を開いた。


「アレンさんは魔法にも詳しいのですか?」


「俺は一応火龍魔法兵団の団長だからな? 魔法も使えんと」


「あ……そうでしたね」


「それにしてもよくユリーナの変化に気付いたな。そういうのも仲間の変化に敏感なのもリーダーの資質として必要なものだぞ」


 アレンが感心した様子でホランドの肩に手を置いて言った。すると、ホランドはビンッと体を震わせた。


「は、はい! ありがとうございます!」


「さて、ホランド、目印を付けて……ここを離れた方が良いな。ノックス、リン、すまないがその虎の解体は荒くなって構わないから手早く済ませてくれ」


 アレンは辺りをぐるりと見回して……ホランド達に声を掛けた。そして、再びユーステルの森を探索し始めるのだった。




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