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2

木が激しく揺れ、葉と葉がすれ合う音がする。


まるで木が生きているみたいに。


一生懸命風の力を借りて。


彼女も誰かの力が必要なのだろうか。


誰かがそばにいないと枯れてしまうのだろうか。


でも何故僕なのだろう。


年上の彼氏がいるじゃないか。


僕らはあの後何事も無かったかのように帰路についた。


と言いたいところだけれど、そういうわけにもいかずさすがの彼女も、いっさい口を開かなかった。


無言のまま、どちらが言いだすこともせず今は学校のそばにある公園のベンチで座っている。


辺りは真っ暗で外灯の明かりだけが煌々と辺りを照らしている。


最近外灯はLEDになり、前はこの時間もっと暗くて、相手の顔なんて分からなかったなと何でもないようなことを思っていた。


彼女は暇を持て余しているのか足を前後に交互に揺らし地面に擦らしていた。


普段はそうでもないが、今はその音がやけに響いていた。


すると彼女が顔を上げて「何の感想も無いんだね」と呟いた。


僕の顔ではなく遠くを見るように正面を向きながら。


僕は街灯に照らされ、肌の白さが際立つその横顔を見ていたら、何だろう守ってあげたい気持ちが湧いてきた。


「急にあんな事実を告げられて感想を言えるほど僕は出来た人間じゃないよ」


すると彼女は僕の方を見て表情を変えずに言った。


「じゃあそのままの君で良いからずっと私のそばにいてくれる?」


「え?」


僕は驚き何の言葉も出てこない。


今日こういう感情になったのは何度目だろうか。


すると彼女はハッとしたような表情になり慌てた様子で付け加えた。


「ごめんね。勘違いしないでね。告白とかじゃなくて、駿君みたいな人がそばにいてくれるとこの先安心するから」


「僕みたいな人って」


「根掘り葉掘り聞いてこない人」


「僕が聞く前に君が根掘り葉掘り自分の事を言ってきたからね」


彼女は微笑むと「やっぱり想像通りの人だった」といい手を差し出してきた。


「これからよろしくね」


何か未だに理解できていない僕はその手を握り返した.


その後も何故か放課後になると僕の前に現れて、何度もデート?に連れて行かれた。


何度も言っている内に僕も慣れてきたから不思議なものだ。


実は、彼女は誰なのか、調べようと各クラスを何気なく除いたこともあるが、彼女に関することは何もわからなかった。


各年次の教室も同様だが、あまり何度も覗くとおかしいので前を通りかかった時だけであるが。


僕の謎は深まって行った。


この学校に入学して一度も見たことがないし、日中に意識してみても見つからない。


いくらなんでもこんな事あるのだろうか。


でも同じ学校の制服を着ている。


しかし、疑問はそう遠くない時期に分かることになった。




世間は狭い。


そんなの小説やドラマの中の話しかと思っていた。


次の日登校するとクラスの中は蜂の巣を突いたような状態になっていた。


「イケメンボーイの登場だ」


皆が僕の方を向き拍手で向かいいれた。


それはもちろん歓迎の意味ではなく、冷やかし百パーセントの意味を込めて。


「何のことだよ」


僕が問うと皆が黒板を指さしている。


そこには手を握っている絵が描かれていて。左側には僕の名前。


右側には超絶可愛い女子と書かれていて、中央にはハートマークが描かれていた。


見た瞬間昨夜の公園での事を見られたと悟った僕は慌て黒板消しで消し始めた。


背中に突き刺さっているであろう皆の視線を感じながら。


するとざわめきと共に、横にすっと手が伸びて来て黒板を消し始めた。


――嘘だろ。


――可愛いじゃん。


――あれは本当に駿か。


――見たことない。同じ制服着てるのに。


そんなざわめきにも動じず鼻歌を歌いながら彼女は駿と並んで消し続けた。


消し終えた彼女は廊下に向かい、扉の前で振り返ると満面の笑みで言った。


「今日も昨日と同じ時間に校門の前で待ってるね」


彼女は去って行った。


クラス中の熱い視線と引き換えに。




クラスメイトからの事情聴取をいなしながら時間を過ごしていたらチャイムが鳴った。


事情聴取も何も昨日会ったばかりで、彼女の事は何も知らないのだけれど。


唯一知っているのは彼女がもうすぐ死ぬということだけ。


だけど、その事を他の人に言ってしまうのは気が引けて黙っておいた。


担任の教師である村上が入って来てクラスの雰囲気はいくらか締まった。


といっても、ドラマのようにガラッと変わるかといったらそれは違うのだが。


すると村上は開口一番「転校生がいます」と言った。


転校生といえば、各学期のきりの良い始業式の時と相場は決っているので誰もが驚いた。


早速転校生を招き入れるとクラス中は時が止まったかのように静まりかえった。


その転校生を見る者、そして僕を見る者。


僕はといえば転校生から目を離せないでいた。


「今日からこのクラスの仲間になることになった、新野彩さんです。学期中で色々と大変な面があると思うので助け合って生活して下さい」


彼女改め彩は一歩前に出ると「新野彩です」と言い頭を下げた。


数人の男子生徒がこの静まりかえった空気を破るように盛り上げ、手を叩いた。


すると次第に拍手が大きくなっていき、クラス全体で歓迎のムードが出来上がった。


その時、綾は僕の方を笑顔で見つめていた。


僕の席の隣は空席になっていた。


前学期に転校してしまった生徒が一人いてその席はそのままになっていたのだ。


嫌な予感がした。


とてもとても…


「新野さんはあそこの空いている席に着いて下さい」


村上が言うと僕は思わずガクッと首を折ってしまった。


彩が僕の隣に来ると「運命だね」と小声で僕に言うのであった。


「そういうことをここで言わないでもらえるかな。勘違いされると困るんだよ」


「別に私は構わないけど」


「あのねぇ、君は構わなくても僕は構うの」


「何その日本語。その前に君じゃなくて彩って呼んでくれないかな?さっき自己紹介したじゃない」


いつの間にか声が多きくなっていたのか村上から注意された。


「いきなり仲がよくなるのは良い事だが、まだホームルームは終っていませんよ」


僕と彩は揃って頭を下げた。


周りのクラスメイトはクスクス笑いをこらえていた。

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