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最終話

薄い霧のような中で僕は一人で立っていた。


僕は何でここにいるのだろう。


霧が濃すぎてまわりが何も見えない。


ここはどこだ。


とりあえず「父さん!母さん!」と叫んでみたが、何の反応もない。


聞こえてくるのは山びこのように数回にわたって返ってくる自分の声だけだ。


次に、「彩!」と叫んでみたが、同じことであった。


何がどうなっているのか訳が分からず、うずくまっていると、一人分と思われる足音が近寄ってきた。


僕は何故かその足音を聞いたことがあるような気がして、思い出そうとすると、ふっと僕の頭に彩の事が思い浮かんだ。


「彩?」


しかし、その足音のリズムは全く変わらなかった。


勇気を振り絞って顔を上げると、うっすらと人の影が近づいて来ていた。


そのシルエットを見ただけで僕は確信した。


「やっぱ彩だ!」


僕は力いっぱい両手で合図を送るも、その影は淡々とこっちに歩いてくるだけだ。


すると僕の頭が激しく痛んだ。


その影が近づくにつれて。


何か、僕が忘れているような。


いや、違う。


忘れていたんじゃない。


僕の頭が考えることを拒否しているようだ。


もう一度僕は「彩!」と叫ぶも一向に何の反応も示さず僕に近づいてくる。


その影が限界まで濃くなってそお正体が露わになると僕は恐怖でおののいた。


顔は体は血だらけで顔はオオカミの彩だった。


なぜオオカミの顔だったのに彩だと思ったのだろう。


逃げようとした時にはもう遅かった。


そのオオカミ人間は大きな口を開け僕に襲いかかってきた。


すると微かにいつも彩の髪から漂ってくるシャンプーの臭いがした。


やっぱり彩だったんだ。


そんなことを瞬間的に思うと同時に、目の前にはもうオオカミの大きな口があった。


もう駄目だ!


また僕の意識は真っ暗になった。




すると今度は微かに僕の名前を呼ぶ声が意識の中に入って来た。


――今度は何が起きるんだ。


その声を聞いている内に、その声はだんだんと大きくなってくる。


そう、さっきの霧の中の影のように。


――また食われるのかな。


すると、また彩の髪の臭いがした。


だけど、さっきとは何かが違う。


全身で彩の存在を確認するような感覚。


彩の他にも声がしてきた。


――父さんと母さん?


すると、再び頭が激しく痛んだ。


今度は我慢できないくらいに激しく。


僕は思わず叫び声をあげた。


何度も何度も。


そして気づいた。


自分の身体の存在に。


頭か順に足先まで。


全ての部位に意識が通った時、何かが覚醒する感覚があった。


そして真っ暗闇だった僕の世界は眩いばかりの光に包まれた。




僕はものすごい光の中で、はっきりと彩の声を認識した。


「駿君!わかる?彩だよ」


僕は目を上手く開けることができないので、諦めて口を動かそうとした。


その口も信じられないくらいに重かったが、声を発することができた。


相手に聞こえたか分からなかったが。


「好きだよ」


何故、僕はこんな言葉を発しているのだろうか。


すると誰の声も聞こえなくなった。


聞こえるのは何かの機械音だけ。


規則的に鳴っている。


すると、目が軽くなってきてうっすらと開けることができた。


見えるのはどこかの天井か。


――僕の部屋の天井ってこんな白かったっけ?


すると、急に何人もの激しい泣き声が聞こえた。


「なんで泣いてるの?」


一生懸命口を動かすと、また彩の声が返ってきた


「もうバカ!」


僕は、痛む頭を我慢しながら、記憶をたどった。


――研究所前に呼び出されて……


僕は全てではないが思いだし、ようやく意識も周りを認識できる位には戻って来た。


――彩が危ないんだ!


僕は体を起こそうとすると身体全体に激痛が走った。


僕がうめき声をあげると母さんが僕を易しく抑えた。


「まだ駄目よ動いたら。もうすぐ先生がくるから」


「そんな場合じゃないんだよ。彩が、彩が」


すると母さんの母さんの横から彩が顔を出した。


「よかった。無事だったんだ!」


「うん。ここに運び込まれたときの駿君見たら、死んじゃったと思ったんだよ」


「そんなにひどかったの?」


「覚えてないんだね。どこまで覚えてるの?」


最後は母さんが問うた。


「ジャクソンって人が日本が研究成果を私利私欲の理由で研究所を破壊してみたいなところまでかな」


父さんが言った。


「俺も駿がそんな事に巻き込まれてるの知らなかったから、さっき全貌を聞いたんだ。駿はその研究所の破壊のための爆発に巻き込まれたんだ。そのジャクソンっていう人と共に」


「ジャクソンさんは無事だったの?」


三人は顔を見合わせると沈んだような顔をして彩が答えた。


「ジャクソンさんは昨日亡くなったの。駿君と一緒に運ばれたんだけど……」


「ジャクソンさんが…」


「発見されたときジャクソンさんは駿君におおいかぶさっていたようなんだけど、そのジャクソンさんの背中には夥しい量のガラスの破片が刺さっていて、その一つのガラスの破片がかなり大きかったようで…」


「じゃあジャクソンさんが僕をかばってくれたってこと?ジャクソンさんが庇ってくれなかったら僕しんでたってこと?」


父さんは涙を浮かべ、流すのをこらえながら答えた。


「ああそうだ。ジャクソンさんはな、亡くなる数十分前に一瞬だけ意識を取り戻して、駿と彩ちゃんにすまないと伝えてくれって。自分の力不足で二人の輝かしい人生に大きな傷をつけてしまったと」


僕の目からは涙が溢れ、父さんのように涙を流さないよう我慢することが出来なかった。




数日後、僕は未だに入院はしていたが、意識もはっきりしていて少しずつではあるが、回復していた。


今僕のベッドの傍らには彩が座っている。


「一つ聞いていい?」


「何だよ。あらたまって」


彩は少し下を向くと意を決したように顔を上げ少し顔を赤らめながら僕に問うた?


「駿君が意識を取り戻したときに、私に言ったあの言葉は、その、そのまま受け取って良いの?」


――何て言ったっけ?


その時は、意識が朦朧としていてその時のことを上手く思い出せない。


僕が何も言わないでいると彩が「覚えてないの?」と少し困った顔をした。


ここで嘘をついても仕方が無いと思い素直に頷いた。


すると彩は微笑むと話し出した。


「私、正直不安だったの。駿君がこんなことに巻き込まれて。研究所では駿君は彩が無事でいればそれでいいって言ってくれたけど、何ていうか、色々私のことで命の危険にまであって、私のことをどう思っているのかなって」


「どうって…」


「でも、駿君この前、意識を取り戻したときに言ってくれたんだよ『好きだ』って」


「そんなこと言ったんだ」


彩は俯き加減で頷いた。


「彩がどう思っているのか知らないけど、僕は彩がオオカミ人間であっても、僕自身が命の危険にあっても、彩のことが好きだという気持ちが少しも揺らいだことはないよ」


こんなこと普段は恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないのに、この時はすらすらと言えた。


彩はパッと顔を上げると僕に泣きながら抱きついてきた。


すると、とっさに彩は身体を離して慌てて僕に問うた。


「ごめん、まだ痛むよね」


「ちょっとね」


僕はその痛みも心地よいものに感じるほどの温かい気持ちになった。


すると、その時病室のドアをノックする音が聞こえた。


僕が返事をするとドアの向こうから『笹沼だけど』と声がした。


僕は再び頭痛が襲ってきた。


今の今まで忘れていたが、ジャクソンが笹沼の正体は話を聞けば分かると言っていたが、正直今一分からなかった。


分かっているのは笹沼が日本政府から研究所を破壊しろと命令を受けたことだけだ。


僕の代わりに彩がドアを開けると、笹沼が微笑みながら入って来た。


笹沼はお見舞いだと言い、たくさんの菓子類を僕に見せた。


「こういうところだと、菓子類は売ってないと思ってね。駿君ぐらいの年頃だとそろそろこういうの食べたくなるんじゃないかと思って」


笹沼の言う通りで出てくるのは病院食ばかりで売店にもあまり売っていないので、そろそろ両親に頼もうかと思っていたから嬉しかったが、笹沼の正体が分からぬ今、正直笹沼に笑顔を返すことができなかった。


すると心配した彩が「駿君、そんな怖い顔してどうしたの?」と問うた。


「笹沼さん。あなたは一体何者なんですか」


さっきと言い今日は、普段は言えないようなことがぽんぽん口から出てくる。


笹沼は虚を突かれたような表情をするも、すぐに元の顔に戻した。


「ジャクソンからそこまで聞けなかったんだね。彩ちゃんには君がまだ眠っている時に説明したけど、正真正銘あの施設の研究員だよ」


僕は目を見開いて怒りを覚えた。


やっぱりあの施設を爆発させ、ジャクソンもろとも巻き込んだ犯人なんだ。


すると、彩が「怒らず最後まで聞いて」と言うので素直に聞く事にした。


「君を騙していたのは本当に申しわけないと思っている。その研究員ともう一つ別の顔があってね、出版社の職員というのも一つの顔なんだけど、実はアメリカのスパイだったんだ」


「えっ……」


「スパイと言っても、日本の研究を横取りしてやろうとかそういう話じゃないんだ。実はジャクソンの説明には何箇所か誤解を与えるような表現があったんだよ」


「何で内容まで知ってるんですか」


「あれは録音していたからだよ。ジャクソンの指示でね。ジャクソンが日本語が堪能と言っても母国語じゃない。だから何か君に誤解を与えるといけないからって、それだけ大事なことだからと。爆発が起きる直前に僕に届いていたんだ」


「記憶にあまりないけど、研究所を破壊しろと政府から命令されたっていうのは」


「それは事実なんだ。でも少し説明が足らないようだね」


すると笹沼はジャクソンの説明に補足するように話していった。


当初ジャクソンは日本の研究チームが大きな成果を上げつつあると聞いた。


本来ならば、大まかなことまで情報が伝わって来ても良いところだが、日本の情報管理をこれでもかと徹底していたことで、それ以上の情報は入ってこなかった。


そんな中で笹沼がジャクソンを訪ねた。


当初笹沼は早急にこの研究成果を全世界に公開し、オオカミ人間の遺伝子操作の知識を共有するべきだと主張していた。


もちろんそうなると思っていたから、この研究に携わってた。


しかしこの研究の第一人者であるKこと久米は、日本が科学で世界をとるチャンスだから、完全にオオカミと人間を分離させることができたなら後悔すると言い出した。


笹沼ら数人の研究員は猛抗議したが、久米を聞く耳を持たず、一人の男を最終実験として研究所に連れ込んだ。


彩の父親だ。


そして、研究は見事に成功。


その頃、笹沼はオオカミ人間に纏わる会議をアメリカで開くための打合せをしに、ジャクソンのもとを訪れていた。


笹沼は意を決して久米の考えを打ち明けた。


もちろんジャクソンは激怒した。


しかし、冷静になったジャクソンはこれ以上事が進むと本当に取り返しがつかなくなると笹沼にアメリカのスパイとして逐一報告をしてほしい笹沼に要請した。


笹沼は即答し、ジャクソンと逐一連絡をとるようになった。


そして人体実験も佳境に迫ったころ、ジャクソンから連絡を受け笹沼はあることを頼まれた。


日本政府に情報を漏らしてほしいと。


てっきり笹沼は日本政府も容認していると思っていたが、政府は何も知らず、中々成果が上がらないので日本政府からアメリカ政府に水面下で共同研究を全世界に発表し、オオカミ人間の存在を公表するよう要請していたのだ。


これを聞きつけたジャクソンは、好機とみて笹沼に要請した。


ジャクソンもアメリカ政府に情報を漏らすも、笹沼の立場からではすぐには情報は日本政府に漏れ出さなかった。


すると、どう尾ひれがついたのか、日本の研究成果をアメリカが盗もうとしていると噂が広がり、日本政府がアメリカ政府に抗議する事態となった。


アメリカ大統領がジャクソンに怒鳴ったときと同様に『ことの重大さがアメリカ側は分かっていない!』と。


歴史的背景から見ても日本が直接アメリカにこれだけの講義をするのは無いことでアメリカ大統領も何かあると察し、日本政府から話を聞いた。


合点のいったアメリカ大統領はジャクソンを日本に送り日本政府に笹沼と共に説明した。


理解した日本政府は政治の道具にされかねないとし、アメリカと協議をし、研究所の凍結を決めた。


しかし、凍結といったところで、研究所が残っている限り水面下で取引が可能になってしまうと察した日本政府は笹沼に研究所の破壊を命じた。


しかし、その日付はその破壊する予定日の三日も前であった。


ジャクソンももちろん知っているわけで、でなければ研究所の近くに僕を呼び出したりしない。


どこの誰が研究所を爆発させたのか。


しかも広大な規模の研究所を爆発するのは、膨大な数の爆薬であったり、時間が必要で、ジャクソンと笹沼は頭を悩ませた。


もちろん日米の政府も同様で早急に調査に乗り出した。


これが笹沼の説明であった。




「その研究所を爆発させた人は誰なんですか?」


「それが分かってようやくお見舞いにこれたんだ。犯人探しで手一杯でね」


僕と彩は笹沼の次の言葉を待った。


そしてその犯人は意外な人物であった。


「久米だったんだ」


僕と彩は言葉を失った。


あれだけこの研究成果を科学競争の道具にするといって聞かなかった久米がその研究室もろとも爆発させるとは。


「爆発後早い段階から、犯人は久米ではないかという考えはあったんだ。しかし、行方がつかめなくてね。一時、本人も爆発に巻き込まれたのではないかという声も上がったんだけど、とうとう尻尾を出したんだよ」


「それはどういう事ですか」


「それは久米が外国のいわゆる富裕層に接触しているところを抑えたんだ。調べによると、久米は研究が軌道に乗り始めた頃、日本国内の富裕層との接触があったことがわかったんだ。そのことから久米が怪しいのではないかと思い始め、調査したところどんどん久米が犯人だという証拠が出始めてね。彼も科学の技術は誰もが認める腕があったが、そういう裏の取引の技術はまだまだ子供だったんだ」


「どういった接触だったんですか」


「簡単に言うと研究データを売りつけていたんだ。そして、日本国内富裕層はその研究データを他国の富裕層に更に高値で売りつける。そんな話になっていたようなんだ。しかし、研究が成功した久米はその研究データを直接外国の富裕層に売りつけた。そんなことをすれば日本国内の富裕層他国に売りつけることが出来なくなるし、出来たとしてもかなり安値になる。そうして起こった日本国内の富裕層は久米に詰め寄った。そしてその詰め寄った富裕層の中に日本の警察がマークしていた富裕層がいてね。よく小説等に出てくる公安という名前の部署なんだけど、その公安が金銭の取引する現場をばっちり記録していたんだ」


「何故、逮捕しなかったんですか?逮捕していたら、その後の久米の海外富裕層への売りつけは無かったんじゃ」


「駿君は頭が良いんだね。何故逮捕しなかったのか。こんなこと未成年の駿君と彩ちゃんに言うべきではないのかもしれないけれど、その富裕層を泳がしていたんだ。そもそも、その研究をしていることは警察も知らないことだったからね」


「その金銭との見返りがその公安は分からなかった…」


「その通りだ。報告を受けた警察のトップは日本政府に協力を要請したんだ。この富裕層の相手は一介の研究者なようだが、何をしている何者なのかと」


「研究者という事は分かっていたんですね」


「そこなんだよ。全く身元が分からない人間だったら、公安もそこまで急を要せず、時間をかけて調査をしただろうが、久米は普通の研究者にしか見えなかった。何かあると踏んだ公安は久米をマークしてその研究所の存在を掴んだんだ。そして日本政府に説明を求めた公安はこのオオカミ人間、クローンの実験の存在を知った。あとはもうその手のプロである公安はあっという間に逮捕寸前までたどり着いた。それに感づいた久米は研究所を爆発させることを思いついたんだ。いや、誰かの入れ知恵の可能性もある。恐らくどこかの富裕層から入れ知恵でもされたのだろう。そうすればあれだけの爆薬を手に入れられたことも納得できる」


「でもそんなことがあったのにまたそのデータを外国に売りつけるなんて思いつくものですか」


「恐らく久米には金が無かったんだろう。国内で富裕層から受け取った金銭はどうやら国内でいくつも口座を開設し、複数の口座に振り込んでいたんだ。もちろんそんなのは警察が調べればすぐに分かる。その事に久米も気づいたんだろうな。金を下ろすと自分の居場所がばれると踏んだ久米は海外に飛びその国の富裕層に売りつけたってわけだ」


「じゃあ久米が見つかったのは…」


「そう海外でだよ。まぬけなことにその売りつけた富裕層にその国の大使館に放り込まれたんだ。そりゃそうだ。データの価値が金銭がどうとかいう問題の次元じゃないんだからね。そのことを分からなかったのは久米と日本国内の富裕層だけだったんだね。今の日本の現状を突き付けられた気分だよ。駿君と彩ちゃんはあまり知らないかもしれないが日本の景気がピークになり、バブル景気と呼ばれ、そのバブルがはじけ一転どん底まで落ち込んだ反省が全然生かされていないんだね。」


「「目先のことばかりに気をとらわれ過ぎてるんですね」


「そうだね」


すると彩がクスクスと笑いだした。


「もしかして駿君爆発の影響で頭良くなったんじゃない?」


「そんなわけないよ。爆発したときのことはあまり覚えてないけど、聞いたとき、よく死ななかったなあって思ったんだからね。死を覚悟するよね」


まだ一連の出来事に対する傷は残っている僕と彩であったが久し振りに何の違和感もなく笑った。


「ところで今後の研究はどうなるんですか?」


「ゼロからスタートさ。第一人者の久米が逮捕されてしまったからね。ゼロからといっても、表向きの研究結果はあるわけだから、全くゼロってわけでもないけど、こういう研究っていうのは、また久米みたいな人間を生む可能性があるんだ。まだ、世界中の誰も明らかにできていないことだし、全世界がその解明を求めているからね。ゼロからというのは、研究する組織だったり、人選だったり、研究方法だよ」


僕と彩は真剣に今の言葉を頭の中で反芻した。


「こんなこと本当は言ってはいけないのだけれども、幸いなことに彩ちゃんの身体にはオオカミの遺伝子は残されていないし、報告によると人間の遺伝子の増加の傾向もあるようだからね。人間は遺伝子が少ないと増やすことが出来るのだろうね。だから、彩ちゃんが研究に巻き込まれるようなことはないと思うんだ」


僕と彩はそっと胸をなでおろした。


病室の窓から見える外の景色は既に真っ暗で、そこには真ん丸な月が輝いていた。


その月を色々な思い出眺めていた三人。


すると僕の身体が疼き始めた。


まだ、身体は治っていないのだろうか。


異変に気づいたのは彩であった。


「駿君大丈夫?息が荒いし、顔色が悪くなってきたよ」


笹沼が怪訝な顔をしていると、僕の身体はどんどん疼きが酷くなり、僕は思わず体を丸めてもがいた。


その時、笹沼が何かを悟ったように、彩に「病室の外に出るんだ!」と彩を強引に病室から連れ出した。


「爆発のときに何らかの成分が駿君の身体に入ったのか。まさか、空気感染でもするのか」


笹沼もどうしようもないようで、考えるように呟いているが、僕は笹沼の言葉を耳に入れる余裕もない程であった。


――体が変化していく!?


目を瞑った中で自分の身体の変化を認識していた。


そして、身体の疼きが限界を迎えた時、思わず叫んだ。


しかし、既にそれは僕の声ではなかった。


それは紛れもなくオオカミのどこまでもとおる大きな咆哮であった。


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