百十話 お腹痛い。
「……いいのか? 助けに行くメリットよりもデメリットの方が多いくらいのクエストだぜ? それに助けに行くゴールドアックスの奴らとお前らとは仲が良かった訳でもないんだろ?」
スービアがリナリーに視線を向けて問いかける。
「ルーカスは気に食わない奴だったけど。助けられるかも知れない命を見捨てるなんてしたくないわ!」
「……っ」
リナリーの答えを聞いて、スービアは黙った。
そこで、アレンがリナリーを見ながら小さく笑い出す。
「ふは、良いんじゃないか?」
「アレン……」
リナリーは少し安堵したように呟くと、アレンを見つめながら肩に手を置いた。
「リーダーが決めたことだし、俺は今回のクエストを受けるのに反対しない」
「ありがとう」
アレンは黙って話を聞いていたホップへと視線を向けた。
「おい、ホップはどうするんだよ? 別にお前はお留守番でもいいが?」
「……だ、誰が留守番か、俺だって銀翼のメンバーだ。付いて行くに決まっているだろ?」
「そうか。……スービア行くかな」
アレンはスービアに視線を向ける。すると、スービアの表情はどこか不満げだった。
「本当に行くのか?」
「行くわ」
リナリーの回答を聞いたスービアはあきらめたようにふぅーと息を吐いて、おでこに手を当てる。
「お前らが行くって言わなければ……断れたんだが。あぁあ……賭けはギルドマスターの勝ちかよ。仕方ねぇー行くか」
アレン達は素早く席立って、冒険者の捜索の準備を整えるべく行動を開始した。
アレン達一行は翌日の早朝……まだ日が出る前にリンベルクの街を出てユーステルの森を歩いていた。
「ううー」
「なんだ? ホップ、まだ腹が痛いのか?」
腹を擦りながら唸り声をホップに先頭を歩き大量の荷物と盾、松明を持ったアレンが声を掛ける。
ちなみにアレン、リナリー、ホップ、スービアの順で隊列を組んで歩いていた。
「あぁ……調子が良くないんだよなぁ」
「昨日、へんなもんでも食ったのか? いや、昨日はみんな同じようなもんを食べてたか?」
「んーたぶんこれはアレだな」
「なんだよ?」
「……笑うなよ?」
「なに?」
「俺は嫌な予感がした時はお腹が痛くなるんだよ」
「「「ぶふ」」」
アレン、そして黙っていたスービア、リナリーも噴き出す。すると、ホップは不機嫌そうな表情を浮かべた。
「だから、笑うなって言っただろうが」
「まぁ、嫌な予感っていうのはそう言う現象に出たりするかな。ブ、ハハ」
「笑うなって……あー腹痛てー」
「ハハ、さっき飲んでた腹痛の薬は効かないのか?」
「だけど……ここまで痛いのは久しぶりだから気を付けた方がいいかも知れないぞ?」
「……そうか。しかし、笑いを取って緊張感を失わせたのはホップなんだけどな」
アレンがそう言うとリナリーとスービアが揃って笑い出した。
「フハハ……もう少し緊張感を持ちましょう」
「ブハハ、笑わせるんじゃねぜ。もしかしたら、ルーカスって奴がゼルフェネックの群れを引き連れてリンベルクの街の方へ逃げて……居ることだってあるんだぜ?」
「俺は笑いを取ったつもりはないからな!」
笑っているリナリーとスービアに対して、ホップは声を上げて反論した。