百十四話 サッグフェネック。
「あ……あのサッグフェネックが咥えている斧って」
リナリーが最後に姿を現したサッグフェネックが咥えていた斧を目にして、動揺した表情で呟いた。
「リナリー。今は他所事を考えんじゃねーぜ? 今はここを生き残ることだけを考えろ! くるぞ!」
スービアの言った通り、オーンっと鳴き声を上げるとゼルフェネックがアレン達へと飛びかかってくる。
ちなみにサッグフェネックは様子を窺うようにアレン達とは距離を取っている。
周囲から一斉に飛びかかってくるゼルフェネックを前にしてアレンは表情を曇らせた。
ちょっと多いな。
しかし、上位種に進化したか……。
進化理由はルーカス達……多くの人間を殺したことで起こったか。
では、ゴールドアックスで生きているのはギルドに危機を知らせた奴と今ホップが懸命に掘り起こそうとしている奴らだけか?
確か……ゴールドアックスのパーティーメンバーは三十人ほど居た筈だから、冒険者ギルドとしては笑えないほどの事件になるのでは?
……今回はルーカス達がギルドに報告を怠ったことにあるから……どうなんだろう?
まぁ、俺には関係ないことか?
いや、今は目の前に居る敵だな。
俺からしたら、たかがB級の魔物である守るだけならどうにか……スン……ん? 何だ?
アレンが考え事をしていると、迫りくるゼルフェネックに対してまずはスービアが動いた。飛びかかってくるゼルフェネックを次々に切り裂いていく。
「とりあえず……【ファイヤー】」
アレンは持っていた盾に刻まれた火属性の魔法【ファイヤー】の魔法陣に触れる。すると、【ファイヤー】の魔法陣がうっすらと光を帯びる。
次いで、その盾で素早く飛びかかってくるゼルフェネックを弾き返していく。
「リナリー!」
「わかってる! 【ファイヤーボール】」
アレンがリナリーに声を掛けると、リナリーは右手を上に掲げて火属性の魔法【ファイヤーボール】を唱える。
リナリーの頭上には十個の拳二つ分の大きさの火の玉が出現する。
そして、リナリーは掲げていた右手を前に突き出したのと同時に火の玉が高速で打ち出されて……アレンが吹き飛ばしたゼルフェネックやスービアが切り裂いたゼルフェネックへとぶつけて止めを刺していく。
戦闘は、この形……風のように素早く動くゼルフェネックをスービアが剣で切り裂き、アレンが盾で弾く事で生まれた隙にリナリーが魔法でとどめを刺すと言う形で進んでいき。
徐々にゼルフェネックを削っていった。
戦闘が進んでいく中で、不意にアレンは異変を感じ取っていた。
ゼルフェネックは十匹にまで減ったが……。
うむ……やっぱり変だな。
先ずは匂いか。
ほんの微かに甘い匂いが空気に混じっている。
次いで俺の前で戦っているスービアの動きが徐々に落ちてきていること。
最初は疲れから来たものかとも思ったが……。
数日行動を共にしていて、スービアが三十分ほどの戦闘で疲れて動きを鈍くさせるとは思えない。
そして、目に付いたのが俺達の様子を窺っているサッグフェネックだ。
正確にはサッグフェネックの揺れる三本の尾だな……っ。
そう言うことか……それでこの場所か。
何かに気付いたアレンは目を見開いて声を上げる。
「スービア! 一旦下がれ!」