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029 その胸の想いは


「おおおおお――ッ!」

「ふッ……!」


 ゲーマリオンが気合いと共に、クリアセイバーを振り下ろす。

 それをローゲリオンは刀身から装飾に至るまで全てが漆黒色のクリアセイバーで受け流し、逆の手で抜き手を突き出す。


 胸に指先を突き立てられ、ゲーマリオンのボディが火花を散らした。

 だが、ゲーマリオンはそれがどうしたとばかりに、クリアセイバーを振り上げる。


「力任せもバカにできないな」


 ローゲリオンは気取った口調でそう漏らしながら、身体を逸らしてそれを躱し、漆黒の剣を突き出して反撃した。


 貫通こそしないものの、胸を突かれたゲーマリオンは、手で突かれた時とは比べものにならない衝撃を受け、火花を散らしながら数歩たたらを踏んだ。


「クソが」


 毒づきながら、ゲーマリオンはバックステップをする。

 ちょうどそこへ、ローゲリオンの剣が振り下ろされた。


「なかなかどうして……突撃思考のようで、ちゃんと見てるじゃないか」


 ローゲリオンの感心したような声は、かえってゲーマリオンの神経を逆撫でする。

 とはいえ、ここで感情に任せて暴れても勝てるような相手ではない。


「挑発に乗らず、踏み込んでこない冷静さもある、か」


 どこか芝居がかった仕草で肩を竦めるローゲリオンは、漆黒のクリアセイバーのタッチパネルに左手を添えた。


「なら、こういうのはどうだ?

 目覚めよ、チートセイバー。まずは30と行こう」

「何だ?」


 漆黒のクリアセイバー――チートセイバーのタッチパネル部分に30という表記が浮かび上がり、どこか電池切れ間近の玩具のような安定しない声が響く。


『カチャカチャ・ターンと数値を代入! 数は30! ほどほどに!』


 そしてチートセイバーの黒い刀身から、禍々しさを覚える白いオーラが滲み出てくる。


30(サーティ)武光技(アーツ)翔空刃(ショウクウジン)ッ!」


 白いオーラを纏った剣を、ローゲリオンは軽い調子で振るった。


「……ッ!?」


 この技を、裕樹は見たことがある。

 黒斗の仲間の女剣士――サリーと呼ばれていたか――が、裕樹に向けて放ってきたことがあるからだ。


 剣に光魔(クラル)を乗せて、剣圧と共に放つ技だ。

 光魔の乗った剣圧は空を翔け、本来の間合いから離れた相手を攻撃する。


 間合いの外にいる相手を斬るために編み出されたというシンプルな技。


 だが――目の前に迫る技は、裕樹の記憶にあるものとは大違いだった。

 


 無造作とも投げやりとも言えるような動きから解き放たれて剣圧は、以前サリーが撃ってきたものよりも速く鋭い。


 とはいえ、躱せないほどではない。


 ゲーマリオンは飛んでくる刃を見据えて躱し、その脇を抜けてローゲリオンへと肉薄する。


「では、次だ。色を付けるぞ」


 そんなゲーマリオンを見ながら、ローゲリオンは嘲笑するように告げて、再び剣を撫でた。


『カチャカチャ・ターンと彩色! イカサマ! レインボー!』


「そらッ! 30(サーティ)虹彩色(レインボー)武光技(アーツ)翔空刃(ショウクウジン)ッ!」


 先ほどと同じような動作で、再び翔空刃を放つローゲリオン。


「同じ技を何度使っても……ッ!」


 何度も使っても同じだ――と、そう言おうとした。

 しかし、ゲーマリオンは言葉を止めて、大きく飛び退いてから横へ跳ぶ。


 ただの一振り。

 しかし、それに連なるように無数の剣圧が重なっている。


「十連重ねだ。壮観だろう?」

「ふざけやがってッ!」


 それでも、翔空刃であることには変わらないだろう。

 そう判断して、射線からズレるように横へ跳んだはずなのに――


「ホーミングッ!?」


 十連の剣圧はそれぞれに向きを変えて、ゲーマリオンへと向かってくる。


「これッ、もう翔空刃とは言えねぇだろッ!!」


 毒づきながらも、自分へと飛んでくる十の刃を全て躱すべく、それらを見据えながらゲーマリオンは息を吸った。





 警鐘が鳴り響くのを聞きながらも、サリーはベッドから抜け出せずにいた。

 傷は癒えているが、体力が戻っていないというのもある。

 それでも本来なら逃げるべきなのだろうが、同時に自分は前線に出たいとも考える。


 一方で――どこか、自分は戦力にならないのではないかという想いが脳裏に過ぎるのだ。


 サタナリオンに言われた言葉の数々に心当たりが多すぎる。


 これまではっきりと敗北を意識したことはなかった。

 勝って当然だと思っていたし、どんな相手にも勝てるだけのチカラを有していると思っていた。


 クロトと出会い、ケインやソハルと一緒に行動するようになると、多少の自分の危機も信じられる仲間のおかげで乗り越えられるとそう思っていた。


 ――だけど、違った。


 リオンという頼もしい存在は、敵に回った途端、圧倒的な敗北感を押しつけてくる存在なのだと知った。


(あたしは……弱いの、かな……)


 今まで思ってもみなかったことを考える。


 サリーは――サリアリアという少女は、物心ついた時から『勇者』というクラスを宿していた。

 自分の生まれはよくわからない。自分は捨て子であり、育ての両親に育てられたからだ。気づいた時には今の両親に育てられていたので、生みの親の存在など、あってないようなものだった。


 ともあれ――勇者とは時代に必ず一人は生まれると言われる存在だ。


 勇者のクラスを持つものが死を迎えると、直後に生まれてくる人間の赤子の誰かがそれを有して生まれてくる。


 様々なチカラが通常よりも倍近い速度で成長し、元々のスペックも高い。


 勇者の中にはそのせいでチカラを持て余し、性根が曲がってしまう者もいると言うが、サリーはそうならなかった。

 真っ直ぐ育ったし、勇者というチカラを正しく振るおうという意志もある。


 それでもきっと、自分は驕っていたのだろう。

 勇者であるということ。人よりも強いチカラを有しているということ。

 様々な要因から、調子に乗っていたのだろう。


 サタナリオンには、それらを嫌というほど教えられた。

 分からされた。

 理解させられた。

 押しつけられた。


 ならば――ならば、だ。

 自分はこれからどうするべきだろう。


(クロトは、欲しくて手に入れたチカラじゃないのに、それを使って戦ってる。本当は怖くて怖くて仕方ないって言いながら、だけど守る力があるからって戦ってる)


 それはすごいことだと思う。

 戦いが怖いと口でいい、実際に身体を恐怖で振るわせながら、だけど一歩踏み出して、誰かを守ろうとする。


(あたしは――何をしたいのかな?)


 このチカラで、何をなせるのだろうか。


 魔族領にいるという、自分と対をなす存在、魔王の討伐。

 究極的には、勇者の使命というのはそれだと言われているなのだが、それはサリーがしたいことなのだろうか。


 冒険するのは楽しい。

 依頼を受けてこなすのは楽しい。

 誰かにありがとうと言われるのが嬉しい。

 自分のチカラで人助けできてることが嬉しい。


 自分は――自分は――


 悩んでいる時に、屋敷が揺れた。


「なに、かな?」


 戦わずとも逃げる算段くらいは立てておくべきだろうか――そんなことを考えながら、サリーはベッドから抜けだして窓の外を見た。


「ドラゴン……ッ!?」


 窓から見えるのは、広場に降り立つ巨大な魔獣の姿だった。

 無意識に、剣へと手を伸ばす。


(何で、あたしは剣を取ったのかな?)


 ドラゴンと戦う為?

 誰かを守る為?

 街を守りたいの?


「これッ、もう翔空刃とは言えねぇだろッ!!」


 悩んでいると眼下でも戦闘が起きているのだと気づく。

 ドラゴンのインパクトが凄くて気づけなかったのか、あるいはそれに気づけないくらいに今の自分は悩みで鈍っているのか、それとも――


 だけど、それでも。

 サリアリアは、ベッドの脇に置いてあった装備を手早く身につける。剣を()く。


「ごちゃごちゃ悩んでても良くないよね。

 自分がやりたいからやる。身体が勝手に動いたからやる。

 どうして――っていうのは、後で考えればいいかな」


 口に出してみれば、それで良い気がしてきた。

 ごちゃごちゃ悩みすぎるなんて自分らしくない。


(そうだ――自分らしく、ないッ!)


 広場のドラゴンや、眼下でのリオン同士の戦い。

 どう考えても、どちらも危険なものだ。


(庭の戦いに、ユーザリオンとクリエイテリオンはいない。

 なら、二人はきっとドラゴンのところだ)


 ならば、まず自分が加勢すべきはゲーマリオンだろう。

 彼の性格からして、嫌がられるだろうが――


「でも、白いリオンから、少し話を聞きたいかな」


 窓から眼下を見ながら様子を伺う。


 リオンと戦った場合の勝率はお世辞にも高いとは言えない。

 もっともっと、サリー自身が強くなる必要があるだろう。


 だが――


「足下を掬う方法はいくらでもあるかな」


 少なくとも、あの白いリオンは何とかなる気がする。


 無理無茶無謀は百も承知。

 それでも、この屋敷の人に助けてもらったのは間違いにのだから、庭先暴れている危ない人を追い返すくらいのことはしてもいいだろう。


 無数の刃を躱し続けていたゲーマリオンが、躱しきれなくなっていくのが見える。

 それを見ながら、明らかに楽しんでいる白いリオン。


「サタナリオンに比べれば、ね」


 仮にサタナリオンより強かったとしても、白いリオンの雰囲気……あれならば――


「よし」


 そうして、彼女は窓を開け放って足を掛ける。


 奇襲から畳みかける。

 調子に乗ってるうちに痛い目を見せる。


 サタナリオンにやられたことを、あいつにやってやろう。

 そう心に決めて、サリーは窓枠を蹴って外へと飛び出した。


 大きく跳んで、白いリオンを越えて、空中で振り向き敵の背に向けて、剣を振り下ろす。


「ぜぇぇぇっぇぇぇいッ!」

「なにッ?!」


 驚く白いリオンの背中に一太刀浴びせる。

 血の代わりに火花が飛び散ったのを見て、サリーは胸中でニヤリと笑いながら、着地と同時に斬りあげた。


「ぐあ……小娘ッ!」

「破ッ!」


 裂帛の気合いとともに剣を突き出す。

 リオンの身体は流石に丈夫だ。だが、火花を散らしながらたたらを踏む白いリオンに、光魔(クラル)を剣に込めながら躊躇うことなく踏み込んでいく。


龍麗斬華(リュウレイザンカ)ッ!」


 龍の舞踊を思わせる連続斬り。

 振り下ろし、横薙ぎ、突き、逆袈裟、もう一度横薙ぎ。


「ぐお……」


 サリーの攻撃はそれで終わらず、さらに剣を閃かせる。


龍麗斬空破(リュウレイザンクウハ)ッ!」


 先ほど以上に素早く、重く剣を振るう連続攻撃。

 最後に先の技と同じように横薙ぎで締める技だが、その横薙ぎと共に通常よりも大きな翔空刃を放ち、白いリオンを吹き飛ばした。


「ぬぅぅぅぅ……」


 バチバチと火花を散らしながら白いリオンが吹き飛んで、地面を転がる。


「鬱陶しいぃぃぃ――……ッ!」


 背後ではゲーマリオンが叫び、無数の刃を強引に切り払った。

 全てを防げなかったのか、身体からは軽く火花を散らしているが、問題ないと言いたげに、サリーの横に立つ。


「見せ場を奪いやがって」

「遊ばれてたようにしか見えなかった、かな」


 毒づくように言葉を交わしながら、それでも二人ともそれぞれにやるべきことは理解している。


『クリティカルクリア~フィニッシュ!』


 ゲーマリオンはベルターを撫でると、その足を輝かせる。

 そして、足を一度揃えてから大きく飛び上がった。


「我流奥義――」


 サリーは剣を両手で握って顔の横に水平に構える。

 その斬撃全てに、大きな翔空刃を乗せるつもりで大量の光魔(クラル)を剣に束ねた。


翔刃(ショウジン)龍麗破(リュウレイハ)ッ!!」


 そして、サリーはその場で踊るように剣を振るう。

 振るう度に剣圧が飛び、無数の刃が起きあがろうとする白いリオンに襲いかかる。


 そこへ――


「クリティカルブレイキングアタック!」


 足を突き出したゲーマリオンが、空中から強襲するように急降下。


 サリーの放つ、一番最後の一番大きな衝撃波を浴びてよろめく白いリオンに、ゲーマリオンの必殺キックが突き刺さった。


「うおおおおおおおお――……ッ!」


 白いリオンのボディと、ゲーマリオンの足が、同時に激しくスパークする。


「ぶっとべぇぇぇぇぇ――……ッ!」


 ゲーマリオンの叫びと共に、激しい爆発を放つ。

 爆風に乗るように、ゲーマリオンはバク転をして、着地。


「やったかな?」


 燃えさかる炎を見ながら、サリーが呟くと、それを聞いたゲーマリオンが肩を竦めながら告げた。


「それを口にしちまったから、やれるもんもやれねぇかもな」


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