ローラーンがんばる
その日、俺は朝早くからシェリアリアスに起こされて拠点で朝日を浴びていた。
「ふぁ~。う~ん。眠い・・・こんな朝早くからどうしたの?」
俺はシェリアリアスに問いかけると「いいからいいから!」と朝からテンション高い返答が返ってきた。
こっちは太陽が出てもいない時間から起こされているからまだ眠気がすごい歩いているのが不思議なほどだ。
布団で心地よく寝てた所シェリアリアスのドロップキックが頬に突き刺さり「ほへぇ?」となったところで眉間にナックルがぶち込まれた。
妖精の小さい拳とは言え眉間の丁度良い所に当たると痛いのなんのって・・・さすがに一瞬で目覚めるとシェリアリアスがいて拠点まで来て欲しいと呼び出された。
もう少し優しく起こせないんだろうか・・・?今度エリナさんに教育してもらおうと心に誓った。
朝日を浴びながら妖精達が住んでいる場所まで行くとローラーンさんが踊りながら出迎えてくれた。
「シュンさん、おはようございます。朝早くからお越し頂き申し訳ございません。」
「ローラーンさん、おはようございます。どうされたんですか?こんなに朝早くから呼び出すって。」
「それはシュンが拠点に来るのが夕方とかばっかりだからよ。私たち妖精族が相談して決めた事を聞き入れて欲しくって。」
ローラーンさんが答える前にシェリアリアスが呼び出した理由を答える。
どうやら妖精族の皆で話し合いをして何かしら決めて俺の許可が欲しいらしい。一体なんの話し合いを行っていたんだろうか?拠点を出ていくって話か?それだと引き留めたいが俺自身普段から夕方から夜くらいしか来てないから説得力がなくなってしまうしな。
「シュンさん、それでですね。先日私はシュンさんからこちらの酒造管理を任されました。そこで私たちで話し合った結果皆さんに提供するお酒を切らすわけにはいかないと!そしてシュンさんが作られたワインと私たちが作った妖精酒の2種類だけです。これでは私たちにお任せいただいた酒造管理を果たせたとはいえません!私たちはこれから何種類ものお酒を作り皆さまに満足して頂かなくてはいけないと話し合いました。」
おおぅ。予想の斜め上を行く話し合いをしたものだ。俺自身はお酒は二十歳からと前世のルールに縛られているので、1年後位までそんなに飲むつもりはない。
その為、そこまでお酒に拘りがないのだが折角やる気を出している妖精達の願いを叶えてあげたいな。
お酒を寝かせる期間が必要だから丁度良いのかもしれないし。
「そして、シュンさんに色々なお酒を造る許可とお知恵を拝借させて頂きたく思いお越し頂きました。」
「なるほど。色々なお酒を造るのは問題ありませんよ。でも原材料はどうされるのですか?」
「はい。エールの大麦麦芽はエルフの皆様にご協力頂ける事になってます。しかし、私たちは妖精酒とエール以外お酒の種類を知りません。ワインもシュンさんが作られたのを教えて頂いた事で知りました。恥ずかしながら新しいお酒をご存知でしたら教えて頂きたいのです。」
お酒の種類かぁ。前世は下戸だったからあんまり飲んでないから知ってるのも少ないがワイン、シードル、ビール、日本酒、ブランデー、焼酎、ウォッカ、ジン、テキーラ、ラムなど有名どころは分かる。
しかし、それの作り方なんて知らないんだが俺には地球の知識を見ることが出来るので原材料と作り方を教える事は出来るだろう。ただ、この世界に原材料があるのか知らないから市場で見た近い原材料を提案して研究して貰うしかないだろう。
米は見たことがないので日本酒は作ることが出来ないだろうな。見つけてから教えても問題ないだろう。
シードルはリンゴを原材料にしているので、こちらの世界で近いアプルーを使って作ってみて貰えばいい。
ビールは麦芽は何とかなるとしてもビール酵母って作れるのかぁ?とりあえず調べるだけ調べてローラーンさんに任せよう。
ブランデーは蒸留と言う工程があるが一度鍛冶職人に相談して道具を作って貰う必要があるな。
焼酎は色んな種類から作れるので何とか頑張って貰うか。ウォッカ、ジン、ラムは何とか作れそうな原材料はあるな。
さすがにテキーラの原材料に近い物ってのがわからん。これは地球と相談してからだな。
俺は出来る限り近い原材料と作り方をローラーンさんに正確に伝えると目をランランと輝かせた妖精たちが集まってきた。妖精たちってお酒好きが多いんだろうか?
一通りお酒の造り方を説明すると妖精たちがテンション高く飛び回り始めた。朝日が昇っているがまだ朝早い時間だ。たぶん、妖精たちは寝ていないっぽいから異常なテンションになっているんだろう。
妖精たちの異常なテンションに呆気に取られながら眺めているとシェリアリアスが顔に張り付いてきた。
「シュン!色々なお酒の造り方を教えてくれてありがとう!私たち、いっぱいい~~っぱい頑張って作るからね!」
「あ、ああ。その・・・頑張って下さい。」
「うん!がんばるよー!」
そう返事をしたシェリアリアスが俺の頭の周りを飛んでいる。
冷静さを取り戻したローラーンさんが妖精達を鎮めてから俺にお願いをしてきた。お酒を造るための素材を出来る限り集めて貰えませんか?と。
おおう。どうやら俺から色々なお酒の造り方を聞いた事で自分たちで新しいお酒を研究したい気持ちになったのだろうか?
教えた素材以外も集めて欲しいと言われてしまった。
とりあえず、朝市に行ってお酒に出来そうな果物や野菜を買い集めてくる約束をして辺境伯領の館に戻った。
館に戻るとネルギエさんが朝食を作っており、朝の挨拶を交わしてリビングへと向かった。
リビングに入ると何故か分からないがシェリアリアスが紅茶を飲んでいた。
チェシャさんがポットを持っていることから紅茶を入れたのは彼女だろう。しかし、シェリアリアスが持てるコップに紅茶を注ぐことが出来る技術は目を見張るものがあるな。
どうやって注いだかわからないがシェリアリアスが飲んでるという事は注いだのだろう。
チェシャさんは俺に朝の挨拶をすると紅茶を入れてくれた。俺も挨拶を返してからソファーに座りシェリアリアスに声をかけた。
「シェリアリアス。どうして君は寝ずにここで紅茶を飲んでるのかな?」
「え?私も一緒に朝市に行こうと思って。」
「お、おう。そうか・・・ただ、朝市は皆で朝食を食べた後だからね。」
シェリアリアスは優雅に紅茶を飲みながら頷いていた。なんだろう、雰囲気だけは貴族っぽいから不思議だな。
俺たちが紅茶を飲んでいると皆が起きてきた。
ローラーンは、シュンを見送った後エルフの所に行きアロン君を起こしていた。
「アロンさん、起きて下さい。」
「う~ん、ローラーンさん?おはようございます。」
「はい。おはようございます。アロンさんにお願いがあってお伺いいたしました。」
「ん~。ふあ~ぁ。お願いですかぁ?」
「はい。私たちは本格的にお酒作りを始めます。そこでアロンさんにはお酒を収める樽を作って頂きたく思いまして。」
樽作りと聞いてアロンは急激に目が覚めた。ワイン作りの時に大量に樽を作った記憶。作っても作っても終わらない樽作り今回は妖精たちが本格的に作り始めるという宣言。
アロンはこれから訪れる地獄を認識し始めると部屋を出て外へ逃げ出した。
裸足のまま出来る限り遠くへローラーンさんが諦めるまで逃げ回るつもりで走り始めた。
この地に来てハイエルフになり、魔法の使い方を勉強して効果的な身体強化が出来る様になり普通のゴブリンであれば瞬殺出来る程の力を手に入れた。
寝起きとは言え発揮できる力は計り知れない。走っていれば体も温まりさらに逃げ切れる可能性が高くなるだろう。
朝食を食べていないからお腹からクゥ~という音が聞こえてくるが、ここは我慢のしどころだ。ここでお腹が空いたからと言って逃げるのをやめると地獄の樽作りが始まってしまう。
妖精たちの本気がどの程度か分からないが100樽では済まないだろう。妖精たちが木材を切ることなど出来ないだろうからそれも自分がやることになってしまう。
2~3か月は樽作りばっかりという地獄が目に浮かぶ。
少し目元に涙が滲むが逃げ切れば自分の勝ちだ!と思い走り出した。
・・・しかしあっさり妖精達に回り込まれてしまった。
アロンは迫りくる笑顔の妖精達に迫られて泣き笑いしながら樽作りを了承するのであった。




