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どうして私がラスボスなんだ【更新停止中】  作者: 縹月草
今日から私も悪役令嬢?
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【5】私もそんなつもりじゃなかった。

 

 ーーアリリエスの予感は大体当たる。


 殿下に学院内を案内してからというもの、彼は何かとアリスを頼るようになった。

 というのも、最初は近くにいた人にお願いしようとしたようなのだが、ご令嬢が殺到したり水面下での無駄な争いが増えたりと大変だったようで……。


 その点アリスを指名すれば、公爵令嬢に何かをしようとする度胸のある人間もいなければ、アリリエスなら仕方がないと身を引くご令嬢も大半らしく、無駄な争いが生まれないと学んだらしい。


 こちらとしてはいい迷惑なのだが……それくらいならまだいい。問題はその手のことが察せず、堂々と踏み込んでくるタイプの人間がいるということだ。ちなみにこれには主人公エミリアが当てはまる。


「レオン様!アリス様!お二人もこの講義を受けられるのですね!」


 例のごとく、エミリアが駆け寄っては2人に声をかけていく。ここ数日間で見慣れた光景だ。しかしいきなり現れた人物に面白くない人もいるわけで。


「ちょっとあなた」


 くるっくるの巻き髪をふわふわさせてエミリアに声をかけるのは、レイチェル・フォン・アドニス侯爵令嬢だ。こちらアリスの取り巻きガールズの1人である。


「この間からお二人に対し馴れ馴れしくありませんこと?こちらは王太子殿下ことレオン様とレイウェル公爵令嬢のアリリエス様……あなたのような一般人が気安くお声を掛けて良い方々ではありませんのよ!」


 おお、流石悪役令嬢の取り巻きガール。ちょっと気取った感じがまたそれっぽいが、言っていることは間違っていない。この世界では比較的身分を重視する傾向にあるため、殿下は勿論レイウェル嬢にも気安く声をかけていいはずがなかった。


「えっ、そんな……私はただお友達にご挨拶をと」


 誰がお友達だ誰が。それに私はともかく殿下も含まれてないかそれ?さすがにダメだろう。その証拠に殿下の従者殿も一瞬顔が引きつった。なかなか表情を崩さない方だと思ったのに珍しい。殿下もなんと言って良いか考えあぐねているようだった。



 ーー面倒だが仕方ない。

 アリスは すっと姿勢を正すとしっかりした瞳をエリーに向ける。


「エミリア様、確かにここはご学友と切磋琢磨し仲を深めることの出来る場。

 ーーーですが同時に私たち女性にとっては、淑女としての礼儀 教養を高める場でもあるのです。ご友人だとしても、相手に配慮した挨拶、言葉遣いをするのが礼儀というもの。レイチェル様はその事をお伝えしているのですわ」


 相手を責めるでもなく、凛とした態度で告げるアリスの声は、その場にいる誰もを圧倒した。

 そんなアリスの言葉に、エミリアは顔を下に向けた。ーーおお、流石にきいたか。しかしまあこれも彼女に成長してもらう為である。間違ったことは言っていないつもりだ。



「わ、私……」


 か細い声がし、何やら言葉をつむぎだす。

 アリスは続きを待った。泣かせてしまったかなぁなんて、ちょっとした罪悪感と共に。


 ーーーそれが間違いだった。



「アリス様に認めて頂けるような立派な女性になります!!!」


 ばっと勢いよく顔をあげ、まっすぐ前を向くと声高らかに宣言するエミリア。ちょっとポジティブすぎやしないかい主人公。心なしかその瞳には尊敬の色が浮かんでいる。……ちょっと待った、何だその目は。

 また一つ嫌な予感がするアリスを他所に、エミリアは微笑むと丁寧にお辞儀をしてその場を後にした。


「え、と?」


「アリリエス様ったら……お優しすぎますわ。折角追っ払おうと思いましたのに」


 もう、と頬を膨らませて言うレイチェルに何も言えないアリス。違うんだ、私もそんなつもりじゃなかった。



 ◆



 それからというもの、前のように駆け寄ってこなくなったエミリアに対し、周囲からは様々な憶測と噂が立った。


「アリリエス様、とっても凛々しかったわね」

「私たちも見習って素敵な女性を目指さなければ」


 ーーーうふふと笑い合うご令嬢達。うん、可愛らしいから良し。


「レイウェル公爵令嬢に歯向かうから痛い目をみたのですわ」

「まあ、いい気味ですこと。所詮はわたくしたちと住む世界が違うということですわね」


 ーーー別に歯向かうとかではないけれど。それに この世界では身分は重要視されるけど、住む世界が違うとか、自分たちの方が偉いとか豪語するのはちょっと違うかな。


「なんでもレイウェル嬢と 殿下を取り合って争ったとか……」

「あのレイウェル公爵令嬢に叶うわけないですのに……」

「叶わぬ恋ですのね……」


 ーーーあのって何だあのって。第一取り合ってないし取り合う気もない。恐ろしい事を言わないでほしい。



「全く、アリリエス様がお優しいのをいいことに勝手なことばかり!」

「それもこれも全部あの子のせいですわ!」


 そう憤慨しているのはアリスの取り巻きガールズだ。

 当の本人はというと、遠い目をするだけだった。



 ーーその頃、噂のもう1人エミリアはというと……


「ちょっとカトレットさん?あなたアリリエス様を差し置いて殿下を奪おうとしたんですって?」


「わ、私がですか?」


 ーー絶賛ご令嬢方に囲まれていた。

 THE お嬢様な少女達に囲まれるとなかなか威圧感があり、エミリアが身構えるのも無理はなかった。

  彼女達はヒエラルキーのトップにいる(と思っている)、アリリエスの崇拝者である。


「惚けないでくださる?まったく……身の程知らずにも ほどがあるわ。」


「アリリエス様はかのレイウェル公爵令嬢ですのよ。成績優秀 容姿端麗で、あなたなんかに勝ち目はございませんわ」


 ですから、諦めてくださる?

 そう続けるご令嬢に、エミリアは疑問に思いながら自分の想いを告げた。


「わ、私はただアリス様に認めて頂けるような立派な女性になろうと!」



「「…………はい??」」



 ◆



「まあ、あなたそれで改心なされたのね」


「はいっ、アリス様のお言葉は私の胸にぐっときました!ですから、私はアリス様に認めて頂けるよう精進して参る所存です!」


 ーー先程までの険悪なムードは何処へやら。

 いつの間にか取り巻きガールズとエミリアによるアリリエスを讃える会となっていた。


「それは素晴らしいことですわ。ま、まあ……アリリエス様のお眼鏡に叶う女性となれば、そう簡単にはいかないでしょうけど?」


 ツンとした態度ではあるが、いかんせん雰囲気が柔らかくなっているので怖さは微塵も感じない。


「それは百も承知です!ですがアリス様のあの時の誠意にお応えするにはこれしかないのです」


「そうね……。それにしてもあなたさっきからアリス様アリス様ってご無礼じゃありませんこと?」


「そうでしょうか??私は親しみを込めてそうお呼びしております!アリス様に咎められたことは一度もありませんよ??」


 にこりと笑うエミリアに、取り巻きガールズはちょっと羨ましそうな顔をした。淑女としての言動を改めようとする彼女だが、この自由な考えはそうすぐには なおらないようだった。


「皆様もアリス様とお呼びしてみては??」


 名案だと言わんばかりのエミリアに、ご令嬢達は困ったような顔をする。流石に不敬では…?いやでもちょっと親しげで羨ましい……!


「そ、そんな……私たちは別に……」



 ーーーその後、アリリエス嬢のことを〝アリス様〟と呼ぶご令嬢が急増したのは、ひとえにエミリアの所為であった。


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