苦手
緊急依頼討伐隊のエドモントは頭を抱えていた。
討伐対象がマンドラゴラと判明し、その討伐を行おうにも危険度が高すぎるが遠く離れている分には危険がないため一ギルド職員がギルド員を危険にさらしてまで討伐する決断を下すには荷が重すぎた。
マンドラゴラと判明し次第ギルドに報告を行い討伐方法を確認しているが自分もマンドラゴラの生態を調べた時に良い情報が得られなかった記憶があるため返事が来るまで時間がかかるだろう。
しかし、この討伐隊を一時撤退させるにしても本部からの回答を待ってからになる。
今回の討伐に来ているパーティが何度か討伐を試みたが一匹倒すだけで数時間かかり、数名が死なないまでも意識を失うことになっている。
この森に何体のマンドラゴラがいるのかわからんが、この調子で討伐を続けると数年がかりの討伐になるだろう。
くっ!なんて不甲斐ないんだ。
何年もギルド職員をしているのに討伐方法の提案もできないなんて。
皆が調べてきたマンドラゴラ分布図を頭を抱えながらみていると外から馬が走ってくる音が聞こえてきた。
ドタドタドタ!バサッ!
馬から降りてテントに走り込んできた者を見ると伝達に走ったギルド職員だった。
「はぁはぁはぁ。エドモントさんお待たせしました。ルシティベルザさんから手紙を預かってきました。こちらです。」
ギルド職員は息を切らせながら手紙を渡してきた。私は伝達を行ってくれた者を労い手紙を確認する。
「・・・・・・は?」
私は手紙を読むと違う意味で頭を抱えてしまった。ルシティベルザ副ギルドマスターは頭がおかしくなってしまったのだろうか?
本当にこの手紙の通りにすれば安全に狩れるというのか?
しかもマンドラゴラの見つけ方も書いてある通りならこんなに簡単な物はない。
悩んでいても仕方ない。手紙にもある通り検証もかねているからやってみる価値があるだろう。都合の良い事に各パーティに魔術師は1名ずついるのだ。
まずは全員で一番近いマンドラゴラの所で検証してみよう。
丁度各パーティの朝食が終わりミーティングの時間になったので手紙の内容を説明し、全員で一番近いマンドラゴラの所まで移動した。
分布図を見ながら森を進んでいくとマンドラゴラの近くになると全員で近くの葉を観察すると葉の先端が黄色くなっている葉が見つかった。
その葉から蔓を辿っていくと土に繋がる箇所が黄色くなっている。
「おいおい。まじかよ・・・。本当に黄色いぜ。」
「あそこに土魔法でマンドラゴラごと持ち上げるだけって本当か?」
「副ギルドマスターからの手紙にはそうあるって話だぜ。」
「確かにマンドラゴラの見つけ方は合ってたが、討伐方法が合ってるとは限らないからな。」
「エドモントさん。私がストーンウォールで持ち上げてみます。」
「うむ。慎重にな。」
エドモントが同意すると魔術師が大地に手を当て呪文を口ずさみ始めた。
1分程呪文を唱え続けていると魔法が完成した。
「ストーンウォーーール!」
呪文名を唱えるとマンドラゴラがいるであろう箇所の土が持ち上がり土の壁が出来上がった。
魔力の節約のため数秒で土の壁を消すとポトっと何かが落ちてきた。
マンドラゴラだ。本当に鳴き声も出さずに大地に落ちている。マンドラゴラから伸びる蔓を見ると葉も元気がなくなっている様に見える。
本当に死んでいるのか確認するため弓で矢を射ってもらい数本後にマンドラゴラに刺さるも何も反応がない。
戦士の一人がゆっくりと近づいてマンドラゴラに触れるも反応が無く本当に死んでいるようだ。
「マジであっさりと倒せたみたいだな・・・。」
「ああ。」
全員あっさりと倒せた事で呆気に取られている。手紙には蔓も強度があるため良い素材になるため持ち帰って欲しいと書いてあったため、絡まった蔓を外してマンドラゴラを確保する。
念のため近くのマンドラゴラにも同じように試してみたがあっさりと倒せてしまった。
状況を整理するために我々は一度拠点に戻った。
「ふ~。さて、皆マンドラゴラを討伐したが各自思った事を報告してくれ。」
「え~っと。こんな方法試した人って誰ですか?こんなの思いつかないでしょ?」
この言葉に皆が頷いている。たしかに魔物を討伐する時に魔法を使う場合は直接ぶつけるのが普通だ。
この方法を知らなかった時に魔法を直接ぶつけたのだが、マンドラゴラが叫び声を上げてしまい魔術師が気絶してしまった。
「ほんとほんと。あまりにもあっさり倒したから呆気に取られたけど安全に狩れるのがいいね。」
「そうそう、マンドラゴラって何かの薬とかにも使えるんでしょ?新人の小遣い稼ぎにもいいんじゃないですかね?慎重にマンドラゴラを探してあっさり倒す。使うのは魔力だけ。ただ調子に乗る奴がでて死ぬ可能性もあるけど。」
「「ははははは」」
ここ数日の張り詰めた緊張が一気に緩和して良い感じになった。
各自の報告を聞き、午後から各パーティに分かれて討伐に向かってもらい。私は報告書を書き討伐したマンドラゴラと共に伝達員に持たせて本部へと走らせた。
この討伐方法であれば新人でも狩れるし応援として寄こして貰えば2週間ほどで森を一通り見て回れるだろう。
とりあえず討伐の目途が立ったことに安心を覚えたのだった。
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マンドラゴラ討伐方法を伝えてから3日後、ローラーンさんからのお願いを叶えるのに3日かかってしまった。
ブロンさん達みんなにそれぞれ買い集めて貰って、俺も辺境伯領だけで集めきれなかったため近くの村まで走りお酒の原料を集めてきたのだ。
ついでに種籾なども分けて貰えたため拠点で育てる事もできるため村長にローラーンさんと一緒にお願いしておいた。
村長はお酒が飲めるのが嬉しいため全面的に協力すると約束してくれた。
やることが一段落したのでエリナさんと紅茶を飲んでいるとギルドに納品に行っていたシュテーナちゃんとルールチェちゃんが戻ってきた。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。一緒に紅茶を頂きませんか?」
エリナさんが紅茶に誘うとキンキスさんが二人分の紅茶の準備を始めた。
エリナさんがキンキスさんにお礼を言うとシュテーナちゃんとルールチェちゃんもお礼を言っていた。
うん。お礼が言えるのは良いことだね。
紅茶を飲んで一息ついたシュテーナちゃんがギルドから預かってきた言伝を伝えてきた。
「シュンさん、アリテシアさんがギルドに顔を出して欲しいと伝言がありました。」
「あ~、最近ギルドに顔出してなかったもんね~。りょうか~い。今日の午後にでも顔出してみるよ。」
「ローラーンさんからのお願いで皆走り回ってましたからね。私とルーちゃんもエルフの森で果物いっぱい集めました!」
シュテーナちゃんが笑顔で最近の出来事を話した。それに笑顔で答えるルールチェちゃんも最近よく笑う様になって良い傾向だ。
エリナさんとシュテーナちゃん、ルールチェちゃんが女子会をしているのを眺めながら久しぶりの優雅な一時を楽しんでいると時間が経つのも早いものでチェシャさんがお昼の準備が整ったと伝えにきた。
皆で食堂に行くとネルギエさんが会心の料理が出来たと胸を張っていた。
席に着き料理が出てくるのを待っているとワゴンに乗った料理がやってきた。
会心の料理かぁ。ネルギエさんの料理は美味しいから楽しみだぜ。
料理が目の前に出てくると俺の料理から漂う匂いに前世の記憶が刺激される・・・。
こ、この匂いは・・・俺の額からは尋常じゃないほどの汗が流れる感じがする。
前世でまったく食べる事が出来なかった食材・・・そう!チーズの匂いだ!
ま、まさか今世まで存在するとは思わなかったぜ。前世では匂い味ともに苦手で口に含むだけで「うげっ」となる程で小さいころから苦手だった。
今まで出会わなかったからすっかり忘れていたが確かに牛乳らしきものがあるので存在していても不思議ではない。
ネルギエさんが作った料理はグラタンに似た料理で見た目は美味しそうだ。
皆で頂きますをしてエリナさん達が美味しそうに食べているのを見て俺もスプーンを持ち料理を掬おうとするも異常なほど手が震えてしまう。
これは俺に課せられた試練なのか?せっかくネルギエさんが一生懸命考案して作ってくれた料理だ。
それを前世で嫌いだったからと言って一口も食さずにいるのは失礼にあたるだろう。
前世の俺が苦手だったと皆に気づかれる前に食べてみるしかない。もしかしたら食べられるかもしれないのだ。
ぐっと腹に力を入れ目を瞑りながらグラタンもどきを口に含む・・・。
・・・。
・・・・・ん?食べれる。いや、美味しいと感じるぞ?
【ふふふ、シュン。チーズを食べれるようにしておいたのを感謝してね。】
地球が俺の体を作る時に前世の苦手だったものを食べれるようにしておいてくれたらしい。
さすがに思い出した記憶までは改ざんする事をしなかったためチーズが苦手と言う意識は消えていなかったらしい。
俺は地球が目の前にいたら抱き着いてキスをするくらい感謝したのだった。




