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どうして私がラスボスなんだ【更新停止中】  作者: 縹月草
今日から私も悪役令嬢?
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【3】驚いてないで早く助けてあげようよ

 それから無事 入学パーティーも終わりを迎え、何か忘れていることに気づく。


「あれ……主人公エリーに会ってない」


 おかしい。あの会場には いた…はず。

 ついつい忘れがちだがこの物語の主人公はエミリア・カトレット。通称エリーは貴族ではない為、高等部から入学するはずで、今日あの会場にいたはずだ。たぶん。えーと……他に何か情報あったかなぁ。


 会場にいた頃の熱を冷ます為、ミアの迎えが来るまで庭園を歩いていたアリスは ふとある事を思い出す。


「ーー王子、ぶつかる。エリー、閉じ込められる?」


 なんで早く思い出せないかな!私……!

 思い立ったが即行動。アリスは庭園を突っ切り、会場の裏あたりに来た。そう、主人公のエミリアは会場に着いて早々あの王太子殿下とぶつかってしまう。よろけた彼女を王子が支え、それを目撃したご令嬢達が主人公を裏庭倉庫に閉じ込めるのだ。なんて心の狭い……。というかどうして その場所知ってたの君達。


 倉庫からは 微かな物音が聞こえた。

 あぁやっぱりここにいたのね。なんて典型的な……通りで出会わないわけだ。

 そうして扉に手をかけるがどうやら鍵がかかっている。そりゃそうか、でなきゃ好きでこんなところに いないだろう。


 ーー魔法で鍵を壊すことも出来るかもしれないが、いかんせん うっかり山一つ消し飛ばした前科がある。人がいる手前 下手に破壊系は使えない。やはり誰かを呼ぶしか……。


「誰かいるのか」


 凛とした声があたりに響く。アリスはふと顔をあげるとそこには この事件のちょっとした元凶がいた。いやまあ彼も被害者だけれど。


「これは王太子殿下、」


 即座に完璧な礼をするアリリエスは、突然現れた第二王子に対する内心面倒臭い気持ちに蓋をした。

 彼はというと、今日会った少女達とは違って一切こちらを見ようとしないアリスに、少し意外そうな顔をした。


「あんたは……」


「アリリエス・フォン・レイウェルにございます。」


「そうか、レイウェル公の。それで……このようなところに何故?」


 レイウェルと聞いて少し納得したような顔の殿下は続きを促した。何を納得したのか気になるところだが、今は置いておく。


「はい、侍女の迎えが来るまでこの庭園を鑑賞していたのですが、なにやらこのあたりから物音が聞こえまして……」


 不思議に思い……と 少し不安そうにしながら ちらりと物置に視線をやる。すると彼は何かを察したようでスッとこちらへやって来て物置の前に立った。


「……鍵に魔法がかけられているな。少し離れていてくれ」


 殿下のご好意だか正義感だかに甘んじて ちゃっかりエリーの救出を試みる。

 するとあっさり魔法で開錠した殿下は躊躇いなく倉庫の扉を開けた。そこにいたのは、やはり主人公エミリアだった。


 関係者と思われるのも面倒なので(そもそも関係者ではない)、アリスは驚き、声にならない叫びをあげた。殿下もいくばかりか驚いた顔をしている。いや、驚いてないで早く助けてあげようよ。こんなところに閉じ込められて怖いでしょうに。


「あなた、お怪我はございませんか?こんなに冷えて……怖い思いをされたでしょう」


 エミリアの身体はだいぶ冷えていた。アリスは迷う事なく自分の羽織っていたローブを脱ぎエリーにかけてやった。うずくまっていた彼女は漸く顔をあげた。その茶色い瞳には涙の跡があった。


「あなた、が……助けてくれたのですか??」


 不安そうなその声にアリスは首を振る。


「いえ……私は通りがかっただけです。あなたを助けて下さったのは、こちらの方ですわ」


 そうして殿下に目を向けさせると殿下は少し戸惑い言葉を詰まらせた。……正直者だな。いいじゃないか全部自分の手柄で。

 それにアリスにとっても、主人公と このような形で出会うと思っていなかった為、彼女の記憶から薄れておきたいのだ。助けに来たのは急に思い出したからだし、こんなところで死んでしまっても困るというもの。今回は相手が卑怯だったしね…女の子をこんなところに閉じ込めておくなんて信じられない。

 それに結局のところ鍵を開けて救出したのは殿下だし、間違っていない。


 彼女から事情を聞くのは殿下に任せて、アリスは侍女の迎えが来たのを理由にその場を後にした。

 ……何か言いたげな視線を感じたが、この際気づかなかったことにする。



 ◆



「あぁ、今日は何だか疲れたわ……」


 公爵家に着くとドレスを脱ぎ捨てゆっくりとお風呂に入り、就寝の準備をした。


 ーーーとうとう物語が始まるのだ。


 物語の主人公エミリアに対し少しの危うさを感じるものの、アリリエスのこれからは彼女に左右されると言っても過言ではない。とりあえずイレギュラーではあるけれど彼女とも顔を合わせ、この学院に入学したことが分かったし。


 ……え?今日から悪役令嬢やるんじゃないかって?なんで助けちゃったのって?それはそれ、これはこれ。だって放っておけなかったんだもの……。

 それに今日はもう無理です。明日から嫌でも顔を合わせるのだろうし、明日からで。


 あとは彼女に存分に成長してもらって……事の成り行きを見守るしかない。私も精神を鍛えなければ。


 ーーアリリエスの苦悩は始まったばかりだ。


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