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009 まだ不器用でも

ブクマ、評価、コメント、ありがとうございますッ!٩( 'ω' )و

これからもよろしくお願いします。


「……今回の俺の対戦相手は、お前だな?」


 黒斗はサリーやバベートよりも前に出て、ターウスを指さした。


 正直言えば、やっぱり怖いというのが本音だ。

 それでも、ターウスの姿は間違いなく、特撮番組『仮面闘士ゲーマリオン』の作中において、ウィルサークと呼ばれる現象によって怪人化した人間――ウィルサーカーだ。


 ウィルサーク現象は、ゲーマリオンの世界において有名なVRMMORPG……そのプレイヤーを襲う現象だ。それによって、ゲーマリオンにおける怪人ウィルサーカーは出現する。


撮影済みの時点ではまだ原因は不明。

 かろうじて、怪人化した人たちが有名なゲームのプレイヤーだったという共通点が分かった程度だ。


 ゲームのタイトルは『ヴィクトリーロードファンタジー』通称『VRF』。

 VRFは完全五感没入(フルダイブ)型という、まだ現実の地球では開発されていないタイプのゲームだが専用のヘッドマウントディスプレイを付けることによって、本当に異世界にダイブしたような体験ができるというゲームだ。


 同時に、撮影の始まってないシーンの一つに、ゲーミングベルターを介さずガチャプセルを使うと、その場でウィルサーク現象が発生するというものもあったことも思い出す。

 おそらく、以前のグランオークも、目の前の彼も、そうしてウィルサーカーになってしまったのだろう。


 そして、ウィルサーカーとなった人間を元に戻すには、ゲーミングベルターを介して、クラスガチャプセルのチカラを使う必要がある。

 つまり遊戯を司(ゲーミング)る仮面闘士(マスカレイダー)のチカラが必要なのだ。それこそが、作中の主人公ゲーマリオンであり、同質のチカラを持つ闘士であるユーザリオンである。


 だからこそ、黒斗は一歩前に踏み出す。

 作中の設定通りであれば、この場で彼を元の人間に戻せるのは自分しかいないのだから。


 そういえばグランオークは倒したあとで放置してきてしまったけど大丈夫なんだろうか――そんなことがふと脳裏に過ぎったが、その心配は脇に寄せた。


「クラスガチャプセルは特殊なチカラの結晶だ。

 適正がない者、あるいは使い方を間違えた時……正しく使えないのであれば、その身がウィルサークという呪いに浸食され、ウィルサーカーと呼ばれる怪人と化す」


 そう口にしながら、さらに一歩前に出る。

 黒斗自身もわざとらしい説明台詞だとは思うが、サリーとバベートに対する説明も兼ねている。


 ファンタジー世界でゲームに関連した概念や細かい設定の話が通じるか分からなかったので、その部分は端折って、最低限の部分だけを口にする。


「その胸に埋まっているガチャプセル……クラスは僧侶か。

 少しばかり乱暴になるが、取り除いて、正気に戻す……ッ!」


 告げて、黒斗が走りだすと、待ちかまえていたターウスが、先端に鏡の付いたロッドを槍のように突き出した。


 それを上半身を逸らして躱し、ターウスに肉薄する。


「せいッ!」


 懐に潜り込み、ボディに拳をたたき込む。

 戦闘経験なんてロクにないのに、相変わらず勝手に身体が動いてくれるのは助かる。


 拳を放った時の踏み込み足を軸にして、続けて後ろ回し蹴りを放つ。

 蹴りがヒットすると同時に火花が飛び散り、同時にターウスも吹き飛んだ。


(変に暴れ回られる前に、とっとと終わらせるッ!)


 黒斗は、バックルの中央――ユーザリオンの顔をイメージしたアイコンが表示されているタッチパネルを撫でてから、バックル上部のスイッチを押し込む。


《クリティカルタ~イムアタック!》


 ゲーミングベルターの音声と共に、右手が光り輝く。


「シャインクリティカルナックル……いくぞッ!」


 その右手を構えながら、立ち上がるターウスへ向けて地面を蹴った。

 黒斗の姿がブレて見えるほどの速度で駆け抜けて――


「うおおおおおお――……ッ!!」


 金に光る拳でターウスを捉えつつ、ターウスごとしばらく突き進み、


「うらぁぁ……ッ!」


 最後に力強く地面を踏みしめながら拳を突き出した。

 全身の各所から、血の代わりに火花をまき散らしながら、ターウスは吹き飛んで、地面を数度バウンドし、転がっていく。


 まさに瞬殺。


 黒斗が攻撃を仕掛けてから、あっという間の出来事に、見ていた者たちはそう思った。

 ターウスはよろよろと立ち上がるが、血の代わりとでもいうように全身からバチバチと飛び散る火花は収まっていない。


「今ので倒し切れないなら……ッ!」


 続けてもう一発、高威力の一撃を放とうと黒斗が構えた時――ターウスがゆっくりと手にした杖を天に掲げる。


超級治癒光術(ルオノアル)


 ターウスがくぐもった声で言葉を紡ぐと共に、彼を中心に複雑な魔法陣が地面に描かれた。そして、あっという間にターウスの傷が治っていく。


「なに……?」


 黒斗が驚いていると、後ろからバベートの声が聞こえてくる。


「冗談だろ……? 超級の光魔術(キャスト)っていやぁ……もはや伝説の中のシロモノだぞ……」

「そもそもターウスのクラスは戦士だし、槍使いだ。治癒術はもとより、そもそも初級光魔術(キャスト)すら使えないはずだッ!」


 ターウスの知人だという冒険者も驚愕している。


「今ので倒せないのなら、倒せるまで打ち込むだけだッ!」


 回復する間もなく攻撃をし続ければ倒せるはずだ。

 そう考えて、黒斗は再びターウスへ向かって駆ける。


 ターウスは黒斗を見据えながら、杖を振り上げ、光魔術(キャスト)名を口にした。


防護強化(ハーディネス)


 するとターウスは一瞬だけ光の盾に包まれ、その盾はターウスに吸い込まれるように消えていく。


「せいッ!」


 その直後に、黒斗の拳が放たれる。

 当たると同時に火花が飛び散り、ターウスは小さくよろけるが、先ほどのように大きく仰け反るようなことはなかった。


「なにッ!?」


 効き目が悪いことに黒斗が驚いていると、そこへターウスが杖を構えた。


「ぐあッ!?」


 まずは杖を突き出す。

 軽く火花を放ちながら黒斗が数歩たたらを踏む。すぐさま立て直そうとするが、ターウスは杖をクルクルと回転させている。


 その回転する杖から亀の甲羅のような形状の光が生まれると、ターウスはそれを黒斗に向かって放った。


「これは……ッ!?」


 立て直そうとしていた黒斗はその光に包まれ、動きが鈍る。

 そこへ、


亀甲羅身砕(シェルブレイク)


 ターウスはフルスイングするように杖を振り抜いた。


「ぐあああ――……ッ!」


 振るわれた杖は甲羅状の光は砕き散らし、その中にいた黒斗のボディを強打した。

 強打された黒斗が光の欠片と共に宙を舞う。


 舞い上がった黒斗は地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。


「あ……ぐ……」


 全身に激痛が走る。

 戦いとは無縁の地球にいた黒斗が初めて味わう、容赦のない打撃による痛み。


 殺陣(たて)やスタントアクションに失敗した時の痛みとはまた違う激痛が、精神に対して恐怖も刻む。


 だが、痛みと恐怖を味わいながらも、それでも黒斗は立ち上がった。


(今は……俺しか、あいつを止められないんだ……ッ!)


 正直言えば逃げ出したい。

 どうして自分は痛い目に会いながらも、会ったばかりの人や余計なトラブルを持ってきたような相手を守らなければならないのかと、思いはする。


 それでも、彼という人間は、この場から逃げ出すのを(よし)とするような人間ではなかった。


 だから――彼は立ち上がる。

 吉田黒斗として……あるいは、氷室龍也として。


「俺には……護る力がある……ッ!!」


 このチカラでなければウィルサーカーは倒せない。

 ウィルサーカーを倒せなければ、自分に良くしてくれた人たちを助けられない。


 彼自身もまた、幼い頃は憧れていたのだ。

 仮面闘士リオンというヒーローに。


 当時の自分が一番憧れた作品、仮面闘士ナイトリオン。

 作品としての賛否両論はあったし、最終回も兼ねた劇場版は中々変身しないし、変身したら変身したでずっと仲良かったはずの戦友パラデリオンと容赦ない戦闘を始めて、映画館で大泣きした記憶がある作品だけれど――


 ――それでも、憧れた。カッコ良かった。大好きだった。


(それは……今でもだッ!)


 DXキシドーベルターと、それにセットするDX夜の鍵(ナイトキー)も、両親にねだって買ってもらった。


 やがて俳優として、数いるリオンの一人に名を連ねることとなり、そして今は現実としてリオンに変身する能力を身につけているのだ。


 だからこそ、逃げたくない。


 ここから逃げることは憧れを拒否することになるし、かつての自分への裏切りだ。


 だからこそ、吉田黒斗という人間は自分に対して言い聞かせる。


 痛くても、

 怖くても、


 ――ヒーローとして逃げることは許されないッ!



 ユーザリオン(HERO)として、立ち上がり、吉田黒斗は拳を握る。


「そうだ……ッ、倒れるわけには行かないんだ……ッ!」


 ターウスが杖を構える。

 痛みを堪えながら、黒斗は構える。


 そこへ、聞き慣れない――あるいは聞き覚えのある――声が一つ降りてきた。


「オレの知らないユーザリオンか……」

「誰……?」


 黒斗の問いには答えず、その声の主は一方的に言葉を紡ぐ。あるいは、ただ独りごちているだけかもしれない。


「オレの知っているユーザリオンに比べて随分と弱っちぃが――心の有り様は、やはりユーザリオンだな」


 どこからともなく降り立ったのは、全身が黒色のリオンだった。

 要所要所に緑のラインが走り、胸には膨らんだX字のような緑色の模様がついている。

 フルフェイスの外側を覆う骨のような意匠は――ユーザリオンのわかりやすい恐竜に対して、虎のような獣となっていた。


 見覚えはある。

 当たり前だ。なぜなら、彼もリオンだからだ――ゲーマリオンに出演しているリオンだ。


 ゲーマリオンとユーザリオンの二人と敵対する第三の闘士。

 作中と違うところがあるとすれば、胸のXが緑であることか。作中では禍々しい赤だったのだ。


「選手交代だ。

 ターウスだったな。次の対戦相手は……このオレ――」


 黒斗とターウスの間に着地した黒いリオンは、そう告げながら親指で自分を指し示した。


「クリエイテリオンだッ!」


次回は、次のニチアサヒーロータイムの後に更新予定です。

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