<序>
あの日はいつもと変わらない日だった。
空は晴れ、太陽がさんさんとこちらを照らしてくる。
いつもと変わらぬ通学路。
生徒達が皆学校に向かい歩く。
見慣れた制服。見慣れた光景。
全てが見慣れてしまった。
ただ一人の少女を除いて。
一瞬だけ違和感を感じた。
茶色い髪が風になびかれ、ゆらゆらと揺れていた。
大人びているが、どこか幼い顔の女の子。
一人立ち止まり、僕を見ていた。
視線、眼差し、眼光。
それら全てに当てはまるものを受けていた。
そして彼女は僕につぶやいた。
「あの……これ……」
手にしていたのはタオル。
見覚えがある。
あっ……思い出した。
そういえばそんなこともあったな……
桜も散り、若葉が見え始めた頃。
僕たちは出会った。
いや……既に出会っていたが気にしなかった。
今思えばそれは偶然でもなければ、必然でもない。
ただ……お互いが願っていただけなのだ。
あの日はいつもと変わらない日……のはずだった。
一ヶ月前。
4月のいつだったかは忘れた。
ただあの日は雨が降っていた。
僕は一人で帰っていた。
橋に差し掛かると同じぐらいの少女がいた。
傘もささずにただ立って橋を見下ろしてる。
そして
飛び降りた。
うっすらと涙を魅せながらーー
一瞬の出来事だった。
僕は一瞬立ち尽くした。
一言で言えば……
自殺。
何があったかは知らない。
ただ彼女は泣いてた。
死ぬのに対してかはわからないけど、
無性に嫌だった。
自分も橋に駆け寄り、傘を捨て、飛び込んだ。
飛び込んでから気づいたが、
川の流れはいつもより速い。
しかし彼女の姿は確認できた。
僕は水に打たれた後ひたすら泳いだ。
ただひたすら、彼女に追いつくまで。
そして彼女に触れた。
彼女を掴み、岸の方に泳ぐ。
僕たちはなんとか岸に上がることができた。
彼女は座り込んだまま僕に向かって言った。
「なんで助けたんですか!」
とても怒っていた。
それだけ死にたかったのだ。
「普通は助けると」
「なんでですか?私はただ死にたかっただけなのに……」
死にたかった……
だけど……
「じゃあなんで泣いてたの?あの橋で」
「……!」
彼女は戸惑ってた。
彼女からしてみれば、「死」なんて大それたモノなのだ。
だから決心しても怖くなる。
それが人間だから。
「歩ける?」
僕は聞く。
彼女は頷いた。
彼女と一緒に橋まで行った。
とりあえず僕は鞄からタオルを出した。
「風邪引いちゃうよ」
そう言って彼女に渡した。
彼女は何もしない。
「風邪引いちゃうってば」
そう言ってタオルで彼女の顔を拭いた。
拭いてる最中に気づいたが、僕は一体何してるんだろう……
彼女の体温が冷えきっていた。
もう手遅れか……
タオルを再び渡すと彼女は髪を拭き始めた。
きれいな茶髪。少し見とれていた。
「これ、洗って返します」
彼女はタオルを指しながら言った。
「別に気にしなくていいのに」
「それはできません」
強く否定された。
「……わかった。じゃあ洗ってください」
「はい」
彼女は笑っていた。
その笑顔は数分前まで死のうとしていた顔じゃなかった。
一言で言い表せない、純粋な笑顔。
なんで死のうなんて思ったのか……
沈黙が続く。
「あの……」
彼女が口を開いた。
「あ……ありがとう」
彼女はタオルをいじりながら言った。
「気にしなくて良いよ」
そう言って僕は家に向かった。




