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019 火花散るステージ


 三人のリオンの前に現れたのは、女性的なシルエットのリオンだった。


 メインカラーは光沢のある漆黒。

 ボディには、左右非対称に、青色LEDを思わせるラインが走っている。

 むしろ、そのライン以外はすべて黒だ。


 右腕にはパソコンのキーボードを思わせる意匠の長方形の盾のようなものがついている。左腕にはパソコンのマウスを思わせる腕輪だ。


 背中には三人にはないマントがはためいていた。

 そのマントも、右側は漆黒ながら天使を思わせる形状。左側はコウモリを思わせる形状と左右非対称だ。


 頭部を覆う骨飾りは、どこかヤギを思わせるが、その角の形状が左右で異なる。

 右側は大人しくも神々しい羊のような角。左側は荒々しく禍々しい山羊の角。


 その姿からは、天使なのか悪魔なのか、はっきりしない。

 どこまでも左右非対称に見える姿をしていた。


 黒斗や裕樹にとっては、見たことのないリオンだ。事前に知らされているシナリオの範囲にはいなかったはずだ。


 チラリと、ユーザリオンはクリエイテリオンに視線を向ける。

 だが、クリエイテリオンも首を小さく横に振る。巧としても、記憶にはないリオンのようだ。


「なんだテメェ? そいつはおれのだッ!」


 騎士のガチャプセルを拾ったその謎のリオンに、ゲーマリオンが向かっていく。


「おらァッ!」


 振り下ろされるクリアセイバーを謎のリオンは右腕のキーボード風シールードで受け止め――


「まるでチンピラだな」


 左手を開く。

 その五指の先から爪のように刃が生える。


「邪魔だッ! 葬夢爪(ソウムソウ)ッ!」


 それをすくい上げるように振り上げて、ゲーマリオンを切り裂いた。


「ぐあぁ……ッ!」


 火花を散らしながら宙を舞うゲーマリオン。

 吹き飛ぶ彼を見上げながら、謎のリオンは左手の爪をしまうと、ゲーミングベルター左側のカバーを開いた。


 右手に持ったガチャプセルを開き、内側を撫で、左手に持ち変える。

 そして、それをベルターの左側にセットしてカバーを閉じた。


『ガチャッとチェンジ? アーユー・チェンジ?』

「クラス、インクルード」

『ゲットセット! 使う使うよクラスを使うッ! 誇れッ、契れッ、立ち上がれッ! ユーアー・マスカレイドクラッカー! インクルード・騎士(ナイト)!』


 見た目に特に変化は起きない。

 だが、謎のリオンは右手のキーボード風シールドを宙を舞うゲーマリオンに向けて構えた。


幻光武技インクルード・アーツ鎧破騎神衝(ガイハキジンショウ)


 瞬間、青く輝く衝撃波がゲーマリオンに向かって放たれ、彼を飲み込む。

 それは先ほどウィルサーカーが使っていた技そっくりだった。


「うあああ……ッ!!」


 空中で追撃を受け、前進から火花と煙を放ちながら、ゲーマリオンは地面へと転がる。

 ユーザリオンは彼に駆け寄り、クリエイテリオンは二人をかばうように前へ出る。


 クリエイテリオンは謎のリオンと睨み合いつつ、対峙するリオンのゲーミングベルターを指差した。


「そのベルト……ゲーミングベルターの改良機……セカンドスペックに似ているな」

「その言い方をするのであれば、これはサードスペックだ」

「なに?」


 謎のリオンの言葉に、クリエイテリオンが訝しむ。


「正しくはプロトサード、だな。今回は試運転のようなものだ」

「何が目的だ?」

「…………」


 その部分に答えるつもりはないようだ。


「お前もガチャプセルを集めているのか?」

「…………」


 これにも答えるつもりはないらしい。


「正体を問うても答えないだろうしな……何を聞けば答えてくれる?」

「何かを聞けば答えてくれるとでも?」

「ベルターに付いては答えてくれたからな」

「ただの気まぐれだ」


 そう告げて、謎のリオンは右手を掲げる。

 すると、ワイヤーフレームのように剣が形作られ、色が付き、本物のロングソードへとなった。


「さて、お喋りはこの辺りにしておこう」

「やるしかないのか」


 クリエイテリオンはもう少し情報を引き出すつもりのようだったが、向こうがそれを拒絶する。


 コントソーサーとロングソードがぶつかりあう。

 剣戟を繰り広げる二人だったが、騎士のガチャプセルを使っている謎のリオンの方が、一枚も二枚も上手のようだ。


「ソハル! ゲーマリオンを頼む」

「頼まれる必要はねぇ!」


 治療を頼もうとするユーザリオンを遮って、ゲーマリオンは立ち上がる。


「裕樹ッ!」

「ナメられっぱなしじゃいられねぇんだよッ!」


 そう言ってゲーマリオンが謎のリオンを睨み付けた時だ。

 謎のリオンが振り上げた剣が、クリエイテリオンの持っていたコントソーサーを弾く。


 大きな衝撃に対して、それでもコントソーサーを手放さなかったクリエイテリオンは流石と言えるが、それでも――勢いよく飛ばされそうになるコントソーサーを握りしめていたのだ。勢いで体が大きく上に伸びてしまう。


 そこを見逃すような敵ではなかった。


双隼剣(ソウジュンケン)ッ!」


 一瞬だけ力をため、袈裟懸けにロングソードを振り下ろす。

 振り下ろした体勢から素早く手首を返し、横一文字。

 ハヤブサを思わせる二連撃が、クリエイテリオンを切り裂いた。


 火花を散らして仰け反るクリエイテリオンを目隠しにして、ゲーマリオンが間合いを詰める。


()ッ!」


 クリエイテリオンの影から飛び出し、ゲーマリオンは鋭い呼気(こき)と共にクリアセイバーを突き出す。


 鋭く突き出される剣を、しかし謎のリオンは左手の手のひらで受け止めた。

 そのまま刀身を握りしめ――


「悪くはないが、技がヌルいな」


 大上段から右手のロングソードを振り下ろそうとする。


「させるかッ!」


 そこへユーザリオンが踏み込んでいき、謎のリオンの右手の手首を掴んだ。


「ほう?」


 謎のリオンは左手で握っていた剣を無造作に手放すと、左手に爪を伸ばす。


「ソハルッ!」

下級風刃術(ウィンダ)ッ!」


 そこに、ソハルが風の刃を放つ。


「小賢しいッ!」


 ユーザリオンに向けていた爪を飛んでくる風刃を振り払うのに、用いる。


 その瞬間に、ユーザリオンは不格好な蹴りを放つ。不格好なれど、スーツによって強化された脚力は馬鹿にならない。


「ぬっ?」


 火花を散らすのに至らずともバランスを崩させるのには充分だった。

 そして、その隙を生かせぬほど、ゲーマリオンもバカではない。


 すでにクリアセイバーは手放している。

 左手でベルターを操作して、頭頂部のスイッチを押し込む。


《クリティカルクリア~アタック!》


 ゲーミングベルターの音声と共に、ゲーマリオンの右手が光り輝く。


「いくぜ? シャインクリティカルナックルッ!」


 近距離から、強烈な突進を伴う拳が繰り出されたッ!

 ゲーマリオンの光る拳は謎のリオンのボディへと突き刺さり、しばらくそのまま突き進む。


「うおおおおおおおおお――……ッ!!!」


 最後に突き抜けるように、すり抜け、ゲーマリオンは残心。

 ややして、ゆっくりと振り向いた。


 そこにいたのは、何事もなかったかのように立ったままの謎のリオンの姿があった。


「なん……だと……?」

「多少はやるか」


 ゲーマリオンの拳が突き刺さっていたあたりを軽くパッパッと手で払い、謎のリオンは振り返る。


「次はこちらのターンでいいな?」


 左手でゲーミングベルター・プロトサードのタッチパネルを撫で、頭頂部やや左側にあるスイッチを押し込む。


『マ~ックス!! クリティカルぅ~クラッキングアタック!』


 やばい――と、ユーザリオンは直感する。

 当然、対峙しているゲーマリオンとてそれに気づく。


 謎のリオンは持っていた剣を放り投げると、その右手が黒く輝いた。


「いくぞ?」


 そうして右手を構えた――刹那。


 ユーザリオンの目にも、ソハルの目にも、謎のリオンの動きは見えなかった。


 気が付くと、先ほどのゲーマリオンと立場が逆転した光景が展開していたのだ。


 謎のリオンの拳が、ゲーマリオンのボディを捉えている。

 しかしゲーマリオンと異なりそののまま貫き通すのではなく、だが慣性は殺さずに逆の手の強烈なアッパーカットを繰り出す。


「がはッ!?」


 激しい火花と共に、今日何度目かの宙に舞うゲーマリオン。

 それを追いかけ、錐揉み回転しながら謎のリオンが飛び上がる。謎のリオンのマントが光を放ちながら刃と化し、ゲーマリオンを追い抜き様に切り刻む。


 そしてゲーマリオンよりも上をとった時、回転は収まり、その右手がひときわ強く輝いた。


「マックスシャインクリティカルナックル……これにて完成だ」


 その右手を、振り下ろす。

 黒く光り輝く拳を打ち込まれたゲーマリオンは、勢いよく地面に叩きつけられ、少し遅れて大量の火花を散らした。


「裕樹……ッ!」

「クロトッ、ダメ! 彼は私が見るからッ!」


 ゲーマリオンの元へ駆け出そうとするユーザリオンを引き留め、ソハルが駆ける。


「彼女の言う通りだ。

 この状況で、こちらに背を向けるほど愚かな行為はないぞ?」


 着地した謎のリオンが、ユーザリオンに視線を向ける。


 ソハルの方へを一瞥すると、ゲーマリオンは変身が解けて裕樹に戻っていた。

 だが、パッと見ではかなり怪我を負っているようだ。


「ユーザリオン、多少無茶をしても、このリオンは止めるぞッ!」


 立ち上がったクリエイテリオンが叫ぶように告げる。


「…………」


 正直に言うと、黒斗はビビっていた。

 黒斗は、裕樹も巧も自分よりも強いし、変身を使いこなしている存在だと思っていたからだ。


 そんな二人を簡単に退ける相手に、自分が挑むのは無理があるだろうと。

 変身して多少は気が強くなったとしても、限度というものがあるのだ。


 だけど――それでも――


 ソハルが裕樹に治癒術をかけ始めている。

 裕樹が怪我してるのを見るのも、心がざわめくというのに……。

 

 ――なにもしなければ、次はクリエイテリオンが、巧が、あんな風に怪我をするかもしれない。

 

 それは、自分が怪我を負うことよりもイヤだと、黒斗は思った。


 だから――

 ユーザリオンは、盗賊のガチャプセルを取り出した。


 ベルター左側のカバーを開き、セットする。


『ガチャッとチェンジ? アーユー・チェンジ?』

「クラスチェンジ!」


 カバーを閉じて、ベルター頭頂部のスイッチを押し込んだ。


『ゲットセット! 変わる変わるぜクラスが変わる! 盗めッ、(かわせ)せッ、生き残れッ! ユーアー・マスカレイドユーザー・盗賊(シーフ)スタイル!』


 その手の中に、一振りのクラス用サーベルが現れ、それを握りしめ、まっすぐに突きつけると――


「今日の対戦相手は――お前だ」


 クラスチェンジによって首元に現れた赤いロングマフラーを風にたなびかせながら、色んな感情を飲み込んで、ユーザリオンはそう告げた。

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