030 傷つくことを恐れずに
更新が遅れていてすみません。
割烹の方には書きましたが、プライベートの状況が変わってきており、今までのように更新できそうもありません。その為、しばらくはニチアサ更新ではなく不定期になってしまいます。ご了承ください。
そして25話にて掲載した次回予告の内容を今章に盛り込みきれなかったので、25話の次回予告の内容を変更しました。本文の変更はありません。
ドラゴンが無造作に前足を振り上げ、一瞬の間の後に振り下ろす。
ユーザリオンとクリエイテリオンの二人めがけて振り下ろされたその腕を、二人は左右に散開しながら躱して見せる。
だが――
「うわ……ッ!?」
「ちぃ……ッ!?」
前足が叩きつけられた石畳は、凹みながら円形に亀裂を走らせる。同時に、衝撃はがまき散らされて、二人のリオンを吹き飛ばす。
二人は地面を転がりながらも素早く立ち上がる。
ダメージこそなかったものの、何てことのない動作に見えてこの威力。直撃していればリオンスーツなど関係なくぺしゃんこにされかねない。
「まったく、さすがはドラゴンってところだな」
「本当に……今の一撃だけで今までの相手とは桁が違うって分かる……」
だけどそれでも――二人はそれを理由に退く気はない。
「巧さん」
「ん?」
名前を呼んで、ユーザリオンはガシャプセルを一つ投げ渡す。
「いいのかい?」
「こっちの方が性に合ってるんで」
盗賊のガチャプセルを見せながら、ユーザリオンが告げるとクリエイテリオンは小さく笑った。
「なら、使わせて貰おうかな!」
そう告げて、クリエイテリオンは受け取ったガチャプセルを開くと、内側を撫でる。
ガッチャーンという音声を聞いてから、自分のベルターの左側のカバーを開きそこへとセットした。
クリエイテリオンが準備をしている姿を横目に、ユーザリオンも盗賊のガチャプセルを開き、内側を撫でてから、自分のベルターの左側へとセットする。
『ガチャッとチェンジ? アーユー・チェンジ?』
二人のベルターが同時に問う。
それに、二人は同時に応えた。
「クラスチェンジ!」
ベルターの頭頂部のスイッチが押されると、それぞれのベルターが吼え、二人は光に包まれる。
『ゲットセット! 変わる変わるぜクラスが変わる! 誇れッ、契れッ、立ち上がれッ! ユーアー・マスクドクリエイター・騎士スタイル!』
『ゲットセット! 変わる変わるぜクラスが変わる! 盗めッ、躱せッ、生き残れッ! ユーアー・マスカレイドユーザー・盗賊スタイル!』
そうして姿を表したのは、スーツに騎士鎧のような意匠が追加され、左腕にスモールシールドを右手にランスを携えたクリエイテリオンと口元を隠すような赤いロングマフラーとサーベルを携えたユーザリオン。
二人を見てドラゴンの双眸が僅かに眇まった。
興味か、怪訝か。
それを判断する術を二人は持っていない。なので気にすることなく武器を構える。
「いくぞッ!」
どちらともなく声を上げると、二人は同時に走り出す。
先に仕掛けたのはクリエイテリオンだ。
力強く踏み込みながら、クラス専用武装ナイトランスを突き出す。
ドラゴンは踏み込んできたクリエイテリオンを一瞥だけすると、より深く踏み込んでこようとするユーザリオンへと視線を向けた。
生半な武器とチカラでは自分の皮膚を貫けない。
そう判断しての動きだったのだろう。実際、生半な相手であれば、それは正しい。
だが、敵対している相手は仮面闘士リオンと呼ばれる異界の戦士。
今代の勇者を上回る胆力を持ちし、超闘士なのである。
だからこそ、ドラゴンは判断は誤りだ。
それをドラゴンは身を持って理解する。
「――――ッ!!!!」
ドラゴンが目を見開く。
クリエイテリオンの突き出す槍が、ドラゴンの皮膚を貫いたのだ。
激痛に驚きながらも、ドラゴンはクリエイテリオンめがけて前足を振るう。
クリエイテリオンは咄嗟に、左腕のスモールシールドで受け止める。
「ぐぅ――……ッ!」
しかし、ドラゴンの攻撃力は非常に高かった。
痛みに驚きながらの不格好な一撃であっても、スモールシールドを砕いてクリエイテリオンを吹き飛ばす。
近くの民家の壁に勢いよく叩きつけられたクリエイテリオンは、その壁をぶち抜いて中で転がる。武器を手放さなかったことだけは僥倖だろう。
吹き飛ばされたクリエイテリオンを心配しつつも、ドラゴンの見せた隙へとユーザリオンはサーベルを振るう。
ドラゴンの強固な皮膚の手応えを感じつつも、それでもユーザリオンの盗賊用サーベルは確かにドラゴンを切り裂いた。
その痛みに再び目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻したドラゴンは怒りをたぎらせると、地面を薙ぎ払うように前足を振るう。
「武光技・シャドウデコイッ!」
だが、ユーザリオンは冷静に、用意していたスキルを発動する。
ドラゴンに殴られると同時にユーザリオンの姿は影と消え、刹那遅れてドラゴンの背後より姿を見せた。
両手でサーベルを握り、大上段から振り下ろす。
「武光技・ベアブレイクッ!」
熊を一撃でしとめるという名の下に繰り出された、力任せの一撃は、ドラゴンの背中を切り裂くと同時に強烈な衝撃波を叩きつける。
「GAAAAAAAAA――……!!」
ドラゴンが叫ぶ。
それは痛みか怒りか、あるいは別の何かか。
真意は分からずとも――叫びと同時にドラゴンの全身が輝き始めたのは間違いない。
「まずい……ッ!」
ドラゴンの背に着地したユーザリオンは、すぐさまそこを退くべきだと判断して飛び降りようとする。
だが、ドラゴンの巨体が災いした。
そこから離れようとするのは、人間やオークなどを相手にするよりも難しいことだったのだ。
そして――爆発するように、ドラゴンの全身から全方位に衝撃波が放たれた。
「うあぁぁぁ――……!!」
衝撃波に飲み込まれ、ユーザリオンが宙を舞う。
全身から火花を散らしながら空中より地面へと叩きつけられて、無様に転がる。
そんなユーザリオンをフォローするようにクリエイテリオンが飛び出してくるが、それに対してドラゴンはその場で背中の翼をはためかせて、軽く飛び上がった。
「む?」
「GuOOOOOOooooo――……!!」
咆哮と共に、一対の翼が高速で動く。
すると、その両翼の羽ばたきから、攻撃力を伴った突風が放たれた。
「ぐあぁぁ……ッ!?」
視認できるほど圧縮された強力な風の一撃がクリエイテリオンを引き裂き吹き飛ばす。圧縮された風だと気づいた瞬間には、風がクリエイテリオンを捉えていたのだ。
ユーザリオンもクリエイテリオンもかなりのダメージを負った。だが、二人はそれでも立ち上がる。
全身から鮮血代わりの火花が飛び散っていることも気にせずに、それぞれの得物を構えてドラゴンを見据える。
「ドラゴンか……本当に強いな……」
「全くだ。これならウィルサーカーを相手にしてた方がラクなくらいだ」
目の前の相手を好き勝手暴れさせてしまえば、この街のもたらされる被害がどれほどのものとなるか分からない。
ドラゴンの双眸が二人を見下ろす。
その瞳に宿るものが些か様子を変えたように思えるのは、ユーザリオンの気のせいだろうか。
どこか敬意がある。同時に覚悟を感じる。
まるで、こちらがドラゴンに向けているものと同じような――
(これは……どちらかが完全に倒れるまで、終わらないのでは……?)
ユーザリオンの脳裏にそんなことが過ぎった時だ。
「ちょぉぉぉぉぉっと、待ったぁぁぁぁぁ――……ッ!!!!」
ギルドマスターであるバベードが大声を張り上げながらやってきた。
その左手にはガチャプセルのようなものを握り、右手には裏ギルドの関係者っぽいぼろ雑巾の襟首を掴んでいる。
「双方、戦闘を止めてくれッ! お前たちが戦う理由はもう存在しないッ!! ドラゴンよッ! 噂通りに高い知性があるというのであれば、俺の話を聞いて欲しいッ!!」
バベードの言葉が通じたのか、ドラゴンが僅かに威圧感を抑えた。
「アンタが探しているだろうモンを取り返してきた。犯人はコイツだ」
そう言って、バベードはぼろ雑巾をドラゴンの足下に投げる。
するとドラゴンは、問答無用にそいつの上に、左の前足を乗せた。
「そして、そいつが持っていたのを取り返してきた。これだろ?」
言いながらバベードが掲げるのは、ガチャプセルに似た何か。
遠巻きから見ればガチャプセルと見間違えるかもしれないが、しっかりと見ればまったくの別物だと分かる。
あれは――何なのだろうか?
すると、ドラゴンは右の前足を出し手のひらを見せる。
バベードはそこへ、ガチャプセルに似た何かを丁寧に乗せた。
「アンタがこれを必死に探していたように、こいつらも必死にこの街を守ってたんだ。人間がお前からそれを盗んだコトは許さなくてもいい。だが、コイツらがお前と戦ったコトだけは、許してやってくれねぇか?」
手に乗せられたそのガチャプセルに似た玉を愛おしそうに両の前足で掴むと、後ろ足でボロ雑巾を掴んで翼をはためかせた。
ゆっくりと浮かび上がりながら、天に向かって大きな咆哮をあげる。
此度は許す――だが、次はない。
そう言っているかのような叫びのあとで、ドラゴンは天高く飛び上がりフィーニーズから去っていった。
それを見送り、戻ってこないことを確認すると、三人は大きく息を吐く。
「バベードさん、アレは何だったんですか?」
「卵だよ。あのドラゴンの卵だ」
クリエイテリオンの問いに、バベードが口にした答えに二人のリオンは大きく嘆息した。
ドラゴンの卵が想像以上に小さかったことに驚きつつ、ドラゴンが街へやってきた理由が理解できて、どこかやるせない気持ちになる。
「ともあれ、終わったか」
「終わったみたいだ……」
二人のリオンは大きく息を吐くと、そのまま後ろへと倒れ込み、仰向けに寝転がる。
そしてベルトから、ガチャプセルを取り外して変身を解いた。
「あー……シンドかったー……」
地面の上で大の字になる。
それをバベードは咎めることなく、告げた。
「身体張って街を守ってくれたコト感謝する」
二人はそれに気にするなとでも言うように小さなジェスチャーを返すと、そのまま大きく息を吐いて目を閉じた。
疲労感とダメージが酷く、身体が早急な休息を欲しているようだ。
「お、おい……」
二人の様子にバベードが慌てたように声をかけてくる。
それに、黒斗が、眠気を堪えながら返事をする。
「すみま、せん……。
ちょっと、シンドいんで……一眠り、します……」
病み上がりに戦うような相手じゃなかった。
そんなことを思いながら、黒斗と巧は、あらがえぬ睡魔に身をゆだねるのだった。
<NEXT Level――
「あれは先日の……? だけど、なんで……!?」
「貴族ですから……
人の上に立ち、人を守るからこそ、貴き人を名乗るのですッ!」
「思ってた以上にデカイな……」
「守ろう。クロト。あたしは守りたいッ!」
「か、勘違いするんじゃねーぞッ!
オレは仲間になったつもりなんてねぇからなッ!」
――迷子の迷子の特撮ヒーロー
『Lv7.決裂が施されたReconciliation』>
次の対戦相手は、君だ!
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