帰宅初日
帰宅する朝、村長に挨拶をして村人たちに見送られカルーゼ、エリナさん、アロンくん、シュテーナちゃんと共に俺の家に向かって出発した。
俺以外のメンバーは結構な荷物を持っていたため、俺のアイテムボックスに入れようか?と提案した所、今後旅をする時に必要な事だとやんわり拒否された。
俺は家のある方向をカルーゼに伝え、カルーゼ主導で旅を開始する。アロンくんとシュテーナちゃんに旅に必要な知識を伝えるため森を歩く時に注意する事などの講義が始まる。
「アロン、シュテーナ。今日からシュンの家まで約10日位の旅になる。まず森を~」
俺はカルーゼの講義をぼーっと聞きながら、近くに素材となるものが無いかキョロキョロしていた。すると、エリナさんが近づいてきた。
「シュンさん、何か探されているんですか?」
「あ、エリナさん。いえ、錬金に使える素材が無いかな~って思って周りを見てたんですよ。」
「錬金術ですか。それは私でも習えば出来るものなんでしょうか?」
「エリナさんは錬金術に興味があるんですか?」
「ええ、今回シュンさんに助けられなければ死んでいたと思います。私たちエルフは自然の薬草などで怪我などは治療できますが、病気などに掛かると旅の商人達から仕入れなければ自然治癒で治るのを祈る事しかできません。しかし、シュンさんはエルフの村にある素材だけで私たちの病気を治す薬を作りました。」
「あ~、それで錬金術を習えば村に病気が流行ってもって事ですね。」
「はい。この様な気持ちですが教えて頂けませんでしょうか?」
「ええ、私でよければお教えしますよ?」
「ほ、本当ですか?」
「はい。別に秘伝と言うわけでも無いですし、私の師匠の知識が広まることも嬉しいんですよ。」
「ありがとうございます。シュンさんは私のお師匠様ですね!」
「えーーー、いやいや、そんな大層な者じゃないですよ~。」
たぶん、俺は照れながらもすんごい笑顔だったと思う。なんせ、エリナさんが俺が嬉しそうな顔をしてるのを見て笑顔になってたから・・・。すんげー恥ずかしい。
そんな話をしながら歩いていると、カルーゼが立ち止まり周囲を警戒している。
「アロン、シュテーナ武器を構えろ。」
カルーゼが戦闘準備の支持を出すと、アロンくんとシュテーナちゃんが弓を出して矢を番える。エリナさんはサポートをするようで、弓をだすも矢を番えずに周りに注意を払う。
「アロン、シュテーナ右前方の岩の辺りを注意して見てみろ。」
アロンくんとシュテーナちゃんは岩の辺りを見ていると何か動くのを見つけたようだ。
「カルーゼさん、何か動いています。あれ一角ウサギですか?」
「そうだ。一角ウサギで旅をする時に掴まえて食料にするのに良い獲物だが、やつらは憶病で近寄るとすぐに逃げ出す。なのでやつらが気づかない距離で弓で攻撃するしかない。いいか、外すと逃げられるぞ。しっかり狙え。」
アロンくんとシュテーナちゃんはそう聞くと荷物をゆっくりと下ろし狙いを付けやすい位置にこっそりと移動する。狙いが定めやすい位置に移動した後、弓を引き搾り構えると同じタイミングで矢を放つと風切り音に気づいた一角ウサギはその場から逃げ出した。
アロンくんとシュテーナちゃんが放った矢は一角ウサギに当たらず地面に突き刺さる。
「あ~、くっそー。気づかれた~。」
二人はとても悔しそうに地団駄を踏んでいた。
「二人とも何故外れたかわかるか?」
「狙った所に飛んだんです。でも、矢が当たる前にウサギが動いたんですよ。」
シュテーナちゃんもウンウン頷いている。
「そうだな。確かにお前ら二人は狙った位置に矢を当てただろう。しかし、相手は生きているのだ。自分に危険が迫った時は必死に逃げるだろう。お前らも矢が飛んできた時にその場で止まったままいないだろう。」
カルーゼがそういうと、二人は頭を上下させ頷いていた。
「狩りは相手が動く事も考えて矢を撃たねばならん。さっき逃げた一角ウサギはどう逃げたか覚えているか?」
「一度左に飛んでから矢が飛んできた方向とは逆に走って行きました。」
「そうだな。一角ウサギから見て左が側は壁になっていた。なので右に一度飛んでから逃げたのだ。一角ウサギはあの耳を見ても分かるように音に敏感だ。矢から発生する風を切る音を聞き分けるのだろう。音を聞くと矢が届く前に逃げる可能性が高い。」
「えー!知ってたなら教えてよー!」
「ふむ。何事も経験なのだ。かく言う私も若かりし頃同じ失敗をしている。その時の経験が今も生きているのだ。お前ら二人も今一角ウサギを逃がした事で、次からどう矢を撃つか考える様になる。それは一角ウサギだけではなく、狙う獲物の特徴をよく観察し、どのように矢を放てば良いか分かってくる。次は外すなよ。」
「「はい。分かりました。」」
「うむ。ではあの外れた矢を回収だ。旅で矢を補充するのは難しい。撃った矢も出来る限り回収するように努めるのだ。」
「「はい。回収してきます。」」
二人はそういうと周りに注意しながら矢を回収しに行った。
「へぇ~、実戦形式で教えていくんだね。」
「まあ、私が若い頃に教えて貰ったことをそのまま伝えているだけなんだがな。」
カルーゼはそういうとニッとニヒルに笑い、アロンくんとシュテーナちゃんの荷物を持ち二人を追いかけていった。俺とエリナさんは顔を向き合い笑顔になりながら、カルーゼを追いかけるのだった。
一角ウサギと遭遇した後、空を飛ぶ鳥以外何にも遭遇せず順調に旅が進み昼を少し過ぎた辺りで、周りが開けた場所に着いたため昼休憩に入ると指示があり各自荷物を降ろし休憩を始める。
「シュンさん、干し肉とパンだけですがどうぞ食べて下さい。」
とエリナさんが干し肉とパンを差し出してきた。俺は申し訳ない思いだったが折角差し出された食事なのでありがたく受け取り、エリナさんと並んで食事を開始した。
「エリナさんは旅は初めてではないんですか?」
「はい。私もあの二人の様に一度人間の街まで旅をした事があります。」
「えっ!街って近いんですか?」
「いえ、私たちの街から大体2ヵ月位掛かりました。その時は村の特産品を持って行ったので20人位で旅しました。」
「ほえ~、そんなに遠いんですか。やっぱり、それなりの準備をしてから向かうしかないな~。」
「シュンさんは街に行きたいんですか?」
「いえ、街に行きたいっていうか、色々な所を見ながら旅をしてみたいんですよ。」
「まあ!それは楽しそうな旅になりそうですね、羨ましいです。」
「一緒に旅してみますか?あの扉が出来たので遠くに行っても私の拠点にすぐに戻れる予定です。村長の許可が下りれば、私の拠点とエルフ村を行き来できるようにできますし。」
「本当ですか!楽しみが増えました。父に話をして許可を取れるように頑張りますね。」
俺はニッコリほほ笑み。
「はい。色々と準備が必要なので、準備が揃うまでは錬金術の勉強をしっかりしましょう。」
「はい!」
そういうとエリナさんは満面の笑みを見せてくれるのであった。
暫く休憩しているとガサガサと草をかき分ける音が聞こえ、みんなが一斉に戦闘態勢に入り音がする方を見るとデカい牙が生えた猪が顔を出し、こっちを見つけるとシュテーナちゃんに向かって走り始めた。
「きゃあああああああ」
「シュテーナ!落ち着いてこっちに走ってこい。アロンは弓を射掛けろ。」
カルーゼがそう指示を出しながらも自ら弓で猪を射る。エリナさんも弓で猪を射るが矢が当たっても突進が止まらず、どんどんスピードを上げてシュテーナちゃんに向かう。
シュテーナちゃんは必死にカルーゼに向かって走るが、猪の方が足が速く追いつかれそうだった。
俺は猪がシュテーナちゃんに向かって走ると同じ位に走りは始めており、シュテーナちゃんにぶつかる前に猪の前に立ち塞がりテ〇ーマンが新幹線を止めた様に猪の突進を止めた。
10メートル位押し込まれるが何とか止める事ができ、猪を力づくでひっくり返した所でカルーゼがナイフで首を切り裂き止めを刺した。
「ふ~、何とかなったな~。シュテーナちゃん大丈夫だったかい?」
「はあ、はあ、はあ、は、はい。助けて頂きありがとうございました。」
「シュテーナ、今後同じように意識外のところから脅威が迫ってくる事がある。その時にどれだけ冷静に行動できるかで生存率が変わってくる。先ほどの様に叫ぶだけでは死んでしまうぞ。」
「は、はい。申し訳ありません。」
シュテーナちゃんはションボリしてしまった。エリナさんがシュテーナちゃんに近づき、小声でフォローをしていた。こういう時は男性より女性のフォローの方が効果が高いのだろう。
カルーゼはアロンくんを呼び、猪の血抜きを始めエリナさんのフォローが終わるとシュテーナちゃんも呼び解体の仕方を教え始めた。
シュテーナちゃんのフォローが終わったエリナさんが近づいてきた。
「カルーゼは全体が良く見えて、指示の出し方も的確だね。良い教え方だよ。」
「ええ、私もカルーゼさんに教わりました。シュテーナちゃんみたいに結構怒られましたよ。」
「エリナさんのフォローもその時の経験に基づくものですか?」
「ふふ、わかりますか?」
「何となくです。」
そう言いながらエリナさんと二人で猪の解体作業を見守るのだった。




