奴隷商ドンファン
辺境伯領へ帰ってきてクエスト報告をしていた頃、奴隷商のドンファンさんが合いたいと聞いていたためブロンさんに帰ってきた事を伝えて貰いに行った。
ギルドから帰ってくるとブロンさんは戻ってきておりドンファンさんから「明日お伺いさせて頂きます。」と伝言を受け取った。
午後から時間が空いたのでアリテシアさんがいつ来ても良い様にネルギエさんと一緒にスイーツの研究を行った。
蜂蜜を使うスイーツで現在揃っている材料で作れるスイーツだとパンケーキがベストだと考えた。
何故ならスイーツの知識が少なく、前世の知識を検索しても色々ありすぎて考えが纏まらなかったのだ。
パンケーキの材料としては小麦粉、卵、牛乳、砂糖、ベーキングパウダーなのだが、砂糖は少量ながらここ辺境伯領で買えるのでベーキングパウダー以外は揃う。
しかし、ベーキングパウダーって何じゃらほいと思って調べてみると炭酸水素ナトリウム、酒石酸塩または硫酸アルミニウムナトリウム、でんぷんを混ぜた物らしいのだがなんじゃそりゃ~!って感じだった。
前世ではありがたみも無くパンケーキを作っていたが一から材料を揃えると物凄く面倒くさい事を実感する。
で、炭酸水素ナトリウムっていうのは重曹の事なんだけど、これは無理をすれば作れることが分かった。
なんでも食塩を電気分解して、そこに二酸化炭素を入れて作るらしいので前世の知識から実験などで重曹を作っているのを見ながら実験を繰り返し2時間程掛かってやっと重曹が完了した。
酒石酸塩、硫酸アルミニウムナトリウムを前世の知識で検索してみた所、硫酸アルミニウムナトリウムは難しい化学式が色々と検索できるが頭が痛くなるので酒石酸塩の方を調べてみた。
酒石酸塩はワインの樽にたまる沈殿からカリウム塩として発見されたものらしく、ここでも手に入れやすいものなのでバルザックさんとレイソンさんに酒屋などに行って集めてもらう様お願いした。
最後にでんぷんだが、これはジャガイモや小麦粉から取れるので小学生の実験などを頼りに作り出した。
全ての材料が揃ったところでベーキングパウダーを作っている某企業を覗き見て配合率を確認してベーキングパウダーを作り出した。
材料が揃えばこっちのもので材料を混ぜ合わせてフライパンで焼きパンケーキを作り、ギュウルの乳から作ったバターを乗せて蜂蜜をかけて試作品が完成した。
試作品をエリナさんや館の皆に食べて貰った。俺も一口食べてみてパンケーキは前世の記憶にある味には劣るものの蜂蜜とバターは断然こっちの方が美味しく全体的に満足のいくものになりウンウン頷いていた。
そして周りの様子を確認していると皆幸せそうな顔をしていた。特にこういったものが好きな女性陣は頬を抑えて幸せそうな顔をしていた。
ただ、ひとりネルギエさんだけは料理人らしく現状の味に満足しておらず改善点を考えているようだった。
残りの試行錯誤はネルギエさんにお任せすることにした。
次の日、朝食が終わる頃に奴隷商のドンファンさんが俺を訪ねてきた。
「お久しぶりです。ドンファンさん先日は不在にしていて申し訳ありませんでした。」
応接間に入りドンファンさんへ挨拶を行った。ドンファンさんは直ぐに立ち上がり一礼した。
「こちらこそお忙しい所押しかけて申し訳ありません。」
俺はドンファンさんの挨拶を受け、席に座るよう促し自分も対面のソファーに座った。
俺が座ると同時にチェシャさんがハーブティーを出すと壁際へ控えた。
俺たちはお茶を一口飲んでから要件を聞いた。
何でもドンファンさんの恩人が戦闘奴隷になったらしく、何とかドンファンさんが引き取ったらしいのだが右腕、左足が無い状態らしい。
そしてドンファンさんの説明を聞く限り破傷風らしい症状を発症しているらしい。
ここまで聞けばドンファンさんが俺の元を訪れた理由はわかる。その恩人と言う人を救ってくれという事だろう。
多分だが救う事は可能だろう。しかしドンファンさんはブロンさん達を買った時の顔見知り程度だ。
奴隷商にしては男気溢れる人物で、ドンファンさんは自分の私財を投げうって恩人を引き取ったのだろうが、それは俺が手助けする理由にはならない。
別にお金が欲しいとか言っているわけではなく、何でもかんでも助けて行くと噂を聞いた人が押しかけてくるようになるし、治療院や回復薬を売っている店がなどが立ち行かなくなってしまう。
また、部位欠損を治す薬は作れるのだが素材を集めるのが面倒くさいのだ。
ドンファンさんは涙ながらにその恩人と出会った経緯などを説明してくるのだが可哀想とは思うのだが助ける気にはなれなかった。
ドンファンさんの説明が一段落した時に治療院などに連れて行かなかったのか聞いたところ治療院に連れて行ったのだが何をやっても改善しなかったらしい。
破傷風も軽症の段階ならポーションの上級で治ると思うんだが最上級クラスでないと治らない位悪化しているのだろう。
ドンファンさんは命を助けてくれたら金貨10枚。部位欠損を治したら金貨100枚支払いますと頭を下げてきた。
ふ~む。あまり気乗りはしないがブロンさん達がお世話になったので破傷風の治療はしても良いかなという気になりドンファンさんには症状を見ない事には何とも言えませんと言い恩人さんがいる所へ案内して貰う事にした。
エリナさんは拠点でシュテーナちゃん達と錬金術の練習をしているため一人でドンファンさんの馬車に同乗していった。
どうやらドンファンさんの店では無くドンファンさんの住まいの方にいるらしい。馬車は高級住宅街を通り俺の館から10分程経った頃スピードが落ちた。どうやら到着したようだった。
門を抜けて少しすると家の前に到着した様で馬車が止まりドアが開いた。
ドンファンさんが先に降りて俺を案内する。ドンファンさんは執事やメイドから「おかえりなさいませ。」の挨拶に頷くだけで俺を先導して恩人がいるであろう部屋へと突き進んでいった。
部屋の前に到着すると扉をノックすると中で待機しているメイドが扉を開いた。
ドンファンさんはメイドに留守中の様子を確認すると現在は落ち着いているが少し前に苦しんでいたと報告していた。
ドンファンさんに続いて部屋に入るとベッドで意識を失っている白髪の男が倒れていた。
「シュン様、こちらがお話しした私の恩人であるチャーチル様です。」
俺は頷いてからチャーチルと呼ばれた男に近づいて行く。額に手を当てると熱があるのがわかり許可を取ってから布団を捲り傷跡を確認した。
無くなっている腕と足の対処が悪かったようで包帯の上からでもわかる位傷跡が紫色になっていた。体が痙攣する感覚も短くなってきているようで余命幾ばくもない状態であった。
俺はドンファンさんに傷跡の包帯を取るように指示し、アイテムボックスから最上級のポーションを取り出した。
メイドさんがチャーチルさんの包帯を取ると俺は水で傷跡を流し、ポーションを振りかけると傷跡が綺麗な状態になっていく。
前世の知識がある俺は相変わらずこの光景が理解できない。
俺が作った薬なのだがどういった理由でこんな綺麗に治っていくのか分からないのだ。事実としてこの現象があるというだけだった。
腕と足それぞれ治療した後、寝ているチャーチルさんにゆっくりとポーションを飲ませて行く。
チャーチルさんはポーションを飲み下すと荒い息が徐々に収まっていった。
少しの間様子をみていたがチャーチルさんの状態は安定した様でこっそりと分析の魔法陣で状態を確認したところ部位欠損以外問題ないという結果であった。
ドンファンさんはチャーチルさんの様子が良くなった事で涙ぐんだ顔でお礼を言ってきた。
病人がいる場所で話をするのも問題と思い部屋を出てからドンファンさんへポーションと部位欠損の薬を手渡した。
ポーションはチャーチルさんの熱がまた上がるようであれば飲ませるように指示し、部位欠損の薬は2部位も欠損があるので病が癒えて体力が回復してから飲ませるように話をした。
今すぐ飲ませると体力不足で反対に危険な状態になるので特に注意する様に言って置いた。
ドンファンさんはお金を支払おうとしたが治ってからで良いと話し、部位欠損の治療を誤魔化すために何人かの治療師を家に招くようにして下さいと依頼しておいた。
あ~、なんだかんだ考えたけど結局薬を渡してしまうんだなぁ~。
また部位欠損薬の素材を集めに行っとくかな。蟲の谷へは移動ドアですぐに行けるから一日で集めれるだろうけど。




