004 仮面闘士ユーザリオン
お読み頂きありがとうございます。
昨日公開したばかりなのに早速のブクマ、評価、感謝です٩( 'ω' )و
本日は二話更新です。(1/2)
『仮面の闘士ッ! 高まる闘志ッ! クラスは闘士ッ! アーユー・レディ?』
その声のあと、続けるように黒斗は声を上げる。
「変身ッ!」
『ゲットレディ!』
それに呼応するように、コンシューマゲームのトップ画面のように黒斗の周囲にアイコンが並び出す。
そのアイコンが勝手に選択されると、他のアイコンは消えて、選ばれたアイコンが無数の細い線となる。
線はワイヤーフレームのように、黒斗の周囲に一回り大きい形を作り、発光していく。
黒斗を包み発光するワイヤーフレームが、彼の姿を完全に隠す。同時に、そのワイヤーフレームにテクスチャーが張られるかのように、光の中で形が作られていく。
最後にゲーミングベルターが叫ぶ。
『ユーアー・マスカレイドユーザー!』
そして、光が弾けるように消えていくと、ユーザリオンの姿となった黒斗が姿を見せる。
光が収まったあとで自分の両手を見下ろしながら、本当に変身できたのを実感すると、両手を握り覚悟を決めたように顔を上げる。
そしてグランオークに向けてゆっくりと歩きながら、いつもの口上を口にした。
「世界で遊べ。世界よ遊べ。誰もが笑って遊べる世界の為に――仮面闘士ユーザリオン!」
口上の後で足を止め、グランオークを指さした。
「今日の対戦相手は……お前だな?」
★
「世界で遊べ。世界よ遊べ。誰もが笑って遊べる世界の為に――仮面闘士ユーザリオン! 今日の対戦相手は……お前だな?」
手持ちのポーションを飲み、女魔術師から治癒術を掛けてもらい、ようやく起き上がれるようになったサリーは、突然のクロトの変化に言葉を失う。
「特定の道具を媒介とした固有術技……?」
クロトの全身を覆う青色をベースにした奇妙な鎧。
顔すらもそれで覆われているものの、前は見えているようだ。
フルフェイスの頭部の上に、装飾としてだろう。魔獣の骨を思わせるようなかぶりものをしていた。
「ははっ……やべぇな、あれ。本当にさっきの情けない感じの兄ちゃんなのか……?」
サリーの横で見ている剣士も顔がひきつっている。
「私たちに向けた敵意じゃないって分かってるのに、すごいプレッシャー……何なの、あれ……?」
治癒術を掛けてくれている女魔術師の言葉もわかる。
サリーにも似たような疑問がわき上がる。
だけど、サリーの中では疑問以上の信頼が芽生えていた。
「本当に、わたしを援護できるだけの力があったのね。
……援護どころか、一人で倒せちゃいそうかな、あれは」
その背中を見ながら、サリーが笑う。
「行くぞッ、グランオークッ!!」
クロト――いやユーザリオンの全身に力がこもる。
「グオオオ……ッ!」
グランオークが身構える。
その瞬間――
「うおおおおお……ッ!」
弾かれたように、ユーザリオンは駆けだした。
グランオークの繰り出す裏拳のような横薙の攻撃。
それをユーザリオンは躱すと、そのガラ空きの胸にむかって右の拳をたたき込んだ。
ヒットと同時に火花が飛び散る。
ユーザリオンは右手を振るった勢いを殺さず、右足を軸に身体を捻って左足の裏を当てるような蹴りを放つ。
先と同じような火花を散らしながら、グランオークは吹き飛んだ。
「来いッ! 攻略秘剣ッ!」
地面を転がるグランオークを見ながら、ユーザリオンは左手でバックル中央の四角く光部分を撫でる。
「クリアセイバーッ!」
するとそこから剣の柄のようなものが出てきて、ユーザリオンは引き抜いた。
サリー含む三人はその剣を見て目を眇めた。
ユーザリオンの全身鎧と揃いのデザインのようにも見えるが、その奇妙な剣は、本当に剣として機能するのか怪しく見えるのだ。
ゴテゴテとした無意味な装飾が多く見えるし、それでいてあまり重量を感じないチープさのようなものを感じてしまう。
だが、使い手であるユーザリオンはそんなことを気にはしていないのだろう。
剣についている、バックルと同じような四角い空白部分みたいなところを指先でつついている。
すると、剣が声を上げた。
『タ~イムッ、アタックッ、モ~ドッ!』
同時に剣が光り輝く。
立ち上がったグランオークへ向けて、光を棚引かせながら、剣が振るわれる。
斬撃が当たるたび、拳や蹴り以上の火花が飛び散る。
「嘘だろ……あの変異グランオークを圧倒してる……」
剣士がゴクリと唾を飲む横で、魔術師の方が首を傾げた。
「何でいちいち火花がでるのかしら? そういう追撃効果スキル?」
「だとしたら欲しいなあのスキル。すげーカッコいい」
「は?」
いい大人だと思われる剣士が子供のように目を輝かせると、妙に冷たい視線と声を魔術師が向ける。
サリーもカッコいいと思ったのだが、あえて口にしない方が良さそうだ。
「ダメージを与えるのが一苦労だった硬い皮膚や弾力のある腹部も、関係ないかのように斬れちゃうんだ……」
グランオークを斬りつけているユーザリオンを見ながら、サリーは小さく呟く。
自分の実力不足と自惚れを見せつけられているようで、少しばかり心が痛い。
だけどその背中に、嫉妬する気はおきない。
ユーザリオンが放つバックナックルのような斬撃を受けて、グランオークはたたらを踏んで膝を付いた。
そのタイミングで、ユーザリオンの持つ剣が声を上げる。
『リミットタ~イム! チャ~ジOK!』
「いくぞッ!」
その声に合わせるようにユーザリオンは剣の空白部分を撫でると、剣はひときわ大きな声を上げ、光を放った。
『ファイナルタ~イムアタック!』
「これで、決着だ」
両手で剣を握り、その切っ先をグランオークに向けるとユーザリオンから数本の光の帯が生まれた。
光の帯はそのままグランオークに巻き付いていく。
拘束されたグランオークに向かって、ユーザリオンは剣を振り上げて、力強く踏み込み――
「喰らえッ! リミットブレイクブレイバーッ!」
力強い光を放つクリアセイバーを振り下ろした。
直後――拘束していた光の帯が弾けると、グランオークの頭上に数字の3が現れる。
よろめき一歩下がるグランオーク。数字が2になる。
立っていられないのか両膝を地面につく。数字が1になる。
そして、地面に倒れ伏せると数字が0になり、グランオークの身体が一拍置いて爆発四散した。
その爆風をバックにユーザリオンはゆっくりとこちらへ振り返ると、クリアセイバーを軽く一振り。
すると、刃がなくなり柄だけになったそれをバックルへとしまう。
そしてこちらへ向かって歩いてきながら、バックルのカバーを開いて、先ほどの玉を取り出す。
すると、ユーザリオンは光に包まれ、その光が収まると、クロトの姿に戻っていた。