001 誰がピンチを救うのか
新連載です。よろしくお願いします。
読んでくれた皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。
要望が多かった短編の連載化となります。
細部を変えてはおりますが、5話くらいまでの流れは読みきり版と同じです。
ファンの皆様へ……
お久しぶりのブログ更新です。吉田黒斗です。
仮面闘士ゲーマリオン。皆さん視聴してくださっているでしょうか?
私は本作の2号闘士ことユーザリオンに変身する氷室龍也を演じさせて頂いておりますゆえ、見てない方には是非見ていただきたく思います。
個人的には普段の自分とはまったく違う、カッコ良くクールな先輩闘士としての姿に、我ながらトキメいている次第です。
物語も序盤の佳境。
ゲーマリオンに変身する後輩ゲーマー児守明日真の葛藤と決意。そして龍也の覚悟と矜持。
二人の闘士の高まりによって、ベーシックフォームは、その先にあるハイクラスフォームへと進化します。ハイクラスフォームのカッコ良さ、堪能していただければと思います。
それはそれとしまして、現在の私の状況をお伝えしたいと思います。
信じていただけないかと存じますが、現在私は異世界におります。
正直、昨晩の記憶があまりないのですが、気が付くと見知らぬ森の中で倒れておりまして――傍らには何故か、ゲーマリオンの作中変身アイテムであるゲーミングベルターが落ちておりました。
どうやら私、吉田黒斗は、このベルトを使って実際にユーザリオンに変身できるようです。
とはいえ、変身用のコレクションアイテム、クラスガチャプセルがないので素直に変身はできないようですけれど。
もっとも、変身できたところで、こんなよくわからない世界でどうやって生きていけというのでしょうか?
どうにか地球に帰れるようにがんばっていきたい所存です。みなさま応援お願いいたします。
☆
ポケットに入っていたスマートフォンで、ブログの記事を書き殴り、更新しようとしてみたものの、通信エラーで更新はうまくいかなかった。
「まぁ、そうだよね」
自嘲気味に独りごち、吉田黒斗はスマートフォンをポケットにしまった。そもそも電波表示が圏外なのだからできるわけがないのだ。
自分でも、ブログの執筆作業が現実逃避だというのは理解している。
周囲の木々に見覚えはない。
別に植物に詳しいわけではないが、少なくとも日本で見かけないような木々や植物が群生しているのは間違いない。
「参ったなぁ……どうしようかなぁ……」
森の中でうだうだしていても仕方がないのは分かっているものの、どうするべきかが分からずに途方に暮れている。このままでは日も暮れてしまいそうで、気持ちは焦るが、何をする気も起きやしない。
手頃な木に寄りかかり、枝葉の隙間から覗く空を見上げる。
無気力なまま途方に暮れていると、そんな黒斗に掛かる少女の声があった。
「どうかしました?」
ぼんやりとした気持ちで声のした方へと視線を向ければ、そこにはびっくりするほどの美少女がいた。
ピーチブロンドと言うのだろうか。
キラキラと輝くような薄紅色の髪を左右の高い位置で結んでいる。
(ツインテール……ではなく、ツーサイドアップだっけか?)
そんなどうでも良いことを考えていると、少女はこちらの目の前で手をヒラヒラしはじめた。
「だいじょうぶですかー?」
「ああ、ごめん。美少女に声を掛けられたものだから、ちょっと見とれてた」
思わず漏れ出た普段なら口にしないような言葉に、やっぱりまだ混乱してるな自分――と、胸中で自嘲する。
彼女の意志の強さを表すような大きな瞳は、黒斗の言葉で限界まで見開かれた。くりくりとしたエメラルド色の瞳と一緒に全身の動きを一瞬止めたあとで、彼女は顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。
「あ、あの……あの……その、嬉しいんですけど、その……ストレートに言われたコトないから、その……」
うにゃーという奇声をあげながら、しどろもどろになる彼女を見て、ようやく黒斗の頭も動き始めた。
「あー……ごめん。勢いで思ったコトを口にしちゃった。混乱させるつもりはなかったんだけど」
「うにゃにゃにゃにゃーッ!?」
ますます少女の顔が赤くなる。
その様子に、黒斗は首を傾げるのだった。
★
黒斗はとりあえず、彼女が落ち着くのを待ってから話掛ける。
「えーっと、とりあえず俺のコトなんだけど」
「あ、はい!」
「大丈夫かどうかと言われると、自分でもよくわからない」
「え?」
何と説明するべきか――と、黒斗は悩む。
バカ正直に異世界から迷い込みましたと口にして、信じてもらえるかどうかという話だ。
彼女を見たことで黒斗はここが完全に異世界であると判断した。
髪の色もそうだが、何より彼女が身につけているものがありえない。
丈夫そうな材質のわからない茶色い長袖のブラウス。これはいい。
同じく材質の分からないフィンガーレスのグローブ。これもいい。
やっぱり丈夫そうで材質の分からない黒い長ズボン。これだって問題ないし、鉄板の仕込まれた頑丈そうな編み上げブーツも問題はない。
ならば何が問題なのか。
それは――彼女の腰のベルトについたホルスターにある棒状のもの。これはどう見ても剣だ。
それを踏まえて彼女の全体を見直すと、格好はファンタジーRPGなどで見る、軽装の女剣士といった風情なのだ。
「なんと説明するべきか……。
昨晩までは、俺はこことは全く違い場所にいたんだ。いまいち記憶はないんだけど、こんな森の中じゃなかった。完全に街中か、自宅だったかって感じなんだけど……目が覚めたら……」
「ここで寝てた?」
コクリ――と、黒斗はうなずく。
彼女は真剣な眼差しで黒斗を見つめながら、下顎に手を当てる。
ややして、彼女は一つうなずくと手を差し出してきた。
「その見慣れない格好……それに旅に向かなそうな靴……信じてもいいかな」
「ありがとう」
差し出された手を取って立ち上がる。
座った状態だと彼女を見上げる形だったものの、立ち上がってみると、彼女の頭は下にある。
百七十五センチある黒斗からすると、彼女の頭の位置からして百五十後半といったところだろう。
「わたしはサリアリア。愛称のサリーって呼ばれる方が好きかな」
「俺は……」
黒斗はどう名乗るべきかと、僅かに逡巡する。
こんな状況なのに、黒斗の脳裏にはオタク的な知識が脳裏を駆けめぐった。名字を持っているのは貴族だけの世界という可能性だ。
それを考慮すると、フルネームを名乗るのは良くないだろう。
「黒斗だ。よろしくサリー」
「ええ。よろしくね、クロト」
お互いに握手を交わしたあと、サリーが訊ねる。
「クロトはこれからどうするつもりかな?」
「元の場所に帰る方法を探したいけど、ここがどこかも分からないからなぁ……」
どうしたものか――と天を仰ぐと、サリーがそれなら、と笑った。
「近くの街まで案内するよ? 今はちょっとお仕事中だから、そのあとに……ってコトになるけど」
サリーの言葉に、黒斗は願ってもないことだとうなずく。
「お願いしてもいい? ついでに自分の常識とこの辺りの常識を照らし合わせたい」
「OK。じゃあ、歩きながらでいいかな?」
「もちろん」
そうして二人は歩き始め――ふと、黒斗が訊ねた。
「ところで、お仕事って何?」
少し先を歩いていたサリーは足を止めて振り返る。
ちょうど陽光が彼女を照らす。まるで女神のように光を纏った彼女が振り返り、笑顔で告げた。
「はぐれオーク退治」
本日は連載初日というコトで、もう一話アップします。