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010 この星の下で 行くべき道を


「クリエイテリオン……? 大崎さんもここへ?」

「オレの本名は大崎じゃない。

 ……オレにとってお前が別人であるように、お前にとってもオレは別人か」

「……え?」


 話はここまでだとでも言うように、クリエイテリオンは正面へと向き直った。


「治癒術は厄介だ……だが、厄介なだけだ」


 ターウスが鏡付きの杖を構える。

 それに対して、クリエイテリオンは不敵に笑った。


「さぁ、オレの記録(レコード)に刻まれろ」 


 クリエイテリオンは自身のゲーミングベルターのタッチパネルに触れる。


「いくぞッ!」


 バックルのタッチパネルから引き抜いて取り出したのは、操銃(ソウジュウ)投刃(トウジン)コントソーサー。

 ゲームのコントローラーパッドがモチーフの曲刃(シミター)だ。


 本来のゲームパッドと違って、左右対象のシルエットはしていない。

 この剣は、持ち手側が握りやすい小ささで反対側は刃がついている為、大きくなっている。


 ターウスによって振り下ろされる杖を躱し、クリエイテリオンがコントソーサーで横薙ぎを放つ。


 切り裂かれ火花を散らしながらたたらを踏む相手に、押し込むような蹴りでダメ押しする。


 吹き飛び地面を転がるターウスを見ながら、クリエイテリオンはコントソーサーの鍔元に付いているボタンへと手を伸ばす。

 彼が自分の胸のマークと同じ、Xの描かれた大きめのボタンを押すと、コントソーサーから音声が流れた。


《ガンガンッ! 操作ッ! 銃を操作ッ! ガンスタイルッ!》


 音声と共に、弾鉄(ひきがね)が現れる。

 クリエイテリオンはそこに人差し指を掛け、その剣先を、地面で転がるターウスへと向けた。


「そらッ、そらッ、そらッ、そらッ!」


 その弾鉄(ひきがね)を引く度に、剣の切っ先から光弾が発射されて、ターウスに突き刺さる。


「どんなすごい光魔術(キャスト)が使えても、そいつを唱えるには、ある程度は集中して光魔(クラル)を束ねる必要があるよな?」


 喋りながらも、弾鉄(ひきがね)を引くのをやめることはない。


「この状況で、治癒術の準備が出来るかな?」


 挑発に乗ったのか、ターウスは弾幕の中でも何とか立ち上がり、クリエイテリオンを睨み付ける。


 ターウスは飛んでくる光弾を、手にした杖で強引に弾きながら、地面を蹴った。


「おいおい。ソロの僧侶なら、その選択肢は悪手だろ」


 ある程度の距離まで近づかれたところで、クリエイテリオンは再びコントソーサーのボタンを押して、曲刃(シミター)モードに切り替える。


《そうさッ、操作ッ! 自由に操作ッ! ソーサースタイル!》


 連続突きの全てを紙一重で躱し、一瞬の隙をついてコントソーサーを振り抜く。


「銃弾を払い飛ばせるなら、そのまま下がって防護強化(ハーディネス)みたいなバフを使えば良かっただろうに」


 クリエイテリオンの攻撃は、その一閃だけでは終わらない。

 まるで戦い方を教授するような言葉を口にしがら、四連続で斬り付ける。


 最後の斬撃のあと、コントソーサーを握ったまま右手を腰の左側付近に置き、膝を曲げ腰を落とした。


「おらァッ!」


 軽く溜た後、勢いよく逆袈裟に斬り上げる。

 ターウスは激しい火花を散らし、錐揉みしながら吹き飛んだ。


 クリエイテリオンは、そのままソーサーを持った右手を右肩に置くように刀身を肩越しに持ち、左手を前に出して、軽く腰を落として構えた。


 何が来ても良いように待ち構えるクリエイテリオンを前に、ターウスはよろよろと立ち上がる。

 そして、こちらを一瞥してから背を向けた。


「その動きも悪手だな。

 この武器が、何で操銃(ソウジュウ)投刃(トウジン)って言うのか、考えなかったのか?」


 左手でバックルのタッチパネルを撫でた後で上部のボタンを押し込み、その左手は再びターウスに向けて真っ直ぐ伸ばす。


「それはな――」


 膝を曲げて腰を落とし、全身にチカラを込めたところで、バックルから音声が鳴り響く。


《クリティカルハ~イスコアアタック!》


 瞬間、コントソーサーの刀身が、灼光(しゃっこう)に包まれ輝き出した。


「こいつの正体が……投擲(とうてき)剣だからだよッ!」


 それを、クリエイテリオンは渾身のチカラを込めて投げ放つ。


 クリエイテリオンの手を離れたコントソーサーは光輪となり地面を焼き削りながら、逃げるターウスを追いかける。

 そして、彼自身もまた投げたままでは終わらずに、自身も地面を駆けていく。


「逃げきるには、素早さが足りないみたいだぞ」


 彼がそう告げるなり、コントソーサーがターウスを背後から縦一文字に焼き斬り、跳ね返った。


 跳ね返ってくるコントソーサーをキャッチすると、力強く踏み込みながら――


「カラミティ・クリティカル・クロッシャー……ッ!」


 ターウスの横を払い抜け、横一文字に斬り裂いた。


 燃え上がる十字の斬光がしばらくターウスの体表に残り、やがて――


「オレの……勝ちだッ!」


 小さく拳を握りながら呟かれたクリエイテリオンの言葉と共に、ターウスは爆炎に包まれた。



     ☆



 爆発が収まると、ターウスと思われる男が裸のままうつ伏せに倒れていた。全身のあちこちが傷つき、煤けてるが、見た限りでは生きているようだ。


 その横には砕けた手鏡のようなものと、青と白の二色をベースに、黄色で描かれた女神教のシンボルマークがワンポイントで入っているガチャプセルが落ちている。


 クリエイテリオンはうつ伏せの男の横に落ちているガチャプセルを拾い上げると、黒斗へと視線を向けてきた。


「ユーザリオン。お前、今は何のガチャプセルを持っている?」

「えっと、闘士だけ、かな」


 急に問われ、やや慌てながら黒斗が答えると、クリエイテリオンはふむ――と小さく声を漏らして、思案する。


 ややして、


「受け取れ」

「え? え?」


 クリエイテリオンは僧侶のガチャプセルをこちらへと放り投げてきたので、黒斗が慌ててそれを受け止めた。


「今のお前には必要だろう。オレの手元には『遊び人』と『猛獣使い』のガチャプセルが既にある」

「『猛獣使い』はともかく、『遊び人』って役に立つの?」

「さぁな」


 大袈裟に肩を竦めたあとで、クリエイテリオンは(きびす)を返した。


「あ、あの……」


 それを見て、黒斗は慌てて呼び止めると、クリエイテリオンは一度足を止めた。

 首だけ黒斗に向けて、彼は告げる。


「変身に使われるな。変身を使いこなせ。オレと話がしたいなら、それからだ」


 一方的にそう言うと、クリエイテリオンは肩越しに左手で挨拶をして、その場から去っていった。

 クリエイテリオンの姿が見えなくなると、黒斗は小さく息を吐き、ゲーミングベルターのガチャプセルを固定しているのカバーに触れる。


 その時だ――


「ストップ」

「サリー?」

「変身の解除しちゃダメだよ」

「あー……」


 言われて、ギャラリーが周囲にいることを思い出した。


「ユーザリオン。もうターウスは大丈夫そうか?」

「はい。早く手当てをしてあげてください」

「おう」


 ギルドマスターに問われ返事をすると、彼は責任者らしくテキパキと周囲のギャラリーに指示を飛ばし出した。


 何ともなしにそれを眺めていると、サリーが上目使いでこちらの顔を見ながら訊ねてくる。


「クロト、大丈夫?」

「痛いは痛いけどね。でも、大丈夫」

「強がりじゃない?」

「……ちょっと強がり入ってるけどね。変身してる間は、強がってないと、なんか落ち着かない」

「なにそれ」


 小さく笑うサリーの姿を見、黒斗は小さく嘆息した。

 わりと本心なのだが、サリーには冗談に聞こえたのかもしれない。


 今回、クリエイテリオンに助けて貰えなければ少し危なかっただろう。

 だけど、来なければ来ないで、死ぬ気で攻略方法を模索していたのは間違いない。


 少なくとも、ユーザリオンに変身している間だけでも、かつての自分の憧れを汚さないように立ち回りたいと、そう思う。


「カッコ悪いところ見せちゃったね」

「さすがに、超級治癒光術(ルオノアル)は想定できなかっただろうし、仕方ないって」

「そう、だね」


 相手が僧侶という時点で、オタク知識的には回復能力を持っていることを想定しておくべきだった――黒斗は内心でそう反省する。

 だが、戦ってる時は、そういうことを考えている余裕が無くなっていたのも確かだ。


「変身に使われるな。変身を使いこなせ……か」

「あいつの言ったコト、気になるの?」

「まぁね。変身能力者としては先輩みたいだし。それに――」

「それに?」

「戦いに慣れてなさすぎるんだ、俺は。

 だからどれだけの強さを手に入れても、根本的なところで、この世界の人には勝てないところがあるんだと思う」


 何かを守る為にはきっと、単純なチカラだけではダメなのだろう。


 しばらく天を仰いでた黒斗だったが、ややして意を決したようにサリーへと告げる。


「もしサリーがイヤじゃなければ……付き合って欲しい」

「……ぅえッ!?」


 何やらサリーが上擦った声を出すのだが、黒斗は気にせずに問いを掛け直す。


「ダメかな?」

「え? あ、うん……いいよ」

「ありがとう。サリーが居れば心強いよ。ギルドの仕事を、一人だけでこなせる気がしなかったから」

「ん?」

「迷惑かけちゃうかもだけど、この世界の常識とか、戦い方とか、色々教えて欲しいんだ。この世界で生きていく為に」

「あー……うん。そうだよね。そういうコトだよね。

 もちろん、教えるよッ! わたしもクロトから教えて貰えそうなコトがいっぱいありそうだしね」


 サリーが拳を握ると、それを黒斗の胸の方へ向けて伸ばしてくる。

 その意味に気づいた黒斗は、自分の拳をサリーの拳に軽く当てた。



 次回もまたニチアサヒーロータイムのあとに更新予定です。



 <NEXT Level――


「クカカカカカカッ! 言ったからなッ、オレをそこらの悪ガキと一緒にすんなってッ! 覚悟はいいな……?」


「未だに迷いはあるよ。だけど、簡単にやられたくもないって思った」


「そのガチャプセル。おれが頂くぜ」


「癒せッ、護れ、手を伸ばせッ! ユーアー・マスカレイドユーザー! 僧侶(プリースト)スタイルッ!」


「ユーザリオン。今日の対戦相手は……おれだよ」


 ――迷子の迷子の特撮ヒーロー

      『Lv3.そのリオン、まさかのDirty?』>


 次の対戦相手は、君だ!




     ☆



この番組は、ご覧のサポーターの皆さんによって支えられております




    支 援



    嫁さん


 読んで下さった皆さん



     ☆

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