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028 ドラゴン


 ドラゴン。

 現代日本に生きてきた人間で、その名を知らぬ方がむしろ少ないだろう。


 巨躯のトカゲとも言うべき姿をしており、その背にはその体躯に相応しいサイズの翼を持つ。

 マンガやゲームなどの物語に敵と出てくる場合、往々にして最強クラスの戦闘能力を誇り、威風堂々とした佇まいで暴虐を成す生きた災害。


 存在が余りにも有名になりすぎているが故に、その有名性を逆手に取ったコメディリリーフや、味わいある面白い性格を与えられたりしているフィクションも存在するのだが、少なくともフィーニーズに現れたドラゴンからは、シリアス寄りの存在であろう。


 フィーニーズを囲う外壁に止まり、眼下を睥睨(へいげい)するその瞳から感じるのは明確な怒りだ。


 何に対して怒っているのかは分からない。

 だが、その怒りの対象を見つけたら、周囲への被害など気にせずにあれは暴れ狂うだろうことだけは分かる。


 黒斗は大きく深呼吸してから、窓から離れ(きびす)を返し、部屋の入り口へと向かっていく。


「オレも行こう」

「おれはパス」


 巧と裕樹はそれぞれに口を開き、動き出した。




「正直、本調子とはほど遠いし、自分でも何やってるのかな――とは思うんだ」


 フィーニーズの大通り。

 逃げまどう人々の流れに逆らうように歩きながら、黒斗はそんなことを口にする。


 それに、巧は苦笑するようにうなずいた。


「それはオレもだよ。

 だけどまぁ、性分みたいなモノなんだろうね」


 二人が大通りを歩いている間に、ドラゴンはいつの間にやら、街の中央にある――地球で言うロータリーにも似た大きな広場へと、場所を移している。


 そこで何かを探るようにキョロキョロとしていた。


「地上に降りてきてくれたならちょうどいい」

「ガチャプセルの絡まないモンスター戦と行こうか」


 ふつうの魔獣であれば、巧は変身せずとも戦う術を持つ。

 だが、相手がドラゴンとなると話が変わる。


「二人以上での同時変身ってドラマとかだと盛り上がるシーンなんですよね」

「なるほど。そう言われると、確かに見せ場のシーンにはなりそうだな」


 軽口をたたき合うように、二人はゲーミングベルターを取り出し、腰に当てた。

 ベルトが現れ腰に巻き付く。


 それぞれにガチャプセルを取り出し、カバーを開くと内側を撫でる。

 二人はそれぞれにベルターのカバーを開き、自分のガチャプセルをセットする。


『仮面の闘士ッ! 高まる闘士ッ! クラスは闘士ッ! アーユー・レディ?』


 二つのベルターの声が唱和した。

 それに併せて、黒斗と巧の声も同時に響く。


「変身ッ!」


 言葉と同時に、二人はそれぞれのベルターが作り出す光に包まれ、その姿を変えた。


『ユーアー・マスカレイドユーザー!』

『ユーアー・マスクドクリエイター!』


 仮面闘士ユーザリオン。

 仮面闘士クリエイテリオン。


 黒斗と巧はその名を背負って、ドラゴンに向けて一歩踏み出す。


 ドラゴンも突然に現れた二つの闘気を関知したのか、キョロキョロとするのをやめて、二人を見やる。


「何の為に街に来たのかは知らないが――街で暴れるのであれば、俺たちが対戦相手になってやる」

「来るがいい――俺たちの記録(レコード)に、ドラゴンバスターの称号を刻んでやるさ」


 リオンたちからの言葉の意味をドラゴンが理解できたかどうかは分からない。

 だが、ドラゴンは一度大きな鼻息を吐くと後ろ足で立ち上がり、咆哮をあげながら、翼を大きく広げる。


 威嚇――ユーザリオンとクリエイテリオンの二人の脳裏に、そんな言葉が過ぎる。


 大きな生き物が大きな声をあげ、より身体を大きく見せるのは、迫力もひとしおだ。

 黒斗からしてみると、ユーザリオンに変身してなかったら腰を抜かしていたかもしれないと思えるほどに。


 だが、大丈夫だ。

 腰は抜けない。拳は握れる。見上げながらも睨むことができる。


 ドラゴンの方も、威嚇でどうにかなる相手ではないと理解したのだろう。前足をおろすと、真っ直ぐに二人を睨みつけた。


 そして、どちらともなく動き出す。


 ドラゴンvsリオン――


 ユーザリオンの地球。

 クリエイテリオンの地球。


 ――ここに、どちらの地球視点で見ても前代未聞の戦いの幕が上がるのだった。



 


「貴方は、戦いにいかないのですか?」

「おれはあいつらほどお人好しじゃないんでね」


 部屋に戻ってきたお嬢様の言葉に、窓の外を見たまま裕樹はそう答えた。

 だが、そう言いながらも裕樹はゲーミングベルターを取り出す。


「とはいえ、変身しないといけねぇ事態ってのには巻き込まれそうだ」

「え?」


 メロアルナが目を瞬くと同時に、裕樹は窓から飛び降りた。

 ここは二階だと言うのに、彼はなんなく庭へと着地する。


「これは誤算だったな。リオンがまだこの屋敷にいたとは」

「偶然だが――悪くねぇ偶然かもな」


 裕樹はお人好しではないが、だからといって恩知らずでもない。

 メロアルナには助けてもらって傷の手当てをしてもらっているのだ。その手前、この状況を無視するというのも寝覚めが悪い。


 目を覆うほどの大きなフードのついた黒いローブを来た男は、裕樹を見て口を歪める。


「この屋敷のお嬢様は良き、素体になりそうだったのだが」

「……ウィルサーカーのか?」

「もちろん」


 悪びれもなく口にするローブの男に、裕樹は目を眇めた。

 どこかで聞き覚えのある声が、まったく聞き覚えのない口調で喋っているような違和感。

 しかし、その内容がロクなものでもない。


「おれの知ってる脚本にゃ、お前みたいのは居なかったんだがな」

「すでに舞台が異世界に移った時点で地球の脚本など役に立たないだろう?」


 こいつは――敵だ。

 裕樹は直感的にそう判断した。


 裕樹がこの世界に迷い込んだ時、声をかけてきた自称神もだいぶ胡散臭かったが、アレは胡散臭いだけだった。


 だが、こいつからは悪意を感じる。

 人の良さそうな空気を纏いながらも、根底から滲み出てくるかのような悪意がある。


 裕樹はベルターを腰に当て、ガチャプセルを取り出した。


「お前が誰で、何の目的があってウィルサーク現象を起こしているのか――とりあえず、ボコってから聞き出させてもらうぜ」

「いけないな。自分だけが優位だなんて思ってはいけない」


 そう言うと黒いローブの男は真っ黒なベルターを取り出した。


 裕樹たち三人が使うゲーミングベルターとも、三人を襲った上でサリーと戦ったルシフェリオンの持つプロトサードとも違うデザインの真っ黒なベルターだ。


「私も持っているのだから」


 男はそれを腰に当てると、真っ黒なガチャプセルを取り出す。


「いいぜ……そのつもりだっていうなら相手になってやるッ!」


 裕樹も自分のガチャプセルを取り出す。

 そして、二人はそれぞれに、自分のベルターへとガチャプセルをセットした。


『仮面の闘士ッ! 溢れる闘志ッ! クラスは闘士ッ! アーユー・レディ?』

『仮面の闘神ッ! 惑わす星々ッ! クラスは道化ッ! アーユー・レディ?』


 そして二人の声が重なり合う。


「変身ッ!」


『ゲットレディ! ユーアー・マスカレイドゲーマー!』

『ゲットレディ! ユーアー・マスクドトリックスター!』


 ベルターが作り出す光に包まれ、二人はその姿を変える。


 右腕と右足は水色。左腕と左足は朱色。頭部を含む中央は濃い灰色。そんな配色のリオンの名をゲーマリオン。

 冠城裕樹が変身したリオンの姿だ。


 一方で黒いローブの男が変身したのは、全身が純白のリオンだ。

 だが、そのスーツの形状は、ゲーマリオンと完全に同じだった。唯一違いがあるのは、彼がつけている漆黒のベルターくらいだ。


「何者なんだ、テメェは?

 おれの2Pカラーみてぇな姿しやがって」

「実際、似たようなものかもしれないがね」


 ゲーマリオンの問いに、嘲笑するような口調で答えて、純白のリオンは優雅に一礼する。


「お初にお目にかかる。

 私のコトはそうだな――ローゲリオンとでも呼んでくれ。

 そして、このベルターの名前はゲーミングドライバー・チートスペック……と、私は呼んでいる。

 君が使うようなファーストでもなく、失われたセカンドでも、介入者の使うプロトサードでもない。私専用のベルターだ」


 純白のリオン――ローゲリオンの言葉に、ゲーマリオンは仮面の下で目を眇めた。


「いいぜ、ローゲリオンとやら」


 だが、ややしてその目を挑戦的な獰猛なものへと変える。


「チートとか抜かすテメェのベルターごと、テメェという名のステージを攻略(クリア)してやるぜ」


 舌なめずりするようにゲーマリオンは告げると、ローゲリオンに向かって地面を蹴って駆けだした。



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