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短編、明るめ

彼女はネクロフィリア

作者: すもも

2018年7月 僕は死んだ、死亡原因は単純明快。心臓部を一突きされての一撃死。圧迫感は感じたはずだけれど、それほど痛みはなかったような気もする。死因は刺殺。原因はたったひとつの告白。


夕焼けに染まる放課後の空き教室に話がしたいからと呼び出したのは同じクラスメイトの菊嶋笑佳きくしまえみか エミリーという愛称で親しまれているツインテールの似合う女の子、 男子は揃ってかわいいという。僕もそのひとり。高鳴る胸を押さえながら僕は彼女を待つ、少しして菊嶋さんが教室にやってきた。

「あ、あの、来てくれてありがとう」

緊張で喉がからからになってカサついた声が出た。菊嶋さんが僕を見る、滅多に誰もこない教室なので舞っているのは埃だと知っているのに、夕陽を浴びてキラキラ反射するなかに居る菊嶋さんがとても綺麗にみえた。話を長引かせてしまうと切り出せなくなってしまう自分の性格を分かっているので僕は潔く頭を下げて右手を前に出す。

「俺と!付き合ってください!!」

17歳にして初めての告白。顔が熱くて心臓が飛び出そうなほど早鐘を打っている。文章で伝えたところで他の人と一緒にされて流されてしまうかもしれない、だから正面突破で伝えた。けれどいつまで経っても返事が返ってこずに僕は恐る恐る顔を上げた。そこには僕なんか見ていないで窓の外を眺める筧さんの姿があった。

「あ、あのぉ」

聞こえなかったなんてことは無いはず、大声で叫んだ。廊下に人がいれば、誰かが告白してるよーと笑い話されるくらいには大声だった。菊嶋さんが僕を見る。どんな返答が来るのかと僕は身を固くした。

「わたしのために死ぬ覚悟ある?」

え、死…?よく分からないが僕はその言葉に首を縦に振るった。

「もちろん、君のためなら死ねる!!」

そう叫んだ後の彼女のかわいさと言ったらたまらなかった。彼女の言葉の意味はよく分からなかったけれど、僕にはそれで十分だった。


夏休みに入って菊嶋さんの家へと招かれた時には飛び上がるほどに驚いた。嬉しかった。菊嶋さんの部屋は想像していた女の子ぽさはなく無機質な印象を受けたが、甘ったるい部屋を想像していた僕にとっては好感の持てる部屋だった。それにとても綺麗に掃除されている。自分の部屋を思い出し、掃除を徹底しようと心に決めた。部屋をざっと見た数秒で彼女が胸に飛び込んできた。嬉しいとか、大胆だとか、そういう気持ちが湧き上がるはずの行動なのに、たったひとつのもので台無しになっていた。彼女の両手に握られた、刃渡り17cmの包丁。一般家庭の何処にでもあるそれで僕の心臓を一突きしていた。

「わたしのために死んで」

この後に及んでも笑顔の菊嶋さんはかわいいな。なんて僕は場違いなことを思った。


これが顛末。あっけなく、簡単に、僕は死んだ。


その一週間後僕は目覚めた。菊嶋さんの部屋で、地に足をつけること叶わず、ホルマリン液に沈む自分の死体を見下ろして。

「マジか…」

ボソリと声を漏らした。がたがたと音がして振り返ると、部屋のドアが開いて笑顔の菊嶋さんと対面した。僕を見た彼女の顔から笑顔がすんと消えた。

「不法侵入!」

「違うよね!?俺が殺人者って叫ぶところだよね!?」

明後日な言葉を叫ぶ彼女に僕は心から叫んだ。


彼女が死体にしか恋が出来ないネクロフィリアだと知ったのは、霊体になってしまった僕を前にクッションを抱えながら説明してくれた後だった。


もっと早くに教えてくれればよかったのに

もっときれいな状態で死んであげられたのに

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