025 そこにある確かな…
12/30 当初の次回予告に書いたネタを次話に盛り込み切れなかったので、次回予告の内容を変更しました。
両手で剣を握る。
ガチャプセルの力を借りて、それを右上から袈裟懸けに振り下ろした。
ウィルサーカーから、血の代わりに火花が飛び散る。
続けて踏み込み、右手だけで剣を持ち、左下から逆袈裟気味に横へ薙ぐ。
さらにもう一歩踏み込み、左手を添え、光魔を込ながら、腰だめから振り上げる。
「光武技! 絶輝昇斬ッ!」
斬撃と共に光魔による衝撃波が吹き上がった。
打ち上げられてから、地面を転がるウィルサーカーに、ユーザリオンは剣を構える。
「光武技! 輝翔閃ッ!」
振り下ろされた剣から、三日月のような斬撃波が放たれる。
起きあがろうとするウィルサーカーを切り裂き、さらなる火花を飛び散らせた。
その直後――
「……ぐッ」
技を繰り出したユーザリオンの身体からも火花が飛び散った。
彼はうめきながら膝をつく。
限界が近い――意識が飛びそうだ。
だが、あのウィルサーク現象は終わらせなければならない。
「クロト」
「ケイン……そろそろ限界だ。
ウィルサーク現象は終わらせるけど、その後、俺は倒れるだろうし、あのお母さんも意識を失う。だから……」
「分かってる。だからしっかり頼むぜ」
「こっちこそ。しっかり頼むよ」
そうして、ユーザリオンは立ち上がり、ゲーミングベルターのタッチパネルを撫でてから頭頂部のスイッチを押し込む。
『剣騎士! クリティカルタイ~ムフィニッシュ!』
手にしたナイトソードが光を纏い、まるで一本の棒のようになる。
それをしっかりと両手で握りしめると、ユーザリオンは地面を蹴った。
「ライトニングギガブレイクッ!」
背負うように構え、空中から一気に振り下ろす。
光の刃が解放されて、雷撃と化し、激しい閃光と共にウィルサーカーごと地面を薙ぎ払った。
閃光が収まると、全身から火花を散らし立ちすくんでいるウィルサーカーが現れる。
だが、ややして怪人は膝を付くとそのまま前のめりに倒れ、地面に伏した。
その一瞬あと、その身体が爆発を起こした。
煙が晴れ、その中心にはうつ伏せに倒れた女性と、ガチャプセルと、砕けた手鏡のようなものが落ちている。
傍らに落ちている手鏡のようなもの。
見慣れないそれにユーザリオンは訝しんでいると、自身の視界が明滅し始めてフラフラし始める。
ガチャプセルがどこかへ飛んでいかないように、自分でカバーを開けて変身を解除した。
だが、意識を保てたのはそこまでだ。
黒斗は地面に倒れると、そのまま意識を失った。
サリーはウィルサーカーを倒し、クロトが倒れるところまで見届けると、大きく息を吐いた。
クロトが倒れたことは不安はあるが、ともあれなんとか間に合ったようだ。
「サリー、戻ってきて早々悪いんだけど……」
「ごめん。戻ってきて早々悪いんだけど、あたしも限界……」
「え?」
ケインがサリーに声を掛けると、サリーもまたそこで倒れた。
「おいおいおいおいッ!」
ケインは思わず声をあげるが、サリーもまたかなりボロボロになっている。
「あーッ、もうッ!!
クロトもサリーも無茶ばっかしやがってッ!!」
思わず叫んだところに、お嬢様がやってくる。
「警邏の者たちと話を付けました。
リオンたち三人と、そちらの少女。それからこちらの親子は、手当も兼ねて当家へと連れていきます」
「自分とソハルの同行は?」
「もちろん許可いたします」
お嬢様の言葉に、ケインは大きく息を吐く。
「ギルマスには報告する義務がありますよ」
「存じ上げております」
「なら、ソハルと一緒にみんなを先に連れていってください。
自分は一度、ギルドに顔を出してギルマスに報告をしてから、伺いますので」
ケインの言葉にお嬢様は優雅にうなずくと、踵を返す。
集まってくる警邏隊員たちにテキパキと指示を出しているのを見ながら、ケインは今日何度目かになる嘆息を漏らした。
「やるコトが多すぎるな……ったく」
それでも、応急処置に頭を悩ませる必要はなさそうだ。
貴族であるお嬢様の家に厄介になるという点で不安は大きいが、それでも、貴族の中ではかなりマシな家だというのは理解している。
(お嬢様本人も噂ほどヒデェわけじゃなさそうだしな)
声には出さずに独りごちる。
警邏の者たちへの指示の出し方や、状況の判断能力は低くない。
(むしろ、良いほうだったよな?
悪役令嬢なんてあだ名も聞いた覚えがあるけど、そうは見えねぇんだが……)
そこまで考えてから、ケインは息を吐いた。
それを考えるのは今ではない。
人柄を見極めるのであれば、これからでも出来る。
今は自分が成すべきことをしなければ。
「おう。坊主」
意識を失った母親の横で座り込んでいる少年に、ケインは声を掛ける。
「これから、お前の母ちゃんの手当をする場所に連れて行く。
ただ――場所が場所なんだ。貴族の偉い人が出てくると思う。
坊主は、貴族の偉い人相手にちゃんと出来るか?」
少年は真っ直ぐにケインを見上げながら――ゆっくりと首を横に振った。
「なら、お前は俺と来い。
お前が変なコトを口にすれば、母ちゃんは手当をしてもらえない可能性がある」
ケインはそう口にするが、実際はそんなことないだろう。
だが、初めて会う貴族がまともな相手だと、まともじゃない貴族に対する恐怖心が身につかない可能性があるのだ。
世の中、まともじゃない貴族の方が多いくらいなのだから、ここでしっかりと貴族の怖さを教える必要があると、ケインは考えた。
(本当はクロトにも、そういうの教えたかったんだが……まぁ、お嬢様とのやりとりを見る限り、多少は平気か)
少年はしばらく考えてから、ゆっくりとうなずいた。
「わかった。ママの為に、お兄ちゃんと一緒に行く」
「いい子だ。俺はケイン。お前は?」
「カイ」
「よし、カイだな。
これから俺が行くのは流旅行者協会だ」
途端、カイの目は輝く。
「何だ? 流旅行者になりたいのか?」
「うんッ! 冒険者や傭兵って強いでしょ? だから、強くなってお金を稼いで、ママを守りたいんだッ!」
力強いカイの言葉に、ケインの口元が綻ぶ。
「そうか。じゃあ、一緒にいる間くらいは色々と教えてやるか」
「ほんとッ!?」
「ああ」
そうしてケインはカイの手を取ると、ゆっくりと歩き出す。
「お嬢様。先ほど言った通り、ギルドへ行ってきます」
「ええ。うちの門番には言付けておきますので、ちゃんと名乗るように。」
「ありがとうございます。みなをよろしくお願いします。では失礼します」
一礼するケインを見てから、カイも頭を下げる。
「ママをお願いね、です」
これには、ケインもお嬢様も驚いた。
二人のやりとりを見ていて自分でもやろうと思っただけかもしれないが――
「見所がありますわね」
「同感です」
誰かに教わったわけではないだろう。
だが拙い言葉でも、カイは習ってない敬語を使い、頭を下げたことが、ケインとお嬢様の中での株があがる。
ちゃんと仕込めば、流旅行者でも兵士や騎士でも、やっていけそうだ。
「いいぞ、カイ。
挨拶はどんな仕事でも……仕事以外でも大事だしな」
ケインはカイを褒め、頭を撫でてやる。
それから、ケインはお嬢様へと視線を戻す。
「それでは、改めて失礼します」
「しつれいします」
「ええ。後ほど、我が家で会えるのを楽しみにお持ちしております」
そうして、ケインはカイを伴いギルドへ向けて歩き出す。
昼過ぎに始まった激しい戦いの後始末は、お嬢様の指揮の元、迅速に幕が下ろされていくのだった。
<NEXT Level――
「さすがはファンタジー世界……」
「二人以上での同時変身ってドラマとかだと盛り上がるシーンなんですよね」
「……まじか」「……まじか」
「このベルターの名前はゲーミングベルター・チートスペック……と私は呼んでいる」
「オレは意地でも元の世界に帰る」
――迷子の迷子の特撮ヒーロー
『Lv6.異世界らしい生き物はBigSize!!』>
次の対戦相手は、君だ!
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