017 風が舞い、血が騒ぎ
物語にほとんど影響はないのですが、
6話と11話冒頭に、クロトの語りを追加しました。
フィーニーズ。流旅行者互助協会。ギルマスの執務部屋。
「――クロトの知人ヒロキ……ゲーマリオンか」
サリーとケインから報告を受けて、ギルドマスターのバベードが唸る。
クロトとクリエイテリオンの存在だけでややこしいというのに、まさか三人目のリオンが現れるとは思っていなかったのだ。
「クロトとヒロキは遠い土地よりこの地へと飛ばされてきた。
そして、元の土地へ帰るには十個のガチャプセルが必要と言っていたんだな」
「うん。そして帰るコトが出来るのは独りだけとも言ってたかな」
「ヒロキという人物が報告通りだというのであれば、クロトにとってはかなり危険な相手だな」
「なりふり構わないから、だよな」
「ああ」
ケインの言葉に首肯して、バベードは大きく息を吐いた。
例え知人であっても、それを蹴落としてでも、ヒロキは故郷へと帰ろうとしている。
クロトとて帰還は望んでいるのだろうが、ヒロキほど冷酷にはなれないだろう。
「クリエイテリオンの方は、目的が分からん。
まぁクロトを助けたり助言をしているコトから、面と向かった敵対は今のところは無さそうだがな……」
顎を撫でながら、バベードは思考を巡らせる。
「それにしても十個のガチャプセルか……。
クロトが僧侶と盗賊。クリエイテリオンが猛獣使いと遊び人を持ってるんだっけか?」
「それで四つかな」
「これ、10のクラスで間違いないよな?」
「だろうな。使用者をクラスマスターに変える光具――いや、光具かどうかは分からねぇか」
クラス――外付けの才能と呼ばれる女神の祝福。
サイクリスタルと呼ばれる石と契約を結び、その石に封入されたクラスのチカラを使用できるというものだ。
かつてこの世界に存在した様々な使い手たち。彼らがこの世界に刻み込んだ記憶を、サイクリスタルに封入し、契約者はそれを行使していると言われているが、実際のところの理屈は判明していない。
あるいは脳の未使用領域に封入された情報を書き込んでいるとも言われているが、それすら事実かどうかは不明である。
「10のクラス……『戦士』『騎士』『魔術師』『僧侶』『拳術士』『盗賊』『旅芸人』『道具使い』『猛獣使い』『遊び人』か。まぁ実際、サイクリスタルに封入できるのは、8つなワケなんだが……」
「猛獣使いと遊び人に関しては実在を疑われてたけど……実在したんだね」
サリーが感心したように口にする横で、ケインは眉を顰めた。
「どうしたケイン?」
「いや……気になるコトが湧いたんだが……ちょっと頭の整理がつかないんだ。報告は整理できてからでもいいか?」
「おう。不確か過ぎる情報ってのは混乱の原因にもなるからな。そこは報告者の判断に任せるぜ」
この辺りで、盗賊退治とゲーマリオンの報告は一段落だろう。
バベードはそう判断して、後ろ頭を掻く。
「こっちからも報告が二つあってな」
ギルマスの表情はお世辞にもすっきりしたものではないので、何か言い辛いことなのだろう。
「どっちも良くないニュース?」
「片方はな。もう片方は何とも言えないな」
軽く嘆息しながらそう告げて、バベードはそのニュースを口にする。
「一つ。リオンたちの存在を、領主のご息女が気にかけてる。
無茶なコトはしないだろうがな。王子に婚約破棄されて気が立ってるらしいから、面倒事の可能性は考慮しとけ」
「ここの領主様って貴族の中でも身分の高い人だったよね?
王子だからって、そんな人との婚約を簡単に破棄できるのかな?」
「何でも王子の恋人に嫌がらせをしまくってたらしいぜ」
「……婚約者が、恋人に嫌がらせ……???」
すーっとサリーの目が細まるのは、王子に対して何か思うことがあったからだろう。
そんな彼女が余計な発言をする前に、バベードは話を続けた。
「もう一つが、裏ギルドだ。
暗殺や盗みなんかの犯罪を請け負う非合法ギルドの一つが、ガチャプセルらしきモノを手にしてたって報告がある」
こちらの話には、ケインの目が細まった。
「またウィルサーカーが出る可能性があるのか」
「ああ。最悪――路地裏とはいえ、街の中でって可能性がありやがるわけだ」
思わずケインが舌打ちした。
暴走していたウィルサーカーは盗賊しか知らないし、その盗賊もゲーマリオンに簡単にやられていたので参考にはならない。
それでも、クロトから話を聞く限りは、理性の壊れた劣化リオンともいえる存在らしい。
腕利きのサリーでなら互角だろうが、逆に言えばそれ以外の者からすると、かなりの強敵だ。街への被害が拡散すると、最悪の事態もありえるだろう。
「帰ってきて早々で悪いんだが、お前たちには件の暗殺ギルドの様子を窺ってきて欲しい」
「そういうコトなら引き受けるしかねぇな。サリー?」
「うん。もちろん」
暗殺ギルドの人間がウィルサーク現象に見舞われたりすると、リオン以外ではサリーと同格の腕を持つ者しか止められない。
クロトは治療院に行っている、クリエイテリオンは信用して良いのかわからない。
こうなると、やはりサリーに頼るしかないだろう。
「ここ数日、暗殺ギルドの情報とガチャプセルらしきモノの情報を探っている小柄の男の報告がある。
主な場所は、宿場通りの外れにある路地裏だ。わりと有名だから知ってるあろ?」」
「ヒロキ、かな?」
「恐らくな。最悪はゲーマリオンが敵になる。ほどほどで引き上げていいからな」
サリーとケインを気にかけるバベードに、二人は力強くうなずいてから、部屋を後にするのだった。
☆
「宿場通りの外れに、こんな美味しいお店あったんですね……ごちそうさまでした。私まで奢ってもらってしまって」
「いいさ。付き合わせたのはこっちだしね」
お店から出てきて、声を弾ませるソハルに、巧は爽やかに応える。
その爽やかさに、微妙な苦手意識を覚えつつ、黒斗も礼を口にした。
「ごちそうさまでした。奢ってもらってすみません」
「黒斗も気にしないでくれ。こっちも君と話をして得るモノがあったしね」
そう言って笑おうとした巧の顔が僅かにこわばる。
即座に手を伸ばして、黒斗の手首を掴むと軽く引っ張った。
「すまない。だが、気を付けてくれ。
宿場通りは――このメインストリートはいざ知らず、脇道に延びる薄暗い路地裏にはよくない連中が多いからね。
路地裏ギリギリを歩いていると、手が伸びてきて飲み込まれるコトもあるなんて言われているくらいさ」
「そうなの?」
黒斗は目を瞬きながらソハルに訊ねると、彼女もうなずいた。
「そうね。
当たり前のコトだったから注意し忘れていたけど、そういう面はあるわね。この辺りは」
「黒斗は海外旅行とかはあまりしたコトが無さそうだからな。気を付けた方がいいぞ。
日本ってのは、本当に治安の良い土地だったって――最悪に遭遇しながら実感したくはないだろう?」
「そうなんだ……。
正直、この世界に来てからまだ一週間ちょっとだから、色々と知らないコトは多いんだろうなぁ……」
「そういえば、まだそんなモノだったかしら……」
ソハル曰く、黒斗絡みの出来事が濃すぎて、もっと長い時間一緒に居た気がするらしい。
「まぁ濃い出来事が多かったっていうのは否定しないけどさ」
黒斗もまたソハルの言い分に反論できない。
彼自身もまた、実際そうだったと実感があるのだ。
「君が聞かせてくれた出来事は全部ここ一週間ほどの出来事だったのか……」
呆れたような驚いたような声で巧がそう言った時――
ドォン!
――というハデな爆発音が聞こえた。
「二本先の路地だな」
「あそこって……裏ギルド絡みかしら?」
「あんまり関わり合いたくはないが……」
巧とソハルだけが何かを理解しているような会話をしている中、黒斗が件の路地裏に視線を向ける。
そして、チラりと見えたものに対して、ゲーミングベルターを取り出した。
「巧さん、関わり合いに――むしろなった方がいいかもです」
「それはどういう……いや、ウィルサーカーか。剣と盾を構えてるから、騎士かな?」
ウィルサーカーが暴れるからか、野次馬たちが散っていて、はっきりとその姿が見える。
黒斗の言葉の意味を理解した巧も、ゲーミングベルターを取り出す。
「おいおいおいおいッ! 理性吹っ飛んでるなら、逃げンじゃねぇよッ!!」
路地裏から飛び出してくるウィルサーカーを追いかけて出てきたのは、黒斗も巧もソハルも見覚えのある姿。
「ゲーマリオンか……ッ!」
「また会ったなクロ……それに大崎サンも来てたのか?」
「あいにく、俺は大崎なんて名前じゃなくてな。そっくりさんって奴だ」
そう言いながら、巧はゲーミングベルターを腰に当てた。
「そっくりサンもそいつを持ってるのかよッ!」
「まぁなッ!」
巧は応えながら、左手でガチャプセルを開き、右側に突き出す。
右手でバックル右側のカバーを開いてから、ガチャプセルの内側を撫でて、手を伸ばしたままクロスさせる。
『仮面の闘士ッ! 高まる闘志ッ! クラスは闘士ッ!』
左手で持ったガチャプセルをバックルにセットしながら、その手を外側に伸ばした。
『アーユー・レディ?』
そのあと、右手でバックルのカバーを閉じながら腕を伸ばすことで身体を開く。
ゆっくりと両手をバックル上部のスイッチの上まで持ってくると、告げる。
「変身ッ!」
重ねた両手の下にある右手でスイッチを押したあと、もう一度身体を開く。
『ゲットレディ?』
足下にパソコンパーツの一つであるCPUを思わせる模様が浮かびあがると、青と黒の光を放ち巧を包み込む。
光はやがて白い球体となると、X字のような切り込みが入り、緑色に輝く。
『ユーアー・マスクドクリエイター!』
そして、白い球体が消え、緑色に輝く切り込みだけがのこる。
X字の切り込みは徐々に小さくなり、球体の中から姿を見せた黒い闘士の胸元へ。
最後に頭部周辺にワイヤーフレームのようなモノが現れると、動物の骨を思わせる特徴的な装飾を形作って実体化した。
「ウィルサーカーとゲーマリオン……。
ここで会ったならば丁度いいさ。お前たちを、オレの記録に刻んでやる」
そう宣言するクリエイテリオンに、ゲーマリオンが獰猛な声を上げて応じる。
「上等ッ!」
そうして、クリエイテリオン、ゲーマリオン、ウィルサーカーの三つ巴がはじまった。
「……ところでクロト。貴方は変身しないの?」
「するする! なんか場の勢いに飲まれて傍観者になってたッ!」
ソハルに問われ、黒斗は慌ててガチャプセルをバックルにセットするのだった。
クロト達の戦いとは無関係で申し訳ないのですが、宣伝させてください。
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http://legendnovels.jp/special/20190905101.html
はやいところでは既に売り切れもあるようで、ありがとうございますッ!
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なお、俺ダンのWEB原作は本ページ下部にあるリンクの一つ
『異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者の憂鬱』になります。
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