015 同じ異世界-けしき-の中で
「時短助槍ハエーナランサー」
ユーザリオンがバックルを撫でると、グランオークの時に使った剣を思わせる、装飾過多な長細い棒が現れた。
それを見て、ゲーマリオンがうめく。
「ズリィな。おれはクリアセイバーを召喚できないってのに」
「たぶん、原作イベントを再現する必要があるのかもね」
「……そういうコトかよ。ますますズリィな」
サリーは二人の会話の意味を完全には理解できなかった。
だが、ユーザリオンがオークを倒す時に使っていた武器がクリアセイバーだったことを思えば想像することはできる。
あの二人が演じていたお芝居の中で、ユーザリオンがクリアセイバーをゲーマリオンに譲渡するような出来事があるのだろう。
「まぁいいや。剣がなくても、ガチャプセルさえあればよォッ!」
両手にダガーを携えたゲーマリオンが、ユーザリオンに躍り掛かる。
それを見据えながら、ユーザリオンは手元の装飾棒についているプレートのようなものを撫でる。
『翔るぜランナー! 助けるツール! ランスピーディー!』
ユーザリオンの撫でた棒が声を上げると、棒の周囲に線が描かれ円錐状の刃が作り出された。
サイズこそ小さいが、間違いなくそれは馬上槍と呼ばれる武器だ。
飛びかかってくるゲーマリオンに向かって、ユーザリオンはハエーナランサーというその槍を剣ように横薙ぎに振るった。
ダガーをクロスさせてそれを受け止めたゲーマリオンはその反動を利用してバク転をしながら間合いを離す。
ユーザリオンはそんなゲーマリオンを追いかけながら、槍を構える。
「光武技! 閃槍烈千破ッ!」
光り輝く槍を、ユーザリオンは突き出す。
突き出された槍とともに光は無数に分裂し、技名の如く無数の刃となってゲーマリオンに襲いかかる。
それに対し、ゲーマリオンは着地しながら正面を見据え、告げる。
「光武技! シャドウ・デコイッ!」
瞬間、ゲーマリオンの姿が陽炎のように揺らめき、その姿が複数に増えた。
ユーザリオンの光の槍はその全てを貫き尽くすものの、貫かれたゲーマリオンの全ては霞のように消え失せる。
直後、いつの間にかユーザリオンの背後に回っていた。
ゲーマリオンが左右のダガーを逆手に構え、ユーザリオンの背後から強襲する。
「光武技! ビーストクロウ・ツインズッ!」
一太刀振るえば、まるで獣の爪で引き裂いたかのように複数の傷を作り出すダガーの技。
ゲーマリオンはそれを両手から同時に繰り出す。
だが、ユーザリオンはまるでそれを分かっていたかのように、その呪文を口にする。
「光魔術……真・防護強化」
防御力を高める呪文と共にユーザリオンは振り返り、槍を横向きに構えてゲーマリオンからの攻撃を受け止めた。
「ぐぅ……ッ!」
「クカカカッ! やるじゃん、クロッ!!」
受け止めた姿勢から、ユーザリオンが槍を振るって、ゲーマリオンを追い払う。
ゲーマリオンはその衝撃を利用して、大きく間合いを離した。
その光景を見ながら、ケインは思わず苦笑する。
「上級光武技に、上級光魔術の応酬とか」
「あれだけのコトやっても、まだユーザリオンは変身に使われてる状態ってやつなのかな……?」
以前、クリエイテリオンはユーザリオンを変身に使われていると称していた。
そんなユーザリオンと互角ということは、ゲーマリオンもまだ使われている状態なのだろうか。
「あの二人……何なんだよ……」
「何と言われると、説明が難しいわね」
リオン同士の戦いに呆然としている盗賊の頭に、ソハルはどう説明して良いか分からずに頭を抱える。
ややして、別に盗賊団相手に説明する必要がないと思い返して、それ以上は答えないようにした。
「クカカカ……リオン同士にヒーローバトルってやつは、悪くねぇな。楽しいぜッ!」
「俺は全然楽しくないけどッ!」
お互いの性格がにじみ出るような言葉を交わしあい、二人は自分のベルトのバックルに手を伸ばす。
「そうは言っても気は合いそうだぜ?」
「まぁね。長引かせる気がないのはお互い様みたいだ」
何が起きるが予想できたサリーたち三人は、即座に声を上げた。
「みんな二人から離れてッ!」
「大技がぶつかり合うぞッ!」
「死にたくないなら離れなさいッ!」
そして、二人のバックルが声を上げる。
『槍僧侶! クリティカルタ~イムフィニッシュ!!』
『短剣盗賊! クリティカルクリア~フィニッシュ!!』
ユーザリオンの槍が白く光り輝く。
ゲーマリオンのダガーが黒く光り輝く。
「ライトドラゴンデモニッションッッ!」
「カオスデーモンソニックファングッッ!」
二人が同時に必殺技を繰り出す。
ユーザリオンが槍を突き出すと、槍の纏っていた光が龍と化して、ゲーマリオンに向かって空を駆け、彼を飲み込まんと顎を開く。
ゲーマリオンは右手を逆袈裟に切り上げると、そこに黒い衝撃波が生まれる。それに左手での逆袈裟を重ねてXの字を作り出す。
続けて両手のダガーを順手に持ち直し両手を交差させてから、左右に開くように振り抜いた。
Xに横一文字が足され巨大化した黒い衝撃波は、地面を削り取りながらユーザリオンへと向かって駆ける。
白い竜と化した光魔と黒い衝撃波と化した光魔とかぶつかりあい、激しい爆発と衝撃波をまき散らす。
離れていたサリーたちは、自分らに襲いかかる衝撃と爆風に顔を覆う。
警告を無視してリオンたちから距離を取らなかった盗賊たちは、その衝撃と風に耐えきれずに吹き飛ばされた。
近くに生えていた枯れ木は折れ、近くにあった廃屋は倒壊しないまでも、入り口周辺が崩れてしまう。
二人の技は熱も伴っていたのだろうか。
彼らの足下の雑草――その全てとは言わないが、三割ほどに火がついて燃えていた。
そんな激しく周囲へ影響を及ぼす大技による力比べは、わずかにゲーマリオンが上回る。
白い竜は消滅したものの黒い衝撃波は欠片が残り、それが技後の残心で硬直しているユーザリオンに直撃。
ユーザリオンは全身から火花を散らしながら吹き飛んだ。
「クロトッ!」
思わずサリーが叫ぶ。
地面を転がるユーザリオンは、止まった先で仰向けで僅かにもがいたあと、強制的に変身が解除された。
同時に、バックルにセットされていた闘士と僧侶のガチャプセルも、乱暴に排出されて、地面を転がる。
転がった僧侶のガチャプセルをふらふらのゲーマリオンが拾い上げた。
疲労なのかダメージがあるのか。
変身こそ解除されていないものの、よろめくゲーマリオンに、サリーは剣を構えて駆けていく。
「それはクロトのモノだよッ、返してッ!!」
「悪いな。今この瞬間からはおれのモンだ」
ゲーマリオンはサリーの斬撃を左手のダガーでいなし、回し蹴りを繰り出す。
サリーはその蹴りを咄嗟に剣の腹で受け止めるも、近くの木まで吹き飛ばされた。
「待ってッ!」
彼女の制止の声を無視して、ゲーマリオンは近くの廃屋の屋根の上へと跳び乗る。
それから振り返って、変身を解除した。
身長が少し小さくなり、生意気そうな――だがかなり顔のいい短髪の少年の姿を見せる。
その両手には盗賊と僧侶のガチャプセルが一つずつ握られていた。
これ見よがしにその二つを見せつけたあとで、嫌みったらしい笑顔を見せながら告げる。
「じゃあな、クロ。
僧侶と盗賊は、これでおれのモンだ」
「待って……ッ、裕樹……ッ!」
痛みを堪えながら、クロトが立ち上がって叫びながら手を伸ばす。
当然、その手はヒロキには届かない。
だが――
「下級竜巻術ッ!」
その手が届くように、ソハルは広範囲に強風を巻き起こす光魔術を唱える。
本来は対象を中心に無作為に吹き荒ぶ風を起こすはずのその術が、まるで意志を持ったかのように、ヒロキを襲う。
「なッ……!」
ヒロキがクロトに見せたちょっとした余裕を、二人の冒険者が見逃さなかったのだ。
「閃刃翔凰駆ッ!」
バランスを崩すヒロキの足下へ向けて、ケインが光武技を繰り出した。
剣に籠められた光魔が鳥となり、突き出された剣先から勢いよく飛び立つ。
ケインの放った鳥がヒロキの足下の屋根を砕く。
咄嗟にヒロキはその場から動いてはいたものの、両手のガシャプセルがソハルの操る風にさらわれた。
「しまった……ッ!」
手を伸ばしてそれを回収しようとするが、すぐさまサリーが使い慣れている技を繰り出す。
「翔空刃ッ!」
光魔を込めた剣を振り抜き、その斬撃による剣圧を放つシンプルな技。
先ほどゲーマリオンが使ったクリティカルアタックの基本にもなっている攻撃だ。
ヒロキはその状態で逡巡する。
このまま手を伸ばせばガシャプセルはキャッチできるだろうが、キャッチした場合は翔空刃が直撃する。
それがわからないほど、ヒロキはバカではないのだろう。
舌打ちしながら、飛び退いた。
風に乗って落ちてくるガシャプセルを二つともソハルはキャッチして、ヒロキに向けて挑発的な笑顔みせる。
「自分とクロト以外は有象無象とでも思ってたのかしら?」
「変身はすげースキルだと思うぜ。だけど、油断しすぎだ」
肩に剣を乗せるようにしながら、ケインも笑った。
「だいぶ消耗してるみたいだけど……もう一度変身してあたしたちと戦う体力はあるのかな?」
サリーが剣先を向けてヒロキに問うと、彼は不機嫌さを隠さず表情に出す。
「いいぜ……そのガチャプセル。しばらくはクロとその愉快な仲間たちに預けておく」
ヒロキは吐き捨てるようにそう告げると、サリーたちとは反対側へと飛び降りて姿を消した。
ケインが素早く動き、彼を追いかけるように建物の裏側へと走って行く。
ややして建物の裏から戻ってくるケインはサリーとソハルを見て肩を竦めた。どうやらヒロキの姿はもうなかったようだ。
そんな彼を横目に、サリーはクロトへと向き直って不安そうに訊ねる。
「クロト、大丈夫」
「なんとか」
サリーの言葉にクロトは笑って見せるが、口の端やこめかみが切れて血が流れていた。
服なども煤けており、変身の上から受けたダメージが一定以上になると、身につけている衣服や肉体にも損傷を与えるのだろう。
「あんまり、大丈夫に見えないけど……。ソハル!」
無理して笑っているようなクロトに不安を覚え、サリーはソハルを手招きする。
それにうなずき、ソハルはサリーにガチャプセルを渡すと、クロトに向かって手を掲げた。
「今、治癒の光魔術をかけるわ」
「ありがとう、ソハル」
「下級治癒術」
ケインもこちらに合流し、四人が今の出来事について話をしようとした時、そこへ割り込む声があった。
「な、なぁ」
盗賊のお頭だ。
少しばかり申し訳なさそうにしながら、おずおずと訊ねてくる。
「結構な人数の手下どもが怪我しちまっててな。状況が終了したって言うんならよ。俺たちはここを離れてもいいか?」
思わず「いいよ」と答えかけて、サリーが口を噤む。
クロトやケインも同じような顔をしてたので、きっとサリーと同じように許可を出そうとしてしまったのだろう。
そんな三人にやや呆れつつ、ソハルは凄みある笑顔で、お頭に答えた。
「いいわけないでしょう?
トンデモバトルがあったから対応したけれど、私たちの本来の目的はあなた方の捕縛か殲滅なのよ?」
言外に殲滅がお好みかしら――とソハルが告げれば、盗賊たちは観念したように白旗をあげるのだった。
そんな様子を横目に、クロトは空を見上げている。
「同じように異世界へ迷い込んだのに……戦うしかないのかな……」
小さく呟かれた言葉がサリーの耳に届く。
けれど、サリーはそれに応えられる言葉を持ってはいなかった。
次回もまたニチアサヒーロータイムのあとに更新予定です。
<NEXT Level――
「ゲーマリオンはお前の知り合いなんだな?」
「このガチャプセルはおれが頂いてくぜッ!」
「クリエイテリオンッ! この状況を切り抜けるには――ッ!」
「……どうした? 使わないのか?」
「力を貸してくれッ! 高き者のガチャプセルッ! シークレットクラスチェンジッ!」
――迷子の迷子の特撮ヒーロー
『Lv4.Scramble! ガチャプセルは誰のもの??』>
次の対戦相手は、君だ!
☆
この番組は、ご覧のサポーターの皆さんによって支えられております
支 援
嫁さん
読んで下さった皆さん
ブクマしてくれている皆さん
評価をくれた皆さん
感想をくれた皆さん
☆




