蟲の谷への依頼
昼食に前世で大っ嫌いだったチーズが出た事で今世で今までに感じたことが無いプレッシャーを受けた。
ネルギエさんが一生懸命作ってくれた料理を食べずに残すことが出来ないため渾身の力を振るって一口食べたところ普通に食すことが出来た。
なんと地球が俺の肉体を作る時に食べれるようにしてくれたらしい大感謝だ。
前世であんなに食べる事が出来なかったチーズを食べれたことで初めてグラタンチックな物を食べた。
アツアツで思ったより食べ応えがあった。前世のように香辛料が豊富でない中でこの味を作り出す技術に脱帽だ。
皆で美味しく昼食を頂いたあと少ししてからギルドへと向かった。
ギルドからの呼び出しにドキドキしながらエリナさんと散歩感覚で街を歩いていると孤児の子供たちが元気に走り回っていた。
この間の角ウサギの解体作業で知り合ったギルドの職員から解体所の清掃仕事を貰えるようになったようで多少なりともお金を手に入れる手段が増えたみたいで食事もある程度マシになったと聞いた。
もう少ししっかりとした仕事が考えられればいいんだけどすぐには思いつかないな。
そんなことを考えているとあっという間にギルドに到着した。
昼間のギルドは人もまばらで職員たちも事務仕事がメインの様で皆下を向きながら何か書いている、
そんな事務仕事をしている人たちの中にアリテシアさんを見つけて話しかけた。
「こんにちは。アリテシアさん最近これなくて済みませんでした。」
「こんにちは。シュンさん、エリナさん。お呼びだてして申し訳ございません。」
「いえいえ、問題ないですよ。急ぎの予定も終わったのでのんびりしてただけなので。」
俺がのんびりしてただけと言った事で反対に恐縮させてしまった。
こういう相手を思いやれない事が多々あるのがダメなところなんだろうな。
「んっうん。今回お呼びたてしたのは、前にシュンさんが蟲の谷に住んでいたと伺いました。その件でひとつ依頼を受けて頂けないかご相談したかったからです。」
「あ~、そういえば前にそんな話しましたね。」
「はい。ギルドに依頼が来てからもう1年以上達成していない依頼がありまして。その依頼を受けて頂けないかと。」
「ほう。どんな依頼なのですか?蟲の谷なんてその名の通り蟲しかいなかったと思うけど。」
「依頼書はこれになります。依頼者は無類の甘党で昔王家の晩餐会で出たジャインビーの蜂蜜を食べたことから、その美味しさに心打たれ夢に見る程らしくギルドに依頼を出されました。しかし蟲の谷に行くこと自体難易度が高くさらにジャインビーの巣を見つけて蜂蜜を入手するのは高ランクパーティーでも死を覚悟するほどです。」
「あ~、たしかにあいつ等崖の途中に巣を作るから面倒なんだよね~。」
「そうなんですか?シュンさん。ローラーンさん達にあげてたから簡単に手に入るのかと思ってました。」
「え?あげた?何をですか?蜂蜜持ってらっしゃったんですか?それを他人にあげた?ただで?・・・え?」
エリナさんがジャインビーの蜂蜜をローラーンさん達が妖精酒を作るために提供したことを呟くとそれを聞いたアリテシアさんがいきなり壊れた。
アリテシアさんが正常に戻るまで暫く待っていると混乱から回復したところで顔を真っ赤にしていた。
「申し訳ありません。ありえない話をきいてしまい混乱してしまいました。先ほどの話ではシュンさんはジャインビーの蜂蜜を入手したことがあると思われます。今回この依頼をお受け頂けないでしょうか?この壺一つ分集めて頂く事で依頼達成となります。」
そう言ってアリテシアさんは小さな壺を一つ出してきた。壺の大きさはグイ飲みグラスくらいの大きさで、その報酬は金貨30枚らしい。こんな小さな壺ひとつで金貨30枚ってどんだけ高級品なんだよ。
俺達が依頼書を眺めて呆気に取られているとアリテシアさんがこちらを伺う様に声をかけてきた。
「危険度の割に依頼料が少なく感じるかもしれませんが、これでもギルドの基準に則っており出来る限りの報酬となっております。ただ、そのため受けてくれる人が居ないのも事実ですが・・・。」
最後の方は小声で呟くように言っていたが耳の良い俺は聞き逃さなかった。
「いえ。こんな小さな壺一つで金貨30枚って、すごい高級品なんだなって思ってました。」
「それで、お受け頂けますでしょうか?命の危険もあるため無理にとはいいません。」
「いいですよ。蜂蜜持ってくればいいんですよね?」
あっさりと依頼を受ける発言をするとアリテシアさんがピタリと固まった。
出会った頃は颯爽として出来るキャリアウーマンのイメージだったが、最近のアリテシアさんはどこか抜けてる新人OLのイメージになっている。
また再起動するまで待っていると顔を真っ赤にしたアリテシアさん動き出した。
「シュンさん、蟲の谷に住んでたのでご存じだと思いますがとても危険な依頼ですよ?本当に受けて頂けるのでしょうか?」
「ええ。あいつらが集める花粉って何なのか知らないですけど旬って概念が無いのか1年中蜂蜜がありますからね。巣さえ見つければサクッと取ってきますよ。」
「そんな簡単に仰いますが、過去に高ランクの方が取りに行って数名死亡されています。本当に無理はなさらないで下さい。」
「はい。無理するつもりはありませんのでご心配なさらず。ただ、私たちが居ない間もシュテーナちゃん達が納品に来ると思いますのでそちらをお願いしますね。」
「はい、シュテーナさん達が納品して下さるポーションも品質が良くギルド員たちに人気なんです。あの可愛らしい子たちが作ったと評判なんですよ。」
どうやら今世もロリコンが多いっぽい。確かにむさ苦しいおっさんが作った物と可愛らしい女性が作った物ならばどちらを買うかと言ったら後者だろう、これは世の常なのかも知れないな。
ジャインビーの蜂蜜採取の依頼を受けたのだが、蟲の谷までは移動ドアを使えば拠点からの移動になるのでそんなに時間はかからない。しかし、それを実行すると異常な速さで行って帰ってくることになる。
一応誤魔化すために普通に行ったと仮定して色々と買い物をして誤魔化す必要がある。
エリナさんとこそこそ話をして保存食になりそうな干し肉や堅パンなどを買っていく。
館に戻って明日から依頼で蟲の谷に行くことを告げて、暫く拠点をベースに過ごす事を告げた。
まあ、館と拠点は移動ドアで繋がってるのでまったく問題はないのだが。
次の日、一応ギルドによってアリテシアさんに行ってきますと伝えてから辺境伯領を出立した。
道なき道を進んで人がこない場所で移動ドアを出して拠点に移動した。
設置した移動ドアにはゴーレムを配置して魔物にドアを壊されない様にしておくのを忘れない。
一度ゴブリンに壊されてから必ずゴーレムを配置するようになったのだ。
拠点に帰ってくると死にそうな顔をしながら樽を作っているアロン君がいた。
何でもローラーンさんが張り切って色々なお酒を造るために大量に樽が欲しいとの事でお願い(脅迫)されたのだそうだ。
とても悲しそうな顔をしていたので、蟲の谷へ行くのを遅らせて樽作りを手伝う事にした。
俺が樽作りを手伝う間、エリナさんは素材集めの時に一緒に集めた種や籾を育てるらしい。俺が手伝う事を伝えた後、ローラーンさんがこっそりエリナさんに近づいたのは見なかったことにした。
時間の制限もないのでゆっくりしていいしね。のんびりと樽作りを手伝うのだがアロン君からの指摘が厳しいのなんのって。
本当に職人になってるんじゃない?
アロン君は本当に優秀で一日に10樽も作るほど早く作ることが出来、他の人が作ってくれている板材にも厳しい指示をしているほどだ。
このまま職人街道を真っすぐ進んでも食べていけるだろう。
そんな日々を過ごす事数日。
エリナさんが育てている果物や穀物、野菜などがある程度目途が立ったため蟲の谷へ行くことにした。
ゴーレム馬を出して拠点を走り出すとエリナさんがはしゃいでいるのか凄い勢いで走り出した。
確か村へ行くときも同じようなことをやってたな。エリナさんはゴーレム馬が苦手なんだろうな。
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁとか言って可愛らしいもんだ。
俺は笑顔になりながらエリナさんを追いかけるのだった。




