016 その日、治療院にて――
拝啓、ファンの皆様へ……
どーも、吉田黒斗です。
先日ギルドで盗賊退治を依頼され、サリー、ケイン、ソハルと一緒に行くことになりました。
でも、いざ盗賊のアジトに着くと、そこではゲーマリオンとウィルサーカーの戦闘真っ直中。
ゲーマリオンこと冠城 裕樹君もこの世界に迷い込んでいたようです。
彼によると、ガチャプセルを十個集めると、元の世界に帰れるのだとか。
そして彼は、誰かを蹴落としてでも、十個集める気のようです。
もちろん、その蹴落とす誰かとは私のことなのですが……。
リオン同士の戦い……。
仮面闘士リオンシリーズでは時々ある話ですね。
私の大好きなナイトリオンは、それがメインのお話でしたし。
ですけど……こうして自分が、知り合いと戦うことになるのは、結構シンドいのですね……。
今、私の手元にあるガチャプセルは僧侶と盗賊。これがある限り、裕樹君と……ゲーマリオンとの衝突は避けられないことでしょう。
正直、リオン同士で戦いたいとは思いません……。
それでも、簡単に死ぬ気はないので、がんばって生きたいと思います。
★
フィーニーズ。治療院。
「え?」
「お?」
盗賊退治から戻ってきてすぐ、黒斗はソハルに治療院へと連れてこられていた。
サリーとケインは、ギルドマスターへの報告を担当だ。
そこで、黒斗はその男と出会った。
髪をポンパドール――リーゼントの方が通りが良いが正式名称はこっちだ――にし、地球製だと思われる黒いレザーの上下を着た男が、治療院にいたのだ。
レザーの上から白衣を着ることで、一応は医者であることを主張しているようである。
「大崎さん?」
白衣を除けば、その姿はまさに高堂院巧。
仮面闘士ゲーマリオンの作中で、ゲーマリオンとユーザリオンの前に立ちはだかるダークリオン――クリエイテリオンの変身者だ。
だからこそ、黒斗はその演者の名を呼んだのだが――彼は首を横に振った。
「違うと言ったはずだが?」
その物言いで、彼が僧侶のウィルサーカーの時のクリエイテリオンの変身者であると分かった。
だからこそ、ますます混乱する。
「いや、でも……えっと……」
「言いたいことは分かる。だが、オレだって君に対して同じ想いを抱いているんだ」
彼の方も困ったように言葉を探し出す。
その様子を見ていたソハルは、手を叩いて自分へと意識を向けさせると、ニッコリと笑った。
「二人の間に何か事情があるのは分かりました。
だけど、それは怪我の手当よりも優先するべきコトなんですか?」
ソハルの言葉に、彼は少しキョトンとした顔を見せるが、やがて笑ってうなずく。
「違いない。
今のオレは雇われの治療師だ。まずは仕事をしてからだな」
爽やかで気の良い笑顔を見せると、彼は黒斗の肩を叩いた。
「さ、入ってくれ。診察室に行こう」
「あの……えっと……」
「互いの色々は一度脇に置こうぜ。とりあえずオレのコトは巧と呼んでくれ。オレは君を何と呼べばいい?」
「……じゃあ、黒斗で」
「了解だ。ともあれよろしく頼むよ、黒斗」
「これでよし、っと。
応急処置の治癒術は的確だったみたいだし、傷の大半は出血のわりには大したコトはない。打撲も軽いようだ。すぐに治るよ」
「ありがとうございます」
「いいさ。これが今の仕事だからな」
傷口に薬を塗られ、ガーゼのようなものを張られて手当は終了のようだ。
「そういえば……飲んだり、掛けたりするだけで傷が塞がる薬とは使わないの?」
「ん? ああ、ありゃあ旅人の必需品だが、アホかと叫びたくなるほど高いんだよ」
巧の答えに黒斗は瞬き、視線をソハルへと向ける。
「サリーは、そんな高価なモノを?」
「確かに高いけど……サリーが使ったタイミングは適切よ。
あの時……クロトの変身でグランオークが倒せなかった場合、次はまたサリーが戦わないといけない状況だったのだもの。動けるようになるのは最優先よ」
黒斗とソハルのやりとりに、巧はうなずいた。
「グランオークが相手か。なら、適切だな。勿体ぶってやられちまった方が勿体ない。命あってのモノダネだ。な?」
「ええ」
巧の言葉に、ソハルもうなずくので、そういうもののようだ。
「この怪我はそのグランオークからか?」
「いや、グランオークには苦戦しなかったんだけど」
「……けど?」
「昨日――裕樹と……ゲーマリオンとクリティカルアタックをぶつけあっちゃって」
「なんだとッ!?」
思わず――といった様子で、巧が声を上げて立ち上がる。
驚いた様子で見上げる黒斗やソハルを見て、彼は後頭を掻きながらイスに座り直した。
「すまん」
ふーっと息を吐いてから、巧は黒斗を見た。
「ゲーマリオンはお前の知り合いなんだな?」
「はい」
黒斗がうなずくと、巧は難しい顔をして目を伏せる。
しばらくそうして考えていてから、真面目な表情のまま顔を上げた。
「オレは、黒斗の知り合いの大崎という人物にそっくりなんだったな?」
「そっくりと言うか……何と言うか……」
その顔に気圧されて少ししどろもどろになってしまうが、黒斗は気を取り直すように息を吐く。
「大崎陽助さん。職業は俳優です。
特撮ドラマ『仮面闘士ゲーマリオン』では、高堂院巧を演じています」
「特撮ドラマ……? 君たちにとって、仮面闘士リオンは創作上の存在なのか?」
「ええ、そうですけど……」
奇妙な反応をする巧に、黒斗は訝しむ。
「……正直、オレ自身も戸惑いがあるが……一つだけ分かったコトがある」
本人の言う通り戸惑っているのだろう。
ちらりと、ソハルに視線を向けた。
その視線の意味に、ソハルは理解できたのか、一つうなずく。
「クロトが異世界から迷い込んできたという話は知ってます。
その上で、席を外した方がいいなら、外しますよ?」
「いや、それを知っているのなら、聞いてくれても問題はない」
巧は何度目かの息を吐いて、そう言うと後頭を掻いた。
「分かったコトってのはシンプルだ。だが、理解は得難い。オレ自身もそうだ。だが、答えが明確に出ているコトでもある。理解し難いだけでな」
言葉が遠回りしているのは、彼自身もまた自身の答えに理解が追いついていないのかもしれない。
「……オレと君。どちらも地球出身だが、同じ地球ではない。
オレの住んでいた地球では、仮面闘士リオンは実在する闘士だ」
巧の言葉がすぐには理解できず、黒斗は彼を見つめ返すしかできない。
ソハルも判断に困ったのか、口を出す様子はなかった。
そのまま、わずかに沈黙だけの時間が流れる。
そんな沈黙の時間を破ったのは、外から聞こえてくる鐘の音だった。
「昼の鐘? そうか、もうそんな時間か」
ふーっと、息を吐いて巧は立ち上がる。
診察室の扉を開けて、周囲を見渡すと、大きく伸びをした。
「午前の患者はもういないようだし、黒斗にソハルちゃんだっけ?
一緒にお昼でもどうだい? 困惑はあっても腹減る。腹が減っては頭も動かない。同じ悩むでもメシを食ってから悩んだ方が建設的ってもんさ」
筆者の別作品
『異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者の憂鬱』の書籍版の2巻が9/7に出ます。
書籍版タイトルは『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』です。
http://legendnovels.jp/series/?c=1000017315#9784065163993
よろしかったらこちらもよろしく٩( 'ω' )و




