<拾壱>
空がだんだんとオレンジ色に染まってきた。
もうすぐ4時だった。
「じゃあ最後のお楽しみに行きますか!」
そう言って白石さんは走り出した。
僕もこのペースに慣れてきた。
慣れって怖いな……
僕も後を追った。
着いたのは、
観覧車。
一周20分というとてつも長く、でかい観覧車だ。
「最後の楽しみって、これ?」
僕はおそるおそる聞いてみた。
「うん!」
彼女の顔が輝いていた。
この顔には逆らえない。
いつものことだが。
「じゃあ行こうか」
僕たちは観覧車に乗った。
実を言うと高い所が好きなわけではない。
ましてや自ら進んで行こうなど思ってもいなかった。
しかもこの密室の状態で天高く上がって行くわけだ。
想像もできなかった。
沈黙。
やはり最初はこうなってしまう。
白石さんが口を開いた。
「二宮君は高い所好き?」
「好んでは行かないかな……」
「そうだったの? それなら早く言ってくれれば良いのに」
いや、断る勇気がなかっただけです。
「まぁ乗っちゃったし仕方ないね」
「うん」
そう、仕方ないのです。
彼女は少し寂しそうな顔をした。
「この観覧車ね、友達との思い出の場所なの。」
「そうなんだ」
「うん。今日と同じ感じで遊んで最後に観覧車に乗って、
そこで転校することを打ち明けて、泣いちゃった。」
「……」
何も言えなかった。
なんて声をかければ良いかわからなかった。
彼女は続けた。
「けど友達はずっと私を励ましてくれた。
『頑張ってね』って。
だからこうやっていられるのかもしれない」
「それで良いんじゃない?」
「え?」
「過去を悲しむよりさ、今を見ている方が良いと思うよ。
そっちの方が白石さんらしいしさ」
「そ、そうかな」
彼女は照れくさそうに笑った。
「あっ」
彼女が外を見た。
「ねぇ、外見てよ。すごくきれいだよ!」
気が進まなかったけどせかされたので見てみた。
オレンジ色の夕焼け。
太陽に反射する町の硝子。
点としか見えない人が歩いている様子。
それは質素で、でもどこか繊細だった。
「……きれい」
僕はぽつりと言った。
彼女の方を見てみる。
瞳が太陽の光を浴び、輝いている。
頬が夕焼けと同じ色をしていた。
そして、
瞳から一粒涙が流れた。
キラッと光ったと思うと一筋の線となった。
彼女の涙に全てが詰まっていた。
昔の想い出、友達、感情。
それらが彼女の涙を作っていた。
僕は何をすればわからなかった。
ひたすら彼女の涙を見ることしかできない。
そんなの嫌だ。
衝動だった。
僕はいつの間にか彼女を抱いていた。
何も考えていなかった。
刹那の時間。
人のぬくもり。
「二……宮君?」
僕は我に返った。
なんか暖かい。
「あっ!ごめん!」
僕は急いで手を離した。
「泣いてるから、つい」
そう言い終わる前に彼女が僕を抱いた。
「うわぁぁぁああああん」
彼女は糸が切れたように号泣した。
僕は彼女の体にそっと手を回した。
刹那が永遠に感じた。
そうなって欲しいとを願った。
こうやって、彼女を近くに感じていたかった。
彼女を守りたかった。




