魔物の子供たち
しばらく三人で廃墟の探索を続けていると前を歩いていたガイルズが立ち止まり、こちらを振り返ってきた。
「なにやら血の臭いがする。それも古いんじゃねぇ、結構新しい臭いだ。」
改めてそこで僕とミリは周囲注意深く観察し、ガイルズと同じように感じ取る。
どうやら臭いは大きく開いた穴のほうから臭ってくる。
そこで僕はその穴を覗き込むと、どうやらここは地下水路に繋がっている穴みたいだ、と二人に告げた。
どちらにせよまだ生き残っている人たちがいるかもしれないので三人で降りた。
三人で降りた地下水路は主に下水処理として使われていたであろうものであったが、人が居なくなって久しく、廃墟となった地下水路は特別変な臭いはなかったが濃厚な血の匂いが漂っている。
三人は緊張感を纏いつつ、発生源となっているであろう方向に無言で注意深く進む。
グチャグチャクチャペチャ…
少し歩くとなにやら湿って粘ついた水音が曲がり角の先から聞こえてきた。
「!!」
そこを曲がると地下水路の袋小路であろう場所を目にした瞬間僕はその見た光景に思わず言葉を失う。
鼻をツンと突く嫌な臭いと共に、あたり一面赤く染まった床、いくつかの人間のものであろう頭蓋骨や骨、他にそこでは人間のようなナニかが横たわり、中心では先ほど倒した二体の魔物より小さい三匹の魔物がソレに群がり貪っている。
「野郎っ、戦闘態勢だ!レヌ、ミリ! 一刻も早く辞めさせろ!」
その声に気付いたのか三匹の魔物がこちらを振り向き、襲い掛かってくるかと思いきや、
クォーン…グォオン…
三匹はこちらを見て怯えだす。とてもじゃないが戦闘できるような雰囲気ではない。
拍子抜けしたとばかりガイルズは戦闘態勢を解き、ゆっくりと三匹の怯える魔物に近づいて行く。そこで僕はこの子供の魔物たちの餌として与えるために討伐対象となった親であろう魔物は村を襲っていたのではないかとようやく理解した。
「ちょっと待ってほしいっ。まだこの魔物たちは…っ!」とガイルズに走り寄り肩を掴む。
そこでガイルズは分かっているといわんばかりに振り向いてこう言った。
「さっきもミリが言っていたがお前は優しすぎるんだレヌ。だがな時にその優しさが人を殺すこともあるんだって理解してほしい。こいつらが子供であるのも理解している。だけどな、一度味を占めた魔物が二度と人を襲わないだなんて保証もないし、魔物は襲ってくるもんだ。それにそんなんじゃいざというときに剣が鈍っちまう。お前は守りたいものがあるから俺から剣を教わったんだろう?」
そう言われて思わずミリのほうを振り返る。ミリはこっちをちょっと不安そうに見つめて気まずそうにこっちを見て苦笑い。
「お兄ちゃん、辛いなら無理しなくていいよ? この魔物は私たちで処分するし、それにそんな悲しそうなお兄ちゃんの顔はあんまり見たくなないよ。」
「そうだな、今回こいつらをやるのは俺とミリに任せてくれてもいい。だけどな、いつかは覚悟を決めなきゃいけない日が来るから覚えておいてくれ。」
二人に素直に後ろに下がる。情けない、こんな状態では守るどころか守られているだけではないか…
魔物たちはまだこちらを見て怯えている。
一瞬魔物がこっちを見て目が合った次の瞬間にはガイルズの剣の前に倒れ伏す。その次の魔物も詠唱を完了したミリの魔術により貫かれ絶命する。そして最後の一匹が涙を流して泣いていた。
ガイルズの最後の一刀のもとにゆっくりと沈んで辺りは静寂に包まれた。
***
「さすがに生きている人はいなかったみたい。救助や退治に乗り出すのも遅かったようだし、仕方ないとはいえ少し悲しいね。」
あの後、亡くなった人たちを地上に運び出し、安らかに眠れるようにと正神官であるミリが祈りを捧げ、三人で丁寧に埋葬した。
神殿だって生活する人がいて、寄付や依頼金といったもので成り立っている。
村や辺境に住んでいる人たちは貧しいものが多く、困っていてもお金が無い為に中々依頼を出せず、今回のように村全体が全滅してから依頼が出るといったことは日常茶飯事だ。
そんな中、どうしても優先順位が下がってしまう。
今の世の中、決して人の命は重いとは言えない。ましてや全員の人間が平等であるとも言い難い。お金が無ければ病気の治療だって難しいし、その日の食事にありつくのだって難しい人たちは大勢いる。
僕とミリは神殿たまたま運よく拾われて全く不自由はなかったとは言えないがそれなりに生きていけた。
拾ってくれた神殿には感謝してもしきれない。少しでも多くの人が幸せで平等になれるように、大切な人を守れるように、強くなると心に改めて誓った。
暗くなった夜空には見守っているかのように、蒼く輝く月が僕たちを優しく照らしている。