ある日の出来事
のんびりと過ごす日々、久しぶりにギルドに行きポーションを収めてから依頼ボードを確認していると後ろから声をかけられた。
「あんた、あのハイエルフと一緒にいる奴だろ。こっちむけよ!」
そう言って、金髪で髪を後ろで縛ったロングヘアの男が俺の肩を掴んで振り向かせようとするが、おれはそっと横にずれて相手の手を回避した。
手を空振った金髪ロン毛は恥ずかしかったのか手を頭に持っていき何事も無かったかのように振る舞ったようで、俺の視界の隅で頭を掻いている姿がチラチラしている。
また面倒ごとか~?折角のんびりとした日々なのに面倒ごとはやめて欲しいんだけどなぁ。
「おい、あんたちょっと話があるんだが・・・」
俺は出来るだけ存在感を薄くしてこっそりと依頼ボードから離れて離脱を図ろうとするもあっさりバレて進行方向を塞がれてしまった。
「おい、無視するなよ。こっちは話があるって言っているんだ。」
「え~っと、おれに用はないよ?話があるのは君の方なんだから俺が無視しようとするのも勝手じゃないかな?しかも俺に用があるんじゃなくてエリナさんに用があるんだろ?」
「グッ、ランク1のくせに・・・ランク3に口答えするな!」
「んと、ランク1とか3とか関係ないよね?礼儀がなってない人にわざわざ反応を示す必要ないですよね?」
「ぐぐぐっ。年下の癖に年上に失礼だろぉが!」
「年齢云々関係なしに、面識のない人に「おい」とか「やつ」とか言うのが失礼では?」
「ギギギギギギギ・・・、ふう。。。すまん。確かにこちらが失礼だった。」
そう言って金髪ロン毛は頭を下げた。珍しく礼儀が多少はある人みたいなのでこちらも受け答えの仕方を変えようと思います。
「あなたの謝罪を受け取ります。それでご用件を伺いますが。」
「うむ。では、お茶でも飲みながら話を聞いて貰いたい、ギルドの併設飲食店で申し訳ないんだが。」
そう言って金髪ロン毛はギルドに併設されている飲食店へ行きお茶を買って席についた。俺は対面に座り「頂きます」と言ってお茶を啜った。
「では改めて、俺の名はガノトと言う。ランク3のギルド員で普段は3人でパーティを組んでいるんだが、この間討伐依頼で森に入ったのだが、討伐対象とは違ったアナガンガという蛇の魔物が現れて何とか逃げきったのだが仲間二人が毒を食い、毒消し草などを使ったんだが症状が改善されなくてな・・・。ギルドでも毒を消すための薬などを手に入れたのだが効き目が無く、ハイエルフの知識に頼ろうと声をかけたんだ。」
あ~、やっぱりちょっと面倒くさい話だなぁ~。仲間を助けたい気持ちはわかるけど、エリナさんにその手の知識は無いですよと言っても聞き入れないんだろうな。
合わせてもエリナさんが困る事になるし。。。はぁ、面倒くさい・・・どうやって断ろうか。
「え~っと、エリナさんは薬学の知識は無いので毒を消す薬草はごく一般的な毒消し草しか知りませんよ?会って話をしてもエリナさんが困ると思いますが。」
「それでも!それでも話をさせてくれ!少しでも仲間を助けられるなら、それに縋りたいんだ!」
ほら、憐憫の情に訴えかけてきた・・・。討伐依頼などで起こった出来事は自己責任で助けて貰えると思ってはならないとギルドブックにも書いてある。たぶん、過去にそれ関係で問題になったんだろうな。
「いえ、話しても無駄です。エリナさんは錬金術でポーションは作れますが、症状を確認して自分で新しい物を作るまでの技術はまだないですから。仲間を助けたいのはわかりますが、助ける手段があったとして貴方は何を対価として出す気なんですか?」
「た、対価だと・・・。同じギルド仲間を助けるのに対価を求めるのか!」
そう言ってガノトは激高して立ち上がり俺を睨みつけるが、俺は完全無視してお茶を啜った。
「助けるのに色々な材料が必要で、それから毒を消す薬を作るとしても材料・技術を無料で差し出せという事ですか?お話になりませんね。」
ガノトは歯を食いしばって何かを耐えていたが多少落ち着いたのかドカッ!と椅子に座り直した。
「ぐっ、確かにお前の言う通りだ。し、しかし俺たちは先の討伐依頼に失敗していて出せる物が・・・」
はい、また情に訴えかけてきた。本気で仲間を助けたいならすべてを投げうってでも対価を準備するんだけどな。俺の考えがドライすぎるのかな?エリナさんに知られたら我先にと助けようとするだろうな。
俺がそんな事を考えながらぼ~っとしていると、悩みまくっていたガノトは顔を上げた。
「お、俺が奴隷になってその代金で払う。それでどうだろうか?」
お、少しはマシになったな。お茶も飲み干したし噂の仲間さんの状態を確認しに行くことにした。
「あなたの覚悟は理解しました。では、あなたのお仲間に会わせて下さい。まずは状態を確認させて下さい。」
「ハイエルフに会わせてくれないのか?」
「先ほどもお話ししましたが、エリナさんでは対処できません。また、感染する病気の場合を考えて私が先に確認します。もしこれを断られるのであればこの話は終わりです。」
「ぐむ・・・わ、わかった案内する。ついて来てくれ。」
ガノトは一気にお茶を飲み切ると立ち上がった、俺も一緒に立ち上がりガノトの案内に従ってガノトの仲間がいる場所へと向かった。
ガノト達は安宿に泊っており三人が泊まっている部屋はベッドと小さな机と椅子があるだけの小さな部屋だった。
ベッドは一つだけ開いており残り二つには苦しむ男が寝ていた。
「この二人が俺の仲間のガムとギギだ。」
二人の頭には犬か猫の様な耳が生えており布団に入って見えないが多分尻尾がある獣人と思われる。
「二人は獣人で俺ら人族より毒耐性が高いから俺を先に逃がすために囮になったんだ。だから俺は助かったが代わりに二人がこんな目に・・・」
そう言って、ガノトは目に涙を浮かべて手を握り締めている。
俺は二人に近づき状態を確認すると毒独特の匂いだけでなく腐敗臭が微かに嗅ぎ取れた。どうやらアナガンガの毒は腐敗毒の様で通常の毒消しでは解毒出来ないようだ。
この症状はまだエリナさんでは解決できないだろう。さて、どう話を持っていくか・・・
「ガノトさん、ガムさんとギギさんは通常の毒では無く腐敗毒にかかっているようです。お二人から微かに腐敗臭が嗅ぎ取れます。」
「ふ、腐敗毒?なんだそれは・・・?」
「私も師匠の書いた資料の知識ですが体内に入った毒が血管を通って体の内部から腐敗させていくらしいです。腐敗の速度はそれほど早くないため、即座に死に至る事はないそうですが薬を手に入れることが難しいため苦しみが長く続いて死に至る病だそうです。」
「な、何の薬で治るんだ!今すぐ教えてくれ!たのむ!」
ガノトは俺の足にしがみ付いて頭を床につけながら治療薬を教えて欲しいと言ってきた。
「ガノトさん、落ち着いて下さい。薬の名前はコンプレッセと言います。」
何故前世のドイツ語で湿布を意味するコンプレッセという名前がついたのかわからんが腐敗毒を治す薬名である。
「コンプレック・・ス?」
「いやいや、コンプレッセです。」
何でコンプレックスやねん!ちゃんと聞いとけや!
「コンプレッセだな、わかった!今からギルドに行って買ってくる!」
「ちょ、ちょっと待ってガノトさん、行っても無駄ですよ。」
俺がそう言うとガノトはズザザザッザアアという感じで止まりだだだ!と、こっちに戻ってきた。
「無駄ってなんだ!もしかして、もう間に合わないのか?教えてくれ!」
「いえ、間に合わないでは無く、コンプレッセは無いはずですから。」
「ない?ギルドに無いのか!しかし、ギルドに頼んで取り寄せれば手に入るかもしれないだろう?」
「無理でしょう。師匠しか作れなかったと聞いていますし、師匠以上の錬金術師がこの辺境伯領にいたとは聞きません。」
俺がそう言うとガノトは膝から崩れ落ち泣き始めた。
泣き崩れるガノトの襟首を掴み持ち上げると頬をひっぱたいた。
「ガノトさん話は最後まで聞きなさい。私は師匠から作り方を教わっています。材料さえあればコンプレッセを作り出す事はできます。」
俺がそう伝えるとガノトは正気を取り戻し必要な材料を聞いてきた。必要な材料はありふれた物でそれを伝えるとガノトはまたダッシュで素材を買いに走った。
息を切らせたガノトが戻ってくるとサクッと作りガムさんとギギさんに飲ませると苦しそうにしていた二人の状態が落ち着き始める。
「な、治ったのか・・・?」
「毒が結構回っていましたし、体力も落ちていましたからゆっくり寝かせてあげて下さい。明日の朝にもう一度この薬を飲ませれば完全に腐敗毒は回復するでしょう。ですので、ガノトさんは看病をしてあげて下さい。」
そう言って俺は宿を出て自宅へと帰って行った。




