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014 回り出した運命?


 黒斗たちが、クリーヴァ盗賊団のアジトにたどり着くと、そこの中心では二つの異形がぶつかり合っていた。


「ゲーマリオン……ッ!」

「お芝居の中だとクロトの後輩なんだっけ?」

「そう。そして、主人公だ。物語の中の悪役を倒す勇者みたいなもんかな」


 そう説明した直後、ゲーマリオンが声高々に叫ぶ。


「クカカカカカカカッ! どうしたッ? おらおらおらッ! 盗賊の術技(スキル)ってやつを見せてみろよッ!!」


 その様子を指さしながら、サリーがうめくように訊ねてくる。


「勇者?」

「物語の中だとね」


 黒斗は思わず肩を竦めた。


「お、おい……ッ!」


 そんなやりとりをしていると、大柄で強面のいかにも盗賊団のお頭ですというような男が声を掛けてくる。


「助けてくれよッ! 俺の部下が急に化けモンになってッ、そしたらあの変な野郎がやってきて……ッ!」


 アジトは見るも無惨に破壊されている。

 恐らくはいくつか簡易的な建物も建っていたのだろうが、どれも倒壊しているようだ。


 一応、一番丈夫そうな建物は無事だ。

 ……いや、入り口らしきものが酷い壊れ方をしているので、無事かどうかと言えば微妙だが。


「サリー、ケイン、ソハル。

 盗賊たちをお願い。あと、周囲からモンスターが集まってきた場合の対処も」

「行くの?」

「あそこに割ってはいるのは、さすがに俺にしか出来ないだろ?」


 本当は嫌で嫌でたまらない。

 ヒーローのチカラを手に入れたヤンキーと、怪人の戦いに割って入るなど正気とは思えない。


 それでも――


 例え悪党であったとしても、

 本気で仲間を心配して、

 助けを求めてきた人がいるから――


(……冠城(カブラギ)裕樹(ヒロキ)の二重人格説――マジだったんなら、ブラックヤンキーの方じゃなくてホワイトナイトの方と会いたかった……)


 TVなどでは爽やかで礼儀正しい姿。

 一部のラジオや、ファンイベントなどでは口の悪いヤンキーっぽい姿。

 そんな様子からそっくりの双子か二重人格か……などとまことしやかに噂されているイケメン若手俳優が、冠城 裕樹だ。


 実際、共演している黒斗としてもホワイトナイトと称される礼儀正しい方としか接していないので、ブラックヤンキーについては詳しくないのだが。


 あのゲーマリオンが、ゲーマリオンの変身者児守(コモリ)明日真(アスマ)役の冠城 裕樹であるかどうかは定かではない。


 クリエイテリオンのように、中身は別人の可能性もある。

 ただ何となく、裕樹な気がするというだけだ。


(ま、割って入ってみるしかないよな)


 ゲーミングベルターを取り出し、腰に当てる。

 ベルト部分がワイヤーフレームのような線として出現してから実体化。


(この急に締まる感じ、慣れないなぁ……)


 呑気なことを考えながらも、闘士のガチャプセルを取り出した。


「あン?」


 ゲーマリオンがこちらに気づく。


「おいおいおいおいッ! クロじゃねぇかッ! アンタもこの世界に迷い込んでたんだなッ!」


 どうやら、ゲーマリオンは冠城裕樹本人のようだ。

 できればカンは外れていてほしかったのだが――


「ブラックヤンキー……噂は本当だったのか」

「ま、そういうコトにしとけ」


 肩を竦めるゲーマリオンに、黒斗は小さく嘆息しながら、ガチャプセルのフタを開いて内側を撫でた。


『ガッチャーン』


「お? やっぱクロもか?」

「まぁね」


 盗賊のウィルサーカーを蹴飛ばしながら訊ねてくるゲーマリオンに返事をしながら、黒斗はガチャプセルをベルターにセットした。


『仮面の闘士ッ! 高まる闘士ッ! クラスは闘士ッ! アーユー・レディ?』


 ベルトの音声に応えるように、黒斗はバックルのスイッチを押し込む。


「変身」

『ゲットレディ』


 光に包まれる黒斗がユーザリオンの姿へと変身する。


『ユーアー・マスカレイドユーザー!』


 ユーザリオンはウィルサーカーへと伸ばした人差し指と中指を真っ直ぐ向けた。


「今日の対戦相手は、お前だな?」


 それに対して、意外なところから否定の声があがる。


「それはちょいと違うぜ?」

「どういうコトだ?」


 ユーザリオンは訝しむと、ゲーマリオンはウィルサーカーを思い切り殴りつけてから、ゲーミングベルターのバックルに触れた。


『クリティカルクリア~アタック!』


 彼のバックルが叫ぶような音声を上げる。

 同時に、ゲーマリオンの右足が輝きを放った。


 殴られて地面に転がるウィルサーカーが、近くの瓦礫を支えに立ち上がる。

 だが、もう手遅れだった。


 ゲーマリオンは地面を蹴って飛び上がり、光り輝く右足をウィルサーカーへと向ける。


「クリティカルスラッシュダウンスピアーッ!!」


 闇を切り裂くような眩い軌跡を伴って、投擲された槍のように足を突き出したゲーマリオンが、ウィルサーカーへ向かっていく。


 その右足はウィルサーカーを捉え、そのまま地面に押しつけるように滑っていった。

 やがて滑りきり止まった時、大きくバク転するようにゲーマリオンが飛び上がると、ウィルサーカーが爆発する。


 その爆発の中から、ガチャプセルが飛び出してくるのを見つけると、ゲーマリオンはそれをキャッチ。

 それをユーザリオンに見せつけるようにしてから、笑うように告げる。


「クロ。いやユーザリオン。

 今日の対戦相手は……おれだよ」

「……どういう意味だ?」

「トボケちゃって。アンタも知ってんだろ? おれたちが帰るには、十個のガチャプセルが必要ってよ。だから、ここに来たんじゃねぇの?」

「…………」


 裕樹の問いに、黒斗は敢えて沈黙した。

 初めて知ったことだが、敢えて黙ることで何か教えてもらえないかと思ったのだ。


 本来は言葉の駆け引きはあまり得意ではない。

 だが、情報は必要なのだ。些細なことでも聞いておきたい。


 しかしいつまでも沈黙しているのも不自然だろう。

 敢えて話を少しズラすように質問を口にする。


「ゲーマリオン。いくつ集めた?」

「これが最初の一個……って言ったら信じてくれるっスか?」


 わざとらしい敬語で問い返してくる。


 もちろん信じるわけがない。

 だが、ここで何かを口にする必要はない。


 個人的に言えば、黒斗は裕樹と戦いたくはない。

 だが、今の裕樹の言動を考えれば、戦いは避けれないのかもしれない。


 だけど、それでも――


「そういえば、実は詳細を知らないんだ」

「何が?」

「地球に帰る場合の話だ。十個集めればみんなで帰れるのか……それとも――」

「ああ、そこを知らないなら確かに重要な話だよな。答えはノー。集めた奴だけだ」


 仮面の下で、黒斗は深く深く嘆息する。

 躊躇いしか無いが、逃げられそうもない。


「そんなワケで、今日の対戦相手はおれ。

 ああ、もち――手持ちの闘士以外のガチャプセルくれるなら、見逃しますけど?」

「…………」

「そんなワケで……」


 ゲーマリオンが盗賊のガチャプセルを開いて撫でる。


『ガッチャーン!』

「さっそく使うとするぜ」


 バックルの左側のカバーを開き、そこに開いた盗賊のガチャプセルをセットして、カバーを閉めた。


『ガチャッとチェンジ? アーユー・チェンジ?』

「クラスチェンジ!」

『ゲットレディ!』


 ゲーミングベルターからの問いに、頭頂部のスイッチを押すことで答えたゲーマリオンが、光に包まれる。

 中から現れたのは、フルフェイスの上にバンダナのような意匠が追加され、無骨な毛皮のチョッキのようなものを身に纏ったゲーマリオンだ。


『変わる変わるぜクラスが変わる! 盗めッ、(かわ)せッ、生き残れッ! ユーアー・マスカレイドゲーマー! 盗賊(シーフ)スタイル!』


「問題なく使えるみてぇだな」


 満足そうなゲーマリオンに、黒斗はダメもとで訊ねてる。


「裕樹はどうしてもやる気?」

「眠てぇコト言うなよ、クロ。おれには帰る以外の選択をする気はねぇからさ」


 説得は無理そうだ。

 それまでと同じような悪ぶった口調だが、今の言葉には確固たる信念のようなものを感じた。


 この世界で何がしたいのか。どうしたいのか。

 帰りたいのか。帰りたくないのか。

 帰りたいなら彼のように他人を蹴落としてでも帰りたいのか。


 自分の気持ちがハッキリしないものの、ここで僧侶のガチャプセルを奪われるのだけは嫌だと、そう思った。

 少なくとも、先日助けてくれたクリエイテリオンと対等に話をできるくらいには強くなりたいと、そう思ったのだ。


 だから、黒斗も僧侶のガチャプセルを取り出した。


「今、俺が持ってるのはこれだけだ」


 カプセルを開き、内側を撫でる。


『ガッチャーン』


「やる気になってくれたってコトで?」

「未だに迷いはあるよ。だけど、簡単にやられたくもないって思った」


 バックル左側のカバーを開き、僧侶のガチャプセルをセットしてカバーを閉じる。


『ガチャッとチェンジ? アーユー・チェンジ?』

「クラスチェンジ!」


 惑いも迷いも飲み込んで、黒斗はバックル頭頂部のスイッチを押し込む。


『ゲットレディ!』


 そして――ユーザリオンも光に包まれた。


『変わる変わるぜクラスが変わる! 癒せッ、護れ、手を伸ばせッ! ユーアー・マスカレイドユーザー! 僧侶(プリースト)スタイルッ!』


 そして、光の中からは女神教のシンボルマークが描かれた青い貫頭衣と同デザインの帽子のような意匠を頭部に付けたユーザリオンが姿を見せる。


 僧侶の姿となったユーザリオンは、左手の人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばして、ゲーマリオンに向けて告げる。


「気は乗らないけど仕方ない……。

 ゲーマリオン、今日の対戦相手はお前だッ!」

「そうこなくっちゃなッ!!」


 こうして、この世界で初めてのリオン同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

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