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どうして私がラスボスなんだ【更新停止中】  作者: 縹月草
今日から私も悪役令嬢?
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【2】入学パーティー?

「入学パーティー?」


「はい、高等部からは一般の方も入学されるからと、特別にパーティーを開かれるそうですわ」


「あぁ、それでドレスね」


 記憶を思い出し無茶した挙句にぶっ倒れたあの日から、身体の調子も魔力も戻ったアリスはドレスの採寸を行なっていた。魔法のある世界でもこういうのは人の手で行われる。手に職いいな。


「なんでも今年は王太子殿下もご入学なさるとか…それはもう入学殺到したそうですよ」


「王太子殿下ねぇ……」


 ここアルメリア王国には二人の王子がおり、今年入学されるのは第二王子の方らしい。第一王子も学院に通われているという噂も聞くが、公務が忙しいのか姿も見ないし そもそもあまり顔もよく知らない。

 その為今回第二王子が入学されると大々的に広まり、皆が浮き足立つのも無理はなかった。


「お嬢様は何を召されても美しいですが、ここはレイウェル公の名にかけて素晴らしいドレスを作りましょう!」


 ミアを筆頭に侍女達と仕立て屋のマダムがうきうきと採寸を始めた。こうなればあとは身をまかせるだけだ。とりあえずピンク以外にしてくれると嬉しい。



 ◆



 それからあっという間に高等部入学パーティーの日がやってきた。

 瞳と同じアクアブルーの淡いドレスを身に纏い、金の髪は緩く巻き、ハーフアップにした。髪飾りには桃色の花をモチーフにした飾りをつけ、アリスの美しさを一層引き立てている。そうして儚げな目をすれば立派な深窓のご令嬢だ。


「(あぁ……今日から私も悪役令嬢なのね……)」


 ーーー内心は別として。



 会場は色とりどりのドレス(やはりピンクが多い)に彩られ、可憐な少女達は王太子殿下の入場を今か今かと待ちわびていた。いつもはレイウェル公爵令嬢の顔色を伺う取り巻き達も今日はまだ姿を見せない。


 そんな中で王子のことなど考えもせず、ただ儚げな顔をし窓の外を眺めていれば見ているものには目立つというもの。


「あのご令嬢は」

「あの方がレイウェル公の……」

「今までほとんど社交界に姿を見せられなかった 彼のご令嬢がこれほどとは」


 遠くから眺める者が多い中、何人かの勇気ある男子生徒に声をかけられたアリスだが、体調が優れないというと彼らは残念そうに去っていった。



 ーーアリスの内心はそれどころではないのである。

 きっとこの会場のどこかにいる物語の主人公に、いつ出会うものかと考えたいた。


 アリスの決断は実際まだ決まっていない。

 主人公に関わるべきか否か、自分が何に絶望するのかすら思い出せていないのだ。前世を終えてしまった今、そう簡単に死にたくないと思うのは仕方のないこと。誰だって痛いのは嫌である。


 記憶を戻してからというもの、短い時間ではあったが自分の膨大な魔力を制御するべくこっそり鍛錬もした。何に絶望したとしても、耐え得る精神力を手に入れればよいのだ。

 今のところ波風立てずに育ったアリスとしては命を懸けて何かをする方が少々面倒なくらいだった。


 問題はゲームの補正がかかり、何としても自分が倒されるべく物語が進む可能性があるということだ。

 その時はひと思いに倒してほしい。その為には主人公にしっかりと成長して貰わなければならないのである。


 ーーーはぁ。


 悩みは尽きない。はたから見れば儚げに息をつくアリスだが、内心はこれから始まってしまうだろう面倒事に頭を悩ませているだけだった。そんな時。



 くすくす。


 少し抑えたような笑う声が聞こえた。本当に楽しそうに、ただ、場違いなそれを抑えようとしている感じの声。


 他の生徒の誘いの言葉は耳に入らないアリスだったが、その声は不思議と耳に入った。

 振り返るとそこには……黒青色の髪に碧眼のすらりとした青年が立っていた。不思議そうに見つめる少女の視線に気づいたのか、青年はまたくすりと笑った。


「あぁ失礼、パーティーなのに何だか浮かない顔をしていると思ってね。騒がしいのは嫌いかい?」


 このざわついた会場の中、さほど大きくもないのに凛としたその声は すっとアリリエスの耳に届いた。今までと違った問いかけに少々ぽかんとしたものの、すぐに表情を取り繕った。


「いえ……少し考え事をしておりまして」


 伏せ目がちに答えるとまた青年は微笑んでぽつりと呟いた。


「……王子の登場を待つよりも考え事を、ね」


 ーーあぁそうか、ここは周りに合わせてきゃっきゃうふふ としておくべきだったのか。

 漸く自分が少々周りから浮いている事に気づいたアリスは少し遠い目をした。気づいたからといってあそこに混ざる気力もないけれど。


 そんなアリスの心境が伝わったのか、青年は始終楽しそうだった。そんなに王子に目がいかない子女が珍しいか??……珍しいか。


「……君はそのままでいいと思うよ」


 にこりと青年が笑いかけた時、会場がひときわ大きくざわめいた。


「あぁほら、」


 ーーー第二王太子殿下の登場だ。


 金髪に青い瞳の彼は、遠目からでも美青年だとわかるほどだった。これはご令嬢達が騒ぐわけである。


 彼の名はレオン・アルメリア。この国の第二王子にして、優秀な魔導師である。既に北の森の魔物の討伐にも参加したとか。性格に難ありとも聞かないし将来有望株間違いなしだ。


「王太子殿下も大変なのね……」


 しみじみとそんな事を思うアリスの感想は、他とはちょっぴりズレていた。きゃっきゃうふふと騒ぎ立てるご令嬢達を遠目に見ながら、バレない程度に壁際へと移動していたアリスは先程の青年の姿が見えないことに気づく。


 ……なんだったのかしら??


 とはいえ名も知らぬ青年と こんなに会話をしたのは久しぶりだった。学院のパーティーだし また会うこともあるだろうかと ぼんやり思うアリスであった。



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