018 火の粉を振り払い
クリエイテリオンが構え――地面を蹴るッ!
迎え撃つべくゲーマリオンは身構え――クリエイテリオンは彼の前を通り過ぎた。
「な……ッ!」
「優先すべきは街への被害を押さえるコトと、ガチャプセルの回収だからなッ!」
「ふざけんなッ! そいつはオレの獲物だしッ、騎士のガチャプセルもオレのなんだよッ!」
背後から声を荒げるゲーマリオンを無視して、クリエイテリオンはバックルのタッチパネルを撫でて、コントソーサーを呼び出した。
「破ッ!」
気合いと共に、コントソーサーを振り抜く。
ウィルサーカーはそれを左腕の盾で受け止め、弾いた。即座に右手に握る剣を突き出す。
「おっと……ッ!」
突き出された剣を躱すクリエイテリオン。
だが、横へと跳んだ彼の背に、ゲーマリオンが自身の体重を乗せて放ったヤクザの前蹴りのような不格好な一撃が襲いかかる。
「おらぁッ!」
「ぐあ……ッ!」
背中を蹴られクリエイテリオンが顔から地面にダイブしそうになる。
クリエイテリオンは何とか身体を捻り、受け身をとるが、その間にゲーマリオンはウィルサーカーへと肉薄していた。
「だりゃぁぁぁ……ッ!」
ゲーマリオンの放つ拳は、だがウィルサーカーの盾に阻まれる。
即座に後ろ回し蹴りを放つものの、盾はビクともしない。
「チッ」
舌打ちするゲーマリオンへ、ウィルサーカーは剣を逆袈裟に振り上げる。
その剣の切っ先が掠り、ゲーマリオンのボディから鮮血の代わりに軽く火花が散った。
傷は浅くともダメージを受けたことに、ゲーマリオンはもう一度舌打ちをして飛び退く。
だが、ウィルサーカーはそこを好機と見たのか、積極的に踏み込んでいった。
「こいつ……ッ!」
「FUUUUUU……ッ!」
鋭い息吹と共に剣が振り下ろされる。
当たるわけにはいかないと、ゲーマリオンは身を捻ってそれを躱す。だが、一撃だけでは終わらない。
振り下ろした剣を返す刀で横薙ぎを放つ。
ゲーマリオンは咄嗟に両手をクロスして受け止める。
先ほどよりもダメージが大きいのだろう。腕から激しい火花が飛び散った。
「ぐお……」
だが、ウィルサーカーの攻撃は止まらない。
剣を振るった勢いで捻れた身体のまま、左手の盾をゲーマリオンの正面に構える。
直後、その盾が禍々しい光に包まれた。
『堕光武技:鎧破武辱衝』
くぐもったウィルサーカーの声が不気味に響く。
刹那――その盾からゲーマリオンを飲み込むように黒い衝撃波が吹き荒れた。
「うおおお……ッ!?」
衝撃波に飲み込まれ、ゲーマリオンが全身から火花を散らしながら宙を舞う。
だが、彼が地面に叩きつけられることはなかった。
「大丈夫?」
「……うるせぇ……」
吹き飛ばされるゲーマリオンをユーザリオンが受け止める。
「つか、下ろせッ! 何でお姫様だっこになってんだよッ!?」
「受け止めたらこの形になっちゃっただけなんだど……!」
ジタバタともがいてゲーマリオンはすぐさま地面に降りた。
「クソが……だが一応、礼は言っとく」
ゲーマリオンはユーザリオンに背を向けてそう告げると、クリエイテリオンと対峙しているウィルサーカーへと向かっていく。
その背を追いかけながら、ユーザリオンは何となく口にする。
「今までのウィルサーカーより強いね」
「素体が良かったんだろ?」
「あ、なるほど」
騎士としての適正があったかどうか――というよりも、基礎能力の高さの話だ。
元となった人間が、前衛職として優秀な人物であったのならば、騎士ウィルサーカーの戦闘力も優秀たりえる。
それどころか――
「岩砕衝破ッ!」
クリエイテリオンはコントソーサーの切っ先を地面に擦りつけながら、振り上げる。
瞬間、地面がめくりあげられ、衝撃波と共に石や砂などが凶器となってウィルサーカーを襲いかかった。
だが、ウィルサーカーはそれに対して、盾を構えずに言葉を漏らす。
「堕光武技:擬身崩転移」
ウィルサーカーが影を纏うと同時に、クリエイテリオンの放った衝撃波に飲み込まれる。
その身体は影ごと急速に崩れ落ちた。
「……なに?」
直後、クリエイテリオンの影から姿を現したウィルサーカーが、彼の背中に向かって剣を構える。
「堕光武技:絶影刃」
「しまっ……ッ!?」
そして、影を纏った刃で、クリエイテリオンの背中を切り裂いた。
――素体が元々取得していた光武技も、使いこなすこともある。
「ぐああ……!」
背中から激しい火花を散らしながらクリエイテリオンは吹き飛ばされ、地面を転がった。
「アイツの背中、今日は厄日だなッ!」
そう嘯きながら、ゲーマリオンは地面を蹴る。
「うらぁッ!!」
不意打ちに近い跳び蹴り。
「堕光武技:擬身崩転移」
だが、ウィルサーカーは影を纏い――その蹴りを受けると同時に崩れ落ちる。
瞬間、着地したゲーマリオンの影からその姿を現した。
「堕光武技:絶影刃」
クリエイテリオンに仕掛けたように、ゲーマリオンの背後から剣を構え――
「一度見たネタだ。簡単には食らわねぇよ」
しかし、その刃が振り下ろされる前に、ゲーマリオンがつまらなそうに肩を竦める。
その直後――
「喰らえッ!」
ウィルサーカーの背中を、クリアセイバーを手にしたユーザリオンが斬りつけたッ!
「ガチャプセルなしじゃまだ光武技は使えないけどさッ、だからって戦えないワケじゃないッ!!」
続けて踏み込み、払い抜ける。
左手でバックルのタッチパネルを撫でてハエーナランサーを取り出すと、振り向きざま、ウィルサーカーの腹部に向けて突き出したッ!
ウィルサーカーは大きくよろめき、膝をつく。
「ヒロキ!」
ユーザリオンはクリアセイバーをゲーマリオンに投げ渡す。
「ちッ、借りばっか増える日だなッ!」
毒づくものの、このチャンスをみすみす逃すのは間抜けの所業だ――そう自分に言い聞かせて、ゲーマリオンはクリアセイバーを受け取った。
ゲーマリオンは、即座にクリアセイバーのタッチパネルを撫でてから、バックル頭頂部のスイッチを押し込み、剣を構える。
《クリティカルクリア~アタックッ!》
ユーザリオンもハエーナランサーのタッチパネルを撫でてから、バックルの頭頂部のスイッチを押し込み、槍を構えた。
《クリティカルタ~イムアタックッ!》
二人の武器の刀身が光り輝く。
クリアセイバーは、白く。
ハエーナランサーは、青く。
「クリティカルレイブレード!!」
「クリティカルソニックブラストッ!」」
振り下ろされたクリアセイバーから、光り輝く斬撃が空を裂くように、ウィルサーカーへと向かっていく。
突き出されたハエーナランサーから、螺旋を描くように円錐状の衝撃波が撃ち放たれ、地面を削りながらウィルサーカーへと飛んでいく。
それに対し、ウィルサーカーもよろめきながらも立ち上がり盾を構えた。
「堕光魔術:防影強化」
盾が影に包まれ、二人のリオンからの攻撃を受け止める。
二つの光の刃と、影の盾がせめぎ合い、火花が散る。
そしてウィルサーカーの盾にヒビが入り、その拮抗が崩れた時、光の刃が盾に隠れた敵の身体を貫いた。
一瞬遅れて爆発が起こりウィルサーカーを飲み込む。
「ったく手間取らせやがって」
「これで倒せたかな?」
爆発が収まり、煙が晴れる。
だが、そこでウィルサーカーはまだ立っていた。
盾が砕け、剣が折れ、肉体と同化した鎧はズタボロで、全身から火花を放ちながらも、なおもその闘志は砕けていないとばかりに、ウィルサーカーは咆哮をあげる。
「UOOOOOOOOOO――……ッ!!」
騎士のガチャプセルが宿す本能なのか。
あるいは、素体の意志なのか。
「はッ!? 理性なくても騎士道だけはあるってか?」
ウィルサーカーは折れた剣を構えた時――
「ならば――俺はッ、その偽りの騎士道を折ろうッ!」
二人のリオンの上方から、声が響いた。
《クリティカルハ~イスコアフィニッシュ!!》
飛び上がったクリエイテリオンがバックルのタッチパネルを撫でたあと、頭頂部のスイッチを押し込む。
同時にクリエイテリオンの右足が黒い光に包まれる。
その右足で十字を切り、その中心に向かって右足を突き出すと、十字の斬撃に、ウィルサーカーへ向かって急降下していくッ!
「黒魔絶招撃ッ!」
ウィルサーカーの身体に十字の傷跡を刻み、その中心を強烈な蹴りで貫く。
クリエイテリオンはウィルサーカーの背後にしゃがみ込むように着地すると、そのまま小さくガッツポーズするように拳を握った。
「お前との戦いの記録……しかと刻もう」
ウィルサーカーは膝から崩れおち、うつ伏せに倒れ込むと一瞬遅れて爆発する。
爆発が落ち着くと、今度こそその爆発の後にはうつ伏せに倒れた黒ずくめの男――素体となった人間が倒れていた。
その傍らにガチャプセルと、砕けた鏡のようなものも落ちている。
「何とかなったか」
一息つきながら立ち上がるクリエイテリオン。
だが、三人で協力して倒したとなると、あのガチャプセルは誰が手にするべきなのだろう。
そんなことを思いながら、騎士のガチャプセルを拾おうとした時、だ。
《仮面の堕神ッ! 不敵な機神! ハック! クラック! シンキング! アーユー・レディ?》
どこからともなく、電子音声が響きわたる。
三人の使うものと違い、ノリノリで声を上げる電子音声は女性的だ。
「なんだ?」
三人のリオンだけでなく、傍観者となっていたソハルも周囲を見回すが、それらしき人物は見つからない。
『変身』
そんな四人の姿を嘲笑うように、その言葉が紡がれる。
その声は、何らかの方法で加工されており、男か女かの判断も付かない声だった。
《ゲットレディ! ユーアー・マスカレイドクラッカー!!》
ベルターのものと思わしき女性の声が響きわたり、変身してると思われる音が聞こえてくる。
そして――
「些か、お粗末がすぎないか、お前たち?」
いつの間にそこに現れたのか――黒く光沢のあるボディに、青く光るラインが複数走るスーツを纏ったリオンが、騎士のガチャプセルを手に取りながら、そう告げてきた。