<拾七>
一瞬だった。
彼女の唇を通して彼女の体温を感じた。
なんと言うか、心地よかった。
そう考えていると今まで恥ずかしくなかった分まで恥ずかしくなった。
「あっ……ごめん」
僕は謝って白石さんから離れた。
彼女も恥ずかしかったのか、頬を赤らめていた。
「……別にもうちょっと続けても良かったのに」
僕と白石さんは数分の間顔を合わせることができなかった。
風が通り過ぎる音しか聞こえなかった。
そんな時、白石さんが口を開いた。
「ねぇ、一つお願いなんだけど……さ」
「何?」
「私のこと……その、暁って呼んで」
「え?」
「わ……私も、徹って呼ぶから」
僕は少し戸惑った。
が、すぐに決心がついた。
「……暁」
そう呼ばれた彼女は笑顔になった。
「徹」
僕の名前を呼んで抱きついた。
どれくらい経っただろう。
長いとも感じず、短いとも感じない時間が過ぎて行った。
すると、5時を伝えるチャイムが聞こえた。
「そろそろ帰ろっか」
僕は暁に言った。
「そうしよっか」
彼女の笑顔が一段と明るく見えた。
彼女を幸せにしたい。
今はただそれだけしか頭に無かった。
どうやってと聞かれたが困るけど、なんとかして幸せにしたかった。
笑顔でいてほしい。
観覧車の時と同じ感覚だ。
「川に飛び込んだ時」
暁が話し始めた。
「私後悔してたの、飛び込まなきゃ良かったって。
これで死んじゃうのかって思うとすごく嫌になって。
そんなとき、誰かわからなかったけど私を助けてくれて……
名前も聞けなかったけど、すごくかっこ良く見えた。
それで徹と出会って、こんな幸せにしてもらって。
ほんと徹には感謝しないとね」
「そんな礼を言われるようなことはしてないよ。
ただ、今暁が幸せなら助けてよかったなって思う」
「ありがとね、徹」
「こちらこそ……ありがと、暁」
見慣れてる風景が違って見えた。
僕は初めて気がついた。
生きてきた中で今が一番幸せだと。
孤独に生きることを恐れなかった。
けど、孤独を望んでなかった。
今、僕の隣に暁がいる。
昔の自分なら、触れるのを恐れて触れなかった。
だけどそれは、触れると暖かく、心地よかった。
僕は今、幸せだ。
けれど、それも長続きしなかった。
突然大きなクラクションが聞こえた。
振り向くと大きなトラックがガードレールを破ってこっちに突っ込んできた。
「危ない!」
僕はとっさに暁を押してトラックから避けた。
けれど、僕はトラックと激突した。
僕は飛ばされ、家の壁に叩き付けられた。
痛みなどで表現できないような感情でいっぱいだった。
倒れてる傍らに暁が必死に話かけてたが、答えることができなかった。
(僕は死ぬんだ)
死を恐れた。
考えられなくなるまで一瞬だったが、ものすごく怖かった。
何も見えなくなる。何も聞こえなくなる。
何も感じなくなる。何も思わなくなる。
どういうことかわからなくて、怖かった。
けれど、そう思う中、暁じゃなくてよかったと思った。
こんな思いはさせたくない。
ならば、ここで死ぬのも本望だ。
暁が……幸せになってくれれば……




