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008 胸にある声を聞け


「ホントッ、ゴメン!」


 流旅行者互助協会(ローディアンズギルド)の建物裏手。

 大訓練場と呼ばれるスペースで、サリーは両手を合わせてクロトに謝った。


「わたしが、クロトはパッと見頼りないし実際頼りないけど、固有術技(ユニークスキル)を使った時の戦闘能力は高いって言っちゃったからッ!」

「めっちゃ、ディスられてない、俺?」

「ディスる?」


 聞き慣れない言葉を口にするクロトにサリーは首を傾げる。


「ごめん。何でもない」


 それに対して、クロトは手をひらひらやってから嘆息した。


「出身地の方言か何かか? 雰囲気的にバカにしてるとか、喧嘩売ってるとか、そんな意味ってところか」

「そんなところです」


 そんなクロトに声をかけたのは、このギルドのギルドマスターであるバべート・チェナータ。

 初老に差し掛かっているはずながら、衰えを見せない肉体を持った強面の大男だ。


 サリーが彼に変異種のグランオークを報告する時に、クロトが倒したと口にしてしまったのだ。


固有術技(ユニークスキル)ってのは基本的に他人は公言しないモンなんだがな……グランオークの変異種を倒したチカラとなると、悪いが話は別でな」


 申し訳なさそうに後ろ頭を掻きつつ、訓練場に持ち込んできた愛用の武器を手に取る。


「まぁ実際、それだけの戦闘力があるなんてコト権力者とかに知られると面倒くさそうですしね……」

「その通りだ。俺は立場上、真偽を確認する必要もあるし、権力者への報告の義務もある。まぁ事実だったとしても報告する気はねぇんだがな」


 厳つい顔で茶目っ気たっぷりに片目を瞑って見せる姿は、不思議と愛嬌がある。

 そんなバベートに毒気を抜かれたようにクロトも小さく笑った。


「わかりました。スキルを見せますよ」

「悪ぃな。誰にも見せる気はねぇし、人払いはしてあるから安心してくれ」

「もしかしてケインとソハルがいないのも?」

「おう。人払いを頼んだんだ」


 力強くうなずくバベートを信用できる人物だと確信したんだろう。クロトはどこからともなく、あの不思議なバックルと玉を取り出した。


「サリーは下がっててもらっていいかな」

「もちろん」


 クロトはサリーが下がったのを確認してから、左手に持ったバックルを腰に当てた。バックルからベルトが伸びて、クロトの腰に巻き付く。


 それから、右手で掴んだ上半分が青で下半分が黒の不思議な玉を左耳の側へと持ってくる。

 そのまま親指で蓋を弾いて開く。


 玉の内側に描かれている文字らしきものを左手で撫でると、その玉からガッチャーンという人の声に似た音が響いた。

 続けて左手でバックルの右側のカバーを開き、そこへ玉を開いたままバックルにはめ込むと、そのまま右手でカバーを閉じる。


 瞬間、バックルが高らかにクラスの名を叫ぶ。


『仮面の闘士ッ! 高まる闘志ッ! クラスは闘士ッ! アーユー・レディ?』


 同時に、クロトの周囲に様々な絵の描かれた四角いものが現れて、彼の周囲を踊る。やがて一枚の絵が彼の正面に来ると、それに向けて左手の人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばし、左足は半歩踏み出す。

 そのポーズのまま右手の掌でバックル頭頂部にあるスイッチを力強く押し込み、クロトはスキルの名前を口にした。


「変身ッ!」

『ゲットレディ! ユーアー・マスカレイドユーザー!』


 瞬間、絵は細い光の糸となってクロトの周囲に、線だけで描かれたような鎧を作り出していく。やがてその糸は光を放ち、完全にクロトは光に包まれた。

 やがてその光が弾けるように収まると、グランオークと戦った時の姿に変わっている。


「こいつは……なるほど、マジだったワケだ」


 変身と同時にクロトの放つ威圧感に、バベートも顔がひきつる。


「正面に立つだけでハンパねぇが……一応、俺自身の手で強さを――」

「うわぁぁぁぁ――……ッ!?」


 バベートが自分を奮い立たせようとした時、小訓練場の方から、悲鳴を上げて何人かの利用者が大訓練場へと飛び込んで来た。


「おいテメェら、今こっちは立ち入り禁止だと……」

「ギルマスッ! やべぇんだッ! ターウスの奴がッ!」

「ターウス?」

「ターウス・ヤフマ! 中堅のパッとしない、良くも悪くもふつうのやつだよッ!」

「で? そのふつうのターウスってのがどうしたって?」

「急に化け物みたいになっちまったんだよッ!」

「あん……?」


 要領を得ない利用者の言葉に、バベートは眉を顰める。


「とりあえず、バベートのおっちゃん」

「だな」


 サリーが剣を抜くのを見て、バベートも背負っていたものを構えた。


「タイヤの団子刺し?」


 バベートの武器を見て、クロトが何かを言っている。もしかしたら、どこかで似たような武器を見たことあるのかもしれない。


 厳つい鉄の棒に、円月輪と呼ばれる輪っか状の刃を二つくっつけたようなモノで、バベートはオノと言い張っているシロモノだ。


「なんだコイツに似た武器を知ってるのか?」

「いや……そういう形状の食い物があったんだ、地元に。団子っていう」

「是非、喰ってみてぇな、それは」


 バベートがガハハと豪快に笑っていると、クロトに気づいた利用者が、困惑した表情を浮かべている。


「なんだこいつ?」

「んー……闘士のクラスマスター……いや、グランドマスターかな?

 名前はユーザリオン。本名は秘密らしいから、探らないであげてね」

「クラスマスター? グランドマスター?」


 クロトは首を傾げているものの、質問を投げてきた男は、困惑しながらも、サリーとバベートを見て、納得したような顔でうなずいた。


「GAAAAAAA――……ッ!!」


 そんなやりとりをしていると、小訓練場の方から叫び声が聞こえ、次々とこちらへと利用者たちが逃げ込んでくる。


「こりゃあ、ユーザリオンの存在を隠せない気がしてきたぜ……」


 困ったように頭を掻くバベートを見ながら、サリーはこそっとクロトに耳打ちした。


「みんながいなくなるまで、変身解除しないでね」


 それにクロトがうなずいたところで、小訓練場から見慣れない姿の魔獣が顔を出す。


「あれは……ウィルサーク現象……? 怪人(ウィルサーカー)化してるのか?」


 その魔獣の姿を見るなり、クロトが何か訝しむように呟いている。

 サリーが何か知っているのか訊ねようとして、大声に遮られた。


「あれだよッ、なんかターウスの奴が玉と手鏡で遊んでたと思ったら、急にあんな姿になっちまったんだよッ!」

「おいおい、アレが人間だって? サリー、人間があんなになっちまうなんて話、知ってるか?」

「知らないかなぁ」


 元人間だと言われて見れば、異形化したターウスを構成するパーツはどれも人間のものだ。

 ゴブリンやオークのような亜人タイプの魔獣たちのどれにも似ていない。


「人間の変異種って言われたら、そう見えるけど……」


 そう言いながらも、サリーはチラリとユーザリオンを見遣る。

 

「でも、一番近いのって……なんて言うか出来損ないのユーザリオンかな?」

「言われてみると、確かにそう見えなくもねぇな。鎧と皮膚がぐちゃぐちゃに同化しちまってるみてぇだがよ」


 こちらを認識したのか、ターウスが身構えた。

 だが、人間的な構えというよりも、人間の姿をした獣の構えだ。

 そこに技術的な型が見えない。だがクラスの影響なのか、どこか達人めいた立ち姿にも見える。どうにも矛盾した印象だ。


「ありゃ、まともな理性はなさそうだな」

「殺さず止められるのが理想だけど……」


 身構えるターウスに呼応するように、サリーとバベートも緊張感を高める。


 そんな中で、ハッキリと通る声をユーザリオンがあげた。


「Here Comes A New C(乱入)hallengerってやつか」


 そしてターウスに向かってゆっくりと歩き出し、


「ギルドマスターのおやっさんとの模擬戦どころじゃないな……」


 誰よりも前に出てから、人差し指と中指を揃え、ターウスを指さした。


「……今回の対戦相手は、お前だな?」

明日も更新予定です

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